ドロクサイ
黒白 黎
第1話
地形や建物は歪み、人々は動物または異形の姿に変えられた。魔法使いは扉を通ってやってくる。
今日も誰かを実験体にするために。
茶色い雲に覆われ朝日が昇っても光が差すことはほとんどない。空を濁すほど汚れた雲がある限り地上に光が注ぐのはまだまだ先の話だ。昔は白かったという。それが土のように茶色に染めた魔法使い(バカ)がいた。魔法使い(そいつ)のせいで雲は永遠と姿を変えない姿へと変えられてしまった。茶色い雲は光を通さない。そのせいで洗濯物は乾かない、匂いが薪を燃やしたかのようで臭い。農作物や木が育たないなど弊害が大きい。
ただひとつだけ解決方法はある。その魔法を使った魔法使いを殺すことだ。ただ魔法使いを殺すのはそう容易くはない。奴らも相当手練れた人が多い。つまり戦闘経験と実戦経験があるということだ。たとえ見つけたとしてもドアを通り魔法使いたちが住んでいる世界へ逃げてしまう。ドアを潜る前に倒さなくてはいけない。そんな手練れた奴はこの世界に早々といない。魔法にかけられた被害者か魔法使いに魔法を教わった奴か、それとも魔法使いが住んでいる世界から逃げてきたやつぐらいしかいない。
煤だらけの片腕一本をどこかの店に持ち込む一人の男。頭からフードを被り顔を見られないために常に仮面をかぶっている奇妙な人物だ。体格からして男だ。声も低く背丈は2メートルと高い。
「いつものやつで」
「あいよ」
店主は気さくに相槌を打つ。この店は本通りからやや北にそれが古びた繁華街の地下で運営している。魔法使い専門。魔法使いの腕や指、体を買い取ってくれる死体買取屋さんだ。
店主は帽子を深くかぶり肌は緑色と変色していた。
「見ないうちにずいぶんと変わったな。俺の記憶(みま)違いか…」
「先週、魔法使いの襲撃にあった。”俺の友達(ダチ)の敵討ちだ”とかいって、姿を変えられてしまったよ。まあ、命助かったよ。あの場に仲間が七人はいたが、俺を除いてみんな殺されちまったがな」
店主は吐き捨てるかのように魔法使いの死体を査定し始めた。一個一個丁寧に肌を剥がし、爪をめくり毛一本ずつ丁寧に調べる。時には切断部分をなめたり触ったり匂いを嗅いだりする。その姿を見ているとどうもため息がつく。
「その魔法使いの特徴に心当たりはあるか?」
「かたき討ちにつもりか…安くするつもりはないぞ」
「その感じだと、単なる敵討ちじゃないだろ」
「…はぁ~」
店主はため息をついた。手を止め、金額を男に見せる。
「帰ってくれ」
「冗談じゃないぞ!」
チリンチリンと呼び鈴が鳴った。店主から強引にお金を渡され追い出されてしまった。魔法使いの被害者たちは報復が怖くて言い出せない人が多い。店主が襲われたというのも魔法使いを買い取る専門の業者だから狙われたことだ。お互いやっていることは他者を不幸にする生業だ。
魔法使いを狩るとはいえ、魔法使い(あちら)側から見たら、仲間を無残に殺し売りさばいているようなゲスな奴にしか見えない。
「はぁ~酒も買えやしないぞ」
大きなため息を吐いた。
店主から無理やり受け取ったお金は思った以上にケチっていた。
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