第27話 祝!初お風呂!
片付けが終わるとすでに夜になっていた。
今夜は、そう、今夜は!
凝りに凝って作った温泉に入るのだ!
解散してそれぞれの部屋に戻る。
歩くとめっちゃ時間がかかるから浮遊で寝室に戻った。
今までずっと最初に着ていた白いワンピースだけだったけれど、今日はパジャマを作ることにする。
どうしようか迷って、着てみたいって思いついたロンパースにした。1歳児はもうロンパース卒業の頃と聞いたことがあるけれど…欲しいんだもん!と1歳の心が言っている。
私はこの【幼児の気持ち】に逆らわないことにしたのだ。
普通のパジャマ用ロンパースを再構築、再構成で子猫シリーズの着ぐるみパジャマを何種類か作った。
あと、可愛い系の色々な下着を作成。お風呂用にフワフワの白いフェイスタオルとバスタオルを再構築する。
そしてウキウキしながら浮遊でなんちゃって温泉に向かった。
リビングに出ると、鳳蝶丸がワインセラーを設置しているところだった。
仕事が早いぜ、兄さん。
「おう、ワイン用出来上がったぜ」
「おちゅかえ、しゃま」
「お嬢はどこに行くんだ?」
「おふよよ」
「風呂?」
私はこれから温泉に入って浄化の疲れを癒すんだと説明した。
やはり、このテントに入る時清浄しているのに何で入るんだ?と言われちゃったので、気持ちが良いから~っとだけ伝えお風呂に向かおうとした。
「ちょっと待った」
「ん?」
「お嬢一人じゃ危ないだろう。浴槽も深かったし」
「一人で、だいじょぶ」
「いや、ダメだ。俺も行く」
えええええ!
一人でダメってことは一緒に入るってことだよね?!
「だって、わたち、おんにゃのこ。鳳蝶まゆ、男の子」
「確かにお嬢は女児だが、1歳何だから一緒に入っても恥ずかしくないだろう?」
恥ずかしいよ!
ん?恥ずかしいかな?
あれ、そんな恥ずかしくないな。【幼児の気持ち】絶賛発動中だった。
「風呂に入る時は俺達のどちらかと入ること」
「う、うん」
「一応ミスティルに声かけるか」
結局私は鳳蝶丸に抱っこされて、ミスティルの所へ行きお風呂に関しての説明をする。そしたら興味があるということで、三人で入ることになった。
私のお願いで女湯に入る。
脱衣所で着ているものをさっさと脱がされた。
二人も躊躇なく裸になる。伝説の武器だから性別ないかと思ったけれどしっかり男の人の体で、細いけれど筋肉が程よくついた美しい体躯だった。
二人と一緒のお風呂はもっともっと恥ずかしいのかと思ったけれど、やっぱり何の気持ちも動かない。
ただただ温泉が楽しみっていうワクワク感しか起こらずビックリ。
ありがとう、【幼児の気持ち】!
「かけ湯ちて、体、髪あやう。温しぇん、マニャーよ」
かけ湯だけ先に、とか全部洗ってから、とか場所によって色々あるみたい。
ここは自宅風呂みたいなものなのでマナーとか別にいいんだけれど、念のためこれで慣れてもらう。
「ここで洗えばいいのか?」
「うん」
三人で洗い場の椅子に座る。
シャワーや蛇口の使い方、顔や体、髪の洗い方を教えて先に済ませてもらった。
鳳蝶丸は漢らしくガシガシと洗うタイプで、ミスティルは私が言った通り丁寧に洗っている。
私は躊躇なくミスティルの所に行き、体や髪を洗ってもらった。
フェイスタオルを渡して三人で髪を拭き、ミスティルには大き目の髪留めで湯に髪が浸からないようまとめてもらう。
そしてまずは室内風呂にゆっくり浸かった。
あああぁぁ~
ふぅ~
きもちーーね!
三人で温泉の湯を堪能する。
鳳蝶丸なんて、どこかのおっさんみたいな声を漏らしている。
「これがお嬢の言う、気持ちがいい、か。確かに良いな。湯に溶けちまいそうだ」
「本当に気持ち良いですねぇ」
「でしょう~?」
内風呂をしっかり楽しんで、次は岩風呂に移動する。
半神だからか熱さは感じてものぼせることはない。もちろん二人もウル様につくられた体なのでのぼせない。長湯しても問題なし、楽しい。
「凄いですね」
「ああ。本当に外にいるみたいだな」
景色は夜。竹林と滝にライトアップがされている。
内風呂の室温より岩風呂の室温設定を低くしているから何となく外にいる気分が味わえるのだ。
夜空にぽっかり浮かぶ満月を眺めながらゆっくりと岩風呂を楽しむ三人であった。
「ここで酒が飲めるんだろう?」
「うん」
「いつ頃飲める?」
「ちゅぎ入ゆ、用意ちとく」
すると二人がニコニコ顔になった。
「あちた、バーベちゅー、色々用意しゅる」
更にニコニコ顔。どんだけお酒が好きなん?
温泉を堪能したのでそろそろあがることにした。
バスタオルで体や髪を拭いて、それぞれ男性用の甚平を再構築して着てもらった。
鳳蝶丸が薄いブルーグレー。ミスティルは小豆色。
西洋な顔立ちなのにめっちゃ似合う。
私も金魚柄の甚平にした。可愛いと褒められてちょっとだけご満悦♪
その後化粧水や美容液、ヘアオイルの説明とドライヤーの使い方などを説明すると、ミスティルが私の髪を乾かしてくれた。
「この服、楽でいいな」
「肌触りも良いし気に入りました」
「しょれ、あげゆ。お部屋で着て」
「ありがとうな」「ありがとうございます」
喜んでもらえて嬉しいな。
使ったフェイスタオルやバスタオルなどは清浄し、ついでに数枚多く二人に渡した。
そして、好きな時にお風呂に入って良いと伝えておく。
二人はいったん自分の部屋に戻りタオルや自分の服を置いて、リビングにやって来た。
ソファに座って寛いでいる二人に、冷蔵庫で冷やしておいた瓶の牛乳、フルーツミルク、コーヒーミルク、いちごミルクを出す。
ピンを刺して紙の蓋を開けるやつ。
「しゅきなの飲んで」
「これは何ですか?」
フルーツ牛乳を手に取ってしげしげと眺めるミスティル。
「牛乳よ。この世界にありゅ?」
「一応あるが、冷たいのは飲まないな」
「病気になるらしいですからね。わたし達には関係ありませんが」
「しょれ、しゃい菌の処理、しゃれてない。わたちのしぇかい、加熱しゃっきん、ちてゆ」
「そうなんですね」
「何でこんな色がついているんだ?」
「こえは」
普通の牛乳と、色んな果物の香りとか、苺というフルーツの香りとか、珈琲の香りの風味がついていることを説明する。
鳳蝶丸は牛乳とコーヒーミルク、ミスティルはフルーツミルク、私はいちごミルクを選んで三人で飲んだ。
「うん、なかなか美味いな」
「甘い牛乳なんですね?」
「うん」
鳳蝶丸は冷たい牛乳がこんなに美味いとは、と喜んでいた。
「このしぇかい、ちゅめたい、飲まないで?」
「わかった」
私が清浄で菌のみ取り除けば飲めそうだけれど。見かけたらやってみよう。
夜も更けて眠くなってきた。
寝てしまう前にデンタルケアとオーラルケアの一式をそれぞれ渡し、使い方などを説明しておく。
「歯磨き、とってもたいせちゅ。衛しぇい、ちっかい、長生ちしゅる。子供、大人になれりゅ」
「なるほど。俺達武器にはあまり関係ないが、この世界の人の子はあまり長生きしないようだしな」
「清潔で快適なのは気分も良いですしね」
「手洗い、うがい、しぇいけちゅにしゅる、大事」
二人は食事の後に歯を磨くと約束をしてくれた。
このまま寝ちゃおうかな、と思ったけれど、せっかく作ったから着ぐるみパジャマを収納から出す。今日ははちわれ子猫パジャマにしようっと。
「こえ、パジャマ」
「………」
しばらくパジャマを見つめていたミスティルが無言で私の甚平をスルンと脱がせた。そして手早く着替えさせた後、私をギュッと抱きしめて自分の頬を猫耳あたりにスリスリしている。
手触りにこだわったからね。フワフワで気持ちいいでしょ?
次は私の脇に両手を入れて、某ライオン王の子みたいに持ち上げられた。
そして私をフリフリ揺らして、パジャマについてるしっぽを見つめる。
真顔で。
されるがまま揺れる私。ミスティルの手からそっと救出してくれる鳳蝶丸。
「お嬢はもう寝ような」
抱き上げられて寝室へ向かう途中ミスティルを見ると、ソファに倒れ込んでいる姿が見えた。
だ、大丈夫かな?
心配で鳳蝶丸に目で訴えると、大丈夫だ、と笑っていた。
何だったんだろう?ま、まあいいか。
洗面所で歯と口内のケアをしてからベッドに入る。
「おやすみ。また明日」
「おやしゅみ、なしゃい……」
ポンポンと優しく叩いてくれる暖かい手に導かれ、私は深い眠りについたのだった。
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