第17話 テントつくるよ! 2

「ふあぁ~」

「目覚めたか?」

「あえ?」


 目を覚ますといつもの外お布団の中だった。

 夜が明けて辺りはうっすら明るくなっている。


「ぐっすり寝てたな」

「うん、しゅっきり」


 どうやら夕方くらいからずっと寝ていたらしい。何だか体も軽くすっきりしていた。


「ごはん、食べなえなかった。ごめんね」

「食えなくても問題ない。大丈夫だ」


 でも、私はお腹がすいている。夜ごはんも食べてないのでお腹ペコペコなのだ!


 まずは自分たちを清浄。


 美味しかった洋食屋さんのオニオンスープとポテトサラダを再構築、即収納。

 自分で作っても良いけれど早く食べたかったからね。


「鳳蝶まゆ、おねだい、ちましゅ。やって、くだしゃい」


 1歳児の手では作れないので鳳蝶丸に作業をお願いする。

 厚切り食パンにバターを塗り、白いパン部分に包丁で四角く切れ目を作り、スプーンでちょっとだけけこませる。

 へこんだ部分にハムを数枚のせ、四角くマヨネーズで囲い、生卵を割り入れる。

 とろけるチーズを多めにのせ、塩、胡椒を適度にふってトースターで焼く。


 チン♪


 焼きめ最高のたまごチーズトーストの出来上がり。


「おお、うまそ……んん?」


 即収納。



 鳳蝶丸が喜んでくれたけど、容赦なく仕舞う。複写すればいつでも何枚でも食べられるからね。


 次にコーヒー豆(今朝はキリマンジャロ)を電動ミルで引いて、ドリッパーにペーパーフィルターをセット、大きめのサーバーにコーヒーをたっぷり抽出。


 即収納。


 そして、パラソル下のローテーブルに収納から複写して取り出した。


「いつ見ても豪華で美味そうだな」

「作ゆ、あにあと」

「お嬢は赤ん坊なんだから気にするな」

「赤ん坊、ちあうもん!」


 ハハハ、と笑って頭なでなで。

 だんだんナデナデが定着してきております。嬉しいです。


「いただち、ましゅ」

「いただきます」


 早速たまごチーズトーストに手を伸ばす。が、熱い上に小さい手には食パンが大きすぎた。


 ううぅ~。

 早く食べたいのに~。


 すると、鳳蝶丸が右手を前に出して短剣(本体?)を出し、何の躊躇もなくパンを四つ切にした。

 卵の黄身がトロ~リ蕩けて刀身にも…………って!


「はああぁぁうっ!」

「な、何だ?」

「しょえ、本体!」

「ん?」


 大事な伝説の武器でパンを切るって何事?!

 しかもめっちゃチーズとかマヨとか黄身ついちゃってるよ!


「だって、剣、鳳蝶まゆ、本体…」

「これか?」


 剣を指さした。


「うん、汚れちゃった?」

「ああ、そうか」


 楽しそうに笑うと、剣がスッと消える。


「本体は俺。人型の俺が武器である鳳蝶丸」


 また短剣を出す。もう汚れていない。


「こっちは俺の力を凝縮して具現化した武器。出したり消したり出来るものだから汚れても問題ない」

「しょっか~」

「気遣ってくれてありがとな」


 そう言って、四切りしたパンを目の前に置いてくれた。

 そして、鳳蝶丸もたまごチーズトーストに齧りつく。


「うん、美味いっ」


 私も早速食べる。美味しい~。

 以前はカロリー気にして時々しか食べなかったけれど、今は気にせずどんどん食べられる。

 ありがとう、半神!


 と、思ったけれど。

 結局トースト四分の三しか食べられず、満腹になってしまった。

 鳳蝶丸はたまごチーズトーストを四枚食べて、ポテサラにがっつりハマり食パンにはさんで食べ、オニオンスープに食パンを入れてとろけるチーズのせて食べていた。


 この細い体にどんだけ入るんだろう。

 でも、モリモリ食べてくれると嬉しいな。





 気が付くと辺りはすっかり明るくなっていた。

 今日もテント作りといきますか。


 昨日気になっていた女性用の室内風呂から始める。

 何だか殺風景に感じたんだよね。


 再構成で檜の浴槽そばの壁を窓っぽく凹ませて、結界4を平面に張り、プロジェクターで映像を流す。


 景色は枯山水庭園風。

 大きな石、白い小石の波、石灯籠、鹿威し、庭の向こうは竹林。

 もちろん時間の流れに沿って景色を変える。

 月明り、星空、ライトアップも忘れずに。


 そして、浴槽の横に木枠の行灯風(紙の部分をすり硝子に変更)ランタンを置いた。

 この中に灯りの魔力を付与した魔石を入れる予定。


 良し、こんなもんで良いでしょう。

 細々としたところはまた後で。



 次に男湯だけれど、入ったことないので構造の違いがわからない。

 何か女湯と違うところってあるの?


 まあ、いいや。

 露天風呂部屋以外は全て同じ作りにした。


 そして、露天風呂部屋。

 すり硝子の柄は青海波。この露天風呂はオーシャンビューにするのだ~!

 床は黒っぽい青の天然石。浴槽の底は明るめの青いタイル。

 木製のビーチチェアとテーブル、薄い緑のビーチパラソル。

 プロジェクターで映すのは、この島の結界の上から見た一面の青い海と青い空、白い雲。

 海と一体化するかのように見える浴槽。

 映像はもちろん時間経過付き。オススメは満天の夜空。


 室内風呂の窓にもやはり海。

 そして…遠くに霞んで見えるは富士山。

 この世界に富士山はないけれど、私のテントには日本の風景をふんだんに散りばめた。



 うん、満足。



 さて、残るは従者達と私の部屋。


 テント入って右側に帆布の暖簾を上から垂らす。

 その向こうを空間操作で広くする。

 入り口に結界4を平面に張って、私が認めた者と認めた者の必要な物品等以外は入れない、とした。


 まっすぐ縦に長めの廊下を作り、両側に3つずつ扉を設置。

 突き当りにも扉を1つ設置した。


 まず六つの部屋。

 これは客間と同じつくりにした。違うのは1人用の部屋ということ。


 扉入って左側に大き目のクローゼット。右側は小さな部屋に陶器の洗面台と鏡、トイレはなし。

 鳳蝶丸の話だと必要ないんだって。

 あんなに食べているのにどこに消えてるのか?……不思議。

 とりあえず、トイレの場所に小さめの収納棚を設置した。


 次に友人宅へお邪魔した時に見せてもらったキングサイズ、ヘッドボードクッションと足元収納付きベッドを一台再構築。

 もちろん寝心地最高!


 テーブルとイスはゲスト用と同じ4人用。食器棚はちょっと大きめにした。

 間接照明とランタンも置く。


 そして壁に大きな窓を作る。もちろん平面の結界4を使用。

 今まではプロジェクターで私が想像した映像を投影する形だったけれど、従者部屋の窓は趣向を変える。

 今現在の外の景色が映るようにしたのだ。

 テントの外に監視カメラをイメージする。本当に取り付けるわけではなくあくまでもイメージで。

 そしてその映像を窓に投影する。


 今は南の島なので、白い砂浜と青い海、改造中の散らかった電気機器と鳳蝶丸、白いパラソルが映った。

 うむうむ、うまくいった。


 あとは鳳蝶丸やこれから会う皆の望むものを作ったり改造したりすればいいかな。



 そして最後の突き当り。私の部屋。どんな部屋にしようかな。迷う~。

 和風もいいな。飾り障子に憧れてるんだよね。

 大正時代っぽいレトロモダンな部屋もいい。窓ガラスをステンドグラス風にして…。

 ヨーロピアンアンティークの部屋も好き。


 実は私、建築物が大好きで、休みの日はあちこちの洋館や日本家屋を見に行っていた。

 丘の上の外交官が残した家とか、ホールのある貿易商が残した家とか。

 あと、明治や大正時代の建物を移築して集めた野外博物館は友達とも行ったし、一人でも行った。

 海外旅行は数回ヨーロッパに行って、建築物を眺めまくったり写真撮りまくったりして友達に笑われたりもした。


 なので、自分の部屋はこだわりたい。

 いや、一人だけ贅沢しちゃ悪いな、とも思うけれど…。私作テントってことでいいよね?



 まず、扉を入ってすぐの部屋はヴィクトリアン調のリビング風。

 オフホワイト一色で装飾が施された壁。

 同色で作られた暖炉(ただの飾り)には銀古美の燭台とアンティークランプを飾り、チョコレート色の落ち着いた木製の床に大きな濃い青のペルシャ風ラグ。

 ペールブルーにオフホワイトの飾り柄がある天井には小さなクリスタルのシャンデリア。

 チョコレート色で木製のローテーブル。ペールグリーンのソファーとお揃いのアームチェア。

 ちょっと異質なので目立たないよう、部屋の端にオフホワイトで統一した食器棚とバーカウンター、死角に食材や飲み物など貯蔵する小部屋。



 この部屋にはオフホワイトの扉を三つ作る。



 リビングに入って突き当りの壁左端の扉の向こうは大正ロマンで和モダンな部屋。

 薄い草色の壁に暗めな飴色の柱。キャメル色の木製天井にはステンドグラス風ペンダントライト。

 柱と同じ暗めな飴色の木製の床に暗い緑の和モダンなラグ。

 クイーンサイズのベッドは紺色で月と星柄の掛け布団。

 ベッドの横にアールヌーヴォーなデザインのステンドグラス風薔薇柄の窓。すり硝子と透明なガラスはちょっと歪ませて更に気泡も入れるこだわりっぷり。

 窓の向こうは平面の結界4にプロジェクターで緑の木々が見えるようにした。

 もちろんカーテンも忘れずに。白いレースのカーテンとベッドと同じ紺色の月と星柄の遮光カーテン。

 大正ロマンでレトロな洋服ダンスやローボード、書斎机。

 壁掛け時計、市松模様の襖(ただの飾り)。

 化粧室も忘れずに。

 これでもか!とレトロを詰め込んでみた。



 次。

 リビングに入って左の壁右端の扉の向こうは和室。

 扉はこの部屋に似合わないので、障子付きの黒い格子の衝立で隠す。

 室内は書院造り風で広さは八畳ほど、床の間がある。

 薄い草色の壁、畳、欅の柱、天井は柱と同じ材質の折り上げ格天井。

 4枚の障子を開けた向こうは平面の結界4にプロジェクターで日本庭園を映し出す。

 もちろん、時間経過と季節変化を設定。雪も雨もランダムで入れ込んでみた。

 和室に家具は置かないつもり。だって畳に寝っ転がりたいから!



 最後。

 リビングに入って右の壁右端の扉の向こうは硝子の温室。

 モデルは某王立植物園。広さは体育館ほど。

 白い支柱にはめているのは、実は硝子ではなく平面の結界4。

 そこにずれなく景色が映るよう調整する。

 プロジェクターで映すは遠くの山々、青い空、イングリッシュローズガーデン。

 咲き乱れるは色とりどりのオールドローズ。

 硝子の温室には白いガーデンテーブルと白い椅子。

 白い噴水も作った。水が流れるようになったら噴水の水に薔薇を浮かべようと思う。




 出来た―――!

 細々としたものは別として、一通り出来た!

 は~やれやれ。


 あとは鳳蝶丸が作ったものを合わせれば何とか整うかな。


 私は少しホッとして、テント外にいる鳳蝶丸と合流することにした。

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