第3話 神々から説明されました

「通常魂は生を終えた場所で輪廻するのじゃ。異例はあるが、まあ大凡そういうものと決まっておるのじゃよ」


 長い沈黙の後、ウルトラ神が話し始める。


「そしておぬしは地球上ではなく時空の狭間で生を終えた」

「手で掬われた時ですよね」

「いや、おぬしはあの時すでに死んでおったな」

「はい、は…は?え?死んでいた?!」

「そうじゃ。おぬしは時空の狭間に入ってすぐ生を終えていたんじゃよ」



 え?ちょっとまって?えええーーー!



 でも、あの、景色(暗闇だったけど)を見たり、白い手を発見したりしたんですが?


「フォッフォッフォ。驚愕した顔しておるの。愉快、愉快」

「愉快じゃないですよ!だって私、意識ありましたよ?」

「死んだことに気づかなかったんじゃろう」


 うわぁ。

 死んだことに気が付かないって幽霊みたいじゃん。

 いや、待て。

 幽霊だよ、本物の。


 桃花咲待姫命ももはなさくまつびめのみことが話を続ける。


「そなたは最近ずっと体の調子が悪かったじゃろう?」

「はい」

「邪神の信徒が時空に穴を空けそなたの居場所を何度も探り、その攻撃からそなたは無意識に自身を守ろうとしていたのじゃ」

「自分で、ですか?」

「うむ。長きにわたり神格を高めてきたそなたの魂には神力がそなわっていた。神となってから目覚めるはずの力を使い、己の身を守ったようだが……人の体は神力の強さに耐えられない。これがそなたの不調の原因よ」


 そうか。そうだったんだ。

 何件の病院で精密検査してもどこも悪くないのに日々体調が崩れていった。

 あれは、自分で自分の身を不調にしていたのか。

 原因は邪神に探られていたからだけれど…。


「時空の狭間に落ちた日、実はもう手遅れだったようじゃ。信徒に捕まらなくても命を落とすは確定。できれば地球上で生を終えてほしかったがな」


 ははは…。

 あの日会社に行けても死んでたんだ、私。

 しかも自分のせいってどうなのよ。


 何か知らないけど。

 関係ない神様の怠慢で自分の未来が宙ぶらりんになっちゃったのか…。


 輪廻転生すれば看取った父や母にいつか会えるかな、なんて思ったこともあったけど、もう二度と会えないや。


 そう思うとどんどん悲しくなってくる。

 ………神様とお話できたし、もういいかな。………消えるしかないかな。



 フウーーー



 体が軽くなってくる。

 このまま消えるのも良いかもしれない…。



「ま、ま、まて、待てい!」


 視界がグラッと揺れて、ウルトラ神のドアップが!


「わーーー!セクハラ!」

「違うわい!」

「消えたいなど思うでない!」


 ムゥ神は驚いた表情。


 ………。


「今、消えたいと思うたであろう?それはならぬ。本当に消滅してしまう。神である我らとて消滅した魂の再生はできぬ」

「そ、そうじゃぞ。とにかく落ち着くのじゃ」


「……でも、…私はもう地球に帰れないんでしょう?このままどこにも行くところがないんですよね?」

「いや、今後のことはわしらの間で話し合いすでに決まっておる。全ての神の長である万物神にも許可をもろうておるよ」

「え?」

「とにかく心を落ち着けてわしらの話を最後まで聞くのじゃ」

「消えたいなど思うてはならぬ。われは…われの可愛いメジロに消滅して欲しゅうない」


 神々の言葉にだんだん気持ちが落ち着いてくる。

 今後についてしっかり聞いておこう。


 私はコクリとうなずいた。




「あなたはわたくしの眷属になりました」


 その時、自己紹介以来ずっと黙っていたムゥ神が突然口を開いた。


「え?」

「あなたが亡くなったのは時空の狭間。ですからわたくしの世界の魂となります」

「では私はここで輪廻転生して、いつかムゥ神の眷属神になるんですか?」

「いいえ、この世界には輪廻も転生もありません。わたくし以外の神も存在しません」


 ど、どういう事?


「時空の狭間は神々が行き交う道のような場所じゃ。万物神が創造された特殊な空間での。管理者は唯一神であるムゥ神のみ。時間の概念はなく、生ある者も、惑星も存在しておらん」


 なるほど。


「極まれに召喚などで人の子が通ることもあるが、時空の狭間で死することはないからのう。おぬしがここで死んだ初めての人間じゃな」



 そんなレアケース望んでないです。



「先ほども話した通り、生を終えた場所で輪廻転生するはずが、この時空の狭間にはそれがない。このままではそなたの行き場が無くなってしまう。と、言う事で、」


 ウォッホンと咳払いするウルトラ神。


「次なる手として、魂を救ったわしがおぬしを連れてゆく権利を得たのじゃよ」

「え?魂を救った?」

「あの白い手はわしじゃ。たまたま地球に向かっていて、たまたまおぬしが落とされて行く所に出くわしたのよ。わしも地球が所属する宇宙創成に携わった神ゆえ、地球に戻してあげたいが…それは叶えられん」



 ………。



「白い手、あれ、ウルトラ神だったんですかーーー!………、いや、それより宇宙創成?!?!?!」

「ウルトラウスオルコトヌスジリアス神は万物神の元におわす上位神なのですよ」

「なに、ムゥ神も生まれた時期はわしとそれほど変わら…イダダダダ!痛い、痛い、」


 ムゥ神がウルトラ神の耳を無表情で激しくつねっていた。

 いや、女性の歳がわかるような発言は良くないよ、ウルトラ神。



「あなたはわたくしの眷属、時空の狭間の魂です。でもこの場所で生まれ変わることも神域に入ることも出来ません。ですから魂を救ったウルトラウスオルコトヌスジリアス神の世界で生きることとなりました」


 とにかく、この先は決まっているということ。

 腹をくくらねば。


「はい、………あの、いくつか質問をしても良いですか?」

「うむ。わしが答えよう」


 ウルトラ神が頷いた。


「ムゥ神が神域に入れないとおっしゃいましたが、ここは神域ではないんですか?」

「ここは、魂が次の生を受けるまでの待機場所じゃな。時空の狭間には他の死者がいないので殺風景じゃが。ま、おぬしのための仮待機所、という感じかの」

「私の体はあのまま落ちましたが、その、邪神の力になってしまいましたか?」

「いや、おぬしの体は時空の狭間を抜ける前に消滅したよ」

「消滅……」

「魂が抜けた体でも邪神の糧となるからの。わしが消滅させた。いずれにしてもあの体には戻れぬし……すまんの」

「いえ、邪神の力の一端にならなくて良かったです」


 実はあんまり実感もないし。

 消滅って聞いてもショックはない。


「ムゥ神の眷属で、ウルトラ神のところに行くのはわかりましたが、もう桃花咲待姫命ももはなさくまつびめのみことにはお会い出来ないのですか?」

「本来であればそうなるんじゃが。おぬしは長きに渡り桃花咲待姫ももはなさくまつびめに見守られ絆が深い。そして、何といってもそなたは時空の狭間を司るムゥ神の眷属じゃ」


 バチン!とウィンク。眉で見えないけれど、たぶん。


「何らかの形で交流が持てることになるじゃろう。まあ、後のお楽しみじゃ」


 嬉しくなって桃花咲待姫命ももはなさくまつびめのみことを見た。

 にっこりとそれは美しい笑顔を浮かべコクリと頷いてくれる。

 ああ、良かった。

 好きだった日本の神様と繋がりが保てて嬉しい!


「ところで、おぬし。先ほどからわしをウルトラ神と言っているが…」


 ハッ!

 な、名前を勝手に縮めたまま声に出してた!

 失礼なことをしてしまった!


「あの、ごめんなさい。名前を変えてしまい大変失礼しました!」


 思わず土下座をする私。


「フォッフォッフォ。良い良い。わしの名は長いでな。ただ、ウルトラで切られるのはちょっとムズムズするのう。どうせならウルちゃんと呼んでくれんか」

「ではわたくしもムゥちゃんと」

「わっわれも…そ、その、桃ちゃんと」


 照れまくる桃花咲待姫命ももはなさくまつびめのみこと、可愛くて萌える!


「でも、神様に”ちゃん”なんて失礼では?」

「これから長い付き合いになるんじゃし、わしらが良いと言っているんじゃ。良いではないか、良いではないか。フォッフォッフォ」


 良いではないか、の使い方が間違ってるよ。あーれーって言いたくなっちゃう。

 まあ、呼び名が長いより呼びやすいかもね。


「では、ウル様、ムゥ様、桃様と」

「様か…。ちょぴり寂しいが、まあ、それで良い」


 ムゥ様も桃様も頷いてくれた。



 神様の名を気軽に呼ぶなんて、人間では私ぐらい何じゃ?

 光栄だけれど、良いのかな?



 まあ、良いか。

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