第4話

斑鳩いかるがまこと廊下ろうかを歩いていた。


廊下は相も変わらず喧騒ろうかに包まれていた。


「これからどこに向かうんです?」


「使者が二人きている。

その人達に会ってもらい、おそらくすぐに国に向ってもらうことになる。」


 分かりました。と誠は答える。


「・・・・・・母さんはおそわれたりしませんよね?」

「どういう意味だ?」


先程さきほど霧島きりしま総理大臣から僕が拉致らちされる可能性があるから


特使としての立場を与えると言われました。

という事は僕に言う事聞かせる為に


僕の親族を人質に取ったりあるいは襲ったり

脅迫きょうはくしたりは十分あり得ると思いました。」



「可能性はある、その通りだ。

安心しろもう保護してある。

霧島きりしま総理からの命令でな」


「・・・・・しかし驚いたな、たった一回話しただけでこうも変わるもんかね?

どんな話をしたんだ?」


「現状を教えてもらったのと、考えろと言われました。

誰も頼れない中で。」


「なるほどな・・・・・・あの人らしいな。

これから行く国には誰もついていってやれない。

だから誰も助けてくれない。

そういう事だ。

こいつを渡しておこう」

 

手渡されたのはジップロックに入ったSDカードだった。


「スマートフォンは持っているな。

なかには我々が知る限りの情報、

協力者の名前が入っている

何かあった時には頼れ」



「協力者?」


「彼らも一枚岩ではないらしい。


私に接触を図ってきた人物がいる。」


「信用できるんですか?」


「君が判断しろ。これも経験だ」


「紙で渡そうかとも思ったんだが彼らは、

ある程度日本語に理解がある。

が、携帯の中身までは確認できんだろう。

知識がないからな。

だが取り扱いには十分に気を付けてくれ」


なるほど考えられているんだなとまことが思っている突然廊下に銃声が聞こえた。


斑鳩いかるがが銃声がしたとドアを開けると


「何をしとるんだ貴様ら!」

 

斑鳩いかるがの怒鳴り声が聞こえた。


誠も慌ててドアに入ると中には

頭はじけ飛んでいる男性の死体が一つ転がっていた。


その横には黒と赤と金に彩られた

軍服に身を包む二人の女性が立っていた。


二人の女性は背丈が全く違っており

一人は綺麗きれいなな黒い腰まであるような長髪の女性であり

190はあろうかという長身の女性である。


スラリとはしているが鍛えている事が一目で分かる

威圧感いあつかんがある若い女性だった。


もう一人は長い黒髪をツインテールにして束ねており

140前後の背丈せたけ小柄こがらな女性である。


部屋は異様な緊迫感きんぱくかんで満ちていた。


 「なぁに、ネズミがうるさかったものでね、

そこに転がっているのは我が国の地下組織の者だ、

我が国の法に従い粛清しゅくせいしたまでだ。」


 背が高い女性がりんとした声でそう言い放つ。


血の匂いが充満した部屋で斑鳩いかるがとその女が言い争っていた。


突然の出来事で誠は動揺どうようが隠せない。


目の前に死体があり頭が弾け飛んでいた。


言いようもない不安定さがまことの心を支配した。


それは人間の根源的な恐怖、その死体が自分の死を連想させる。


歯がカチカチと鳴り地面がまるでスポンジのようにぐらつく、

胃から吐しゃ物が込み上げてきてその場でまことは吐いてしまう。


「大丈夫ですか?」


小柄な方の女性が歩み寄ってきてハンカチのような物で誠の口を拭う。

その行為は慈愛じあいあふれていた。


「初めまして、ワタクシの名はマリン、

そしてあちらの背の高いのがカリン。


羽黒はぐろ まこと様ですね、一目で分かりましたわ。」


カリンと呼ばれた女性がぺこりと頭を下げる。


「なんで分かるんですか?」


「そっくりですもの、ハグロ軍神と。

と言ってもワタクシ達は肖像画でしか見た事はありませんが・・・・・・・・。


それにしても軍神の血族とは最初はこんな物ですか・・・・

気にすることはありませんのよ?

誰もが通る通過儀礼つうかぎれい」ですから・・・・・・・・」

 


恐らくは死体を見て自分が吐いた事を言っているのだろう。


しかし彼女の言葉に違和感を覚えた、


通過儀礼。


おそらく自分と年はそう変わらないであろう彼女達が

死体を見る事をおそらく数回は経験しているという事だ。


一体彼女たちは自分をどんな国に連れて行こうとしているのだろうか?

と誠は思った。


「父さん・・・・・を知っているんですか?

どんな人でしたか?」


「ええ、存じております。

素晴らしい方ですわ。


まさに英雄!


アンリ神人と共に吹けば飛ぶ様な弱小国であったガルシアに


武器を、


技術を、


知識を、


数えきれない勝利を、


何より奪われない領土を与えてくださいました。


その多大な恩恵おんえにアンリしんじんをはじめ国中の人間が

ハグロ軍神には感謝しておりますのよ?」


マリンが陶酔気味とうすいぎみに言う。


「その通りだ。

だからアンリ神人はハグロ軍神をその死後、

自分と同等の神の位に引き上げたのだからな。」


「アンリ神人?」


「我が国の最高指導者です」


誠は戸惑った。


彼女達が言っている事が何一つとして理解できなかったが

すごい事はよく分かった。


アンリ神人というの重要人物でありその人が自分の身柄を要求しているという事。


だとしたら自分の父親は彼女達がいる世界でどれだけの功績を挙げたのだと。

同時に彼女達の父に対する心酔ぶりも凄まじかった。だ


が彼女達はまことにとって聞き捨てならない事を言った。


「父さんは・・・・・・何故死んだですか?」


「病気ですわ・・・・・とても残念なことです」


嘘だなとまことは思った。


マリンは声色を変えなかったがビリっとした空気をまこと

感じ取ったからだ。


うそというより本当の事を言っていないそんな感じがした。


「いずれにしろ、アンリ神人はまこと様に会いたがっておられる。


何年にも渡ってこの世界に至る道を探し求めてきてやっとそれが実った。


全てはハグロ軍神の血族たるまこと様を探す為に。


我々はストラディウスの名を持つアンリ神人の血族。


我らの国ではそこにいる防衛大臣と同等以上の権威を持つ。


その我らがあなたを国賓としてお迎えする。」


「待て!話が違うぞ!

あくまでがいこうとく使として派遣するという話だろう!」


思わず斑鳩いかるが口をはさむがカリンは意に介さない。


「それは貴国の言い分であろう!

我々はこくひんとして誠様をお連れする!

首都の制空権を取られているいちだいじんの言葉とは思えませんぞ!」


斑鳩いかるがは逆にいっかつされしまう。

それ以降黙りこんでしまう。


「さあ、行きましょうガルシアへ」


マリンは手から装置のようなものを取り出す。


するとそこに黒いモヤのような物が発生する。

おそらくはそこが入り口なのだろう。


このまま自分は行っていいのだろうかとまことは思う。


もし、この世界に帰ってこれないとしたら?

そうだそれは十分ありうる。


じゃどうすればいい?

その保証は全然ない事に気付く。


「どうしましたか」


マリンが急かす。


そのままついて行く。


本当にそれでいいのかと疑問が浮かぶ。

きりしま総理大臣は言った。


自分で考えなさいと。


そうだ拒否権はあるんだ。


それに今までの話だと自分には良くわからないけど権力がある。


だとしたら、そうか


別に相手のペースに乗る事なんかないんだ。


「帰ってくる事はできるんですか?この世界に?」


まこと様が望めばもちろんできます」


「アンリ神人には会います。

けど二つ約束してください」


「何でしょうか?」



「一つ目は僕を必ず自分が帰りたい時に日本に帰す事」


これは絶対条件、


自分が帰らないと日本に情報を持ち帰ることができないという事。


そして二つ目さっきから脅されているという事は日本は今絶対的に不利な状況にいるという事手を出すことができないの自分が日本にいるからの可能性がある。


脳みそをフル回転させろ!今それを防ぐ事ができるはずだ!



「二つ目は僕がいない間日本に攻撃を加えない事そ

の二つがあなた方に要求する事です」


「断ったらどうするのかしら?」


先程まで優しかったマリンの表情が一変して冷たい表情を帯びる。


「もちろん行きません、

けどあなた方にとって僕を連れていく事はかなり重要なんじゃないんですか?


それにさっき自分達は大臣と同等以上の権威を持つと言いました。

これらを約束できる地位にいるんじゃないんですか?」


「力ずくでも連れていくといったら?」


カリンが怒気を強める。

凄まじい威圧感を込めてまことを睨みつける。



まことはたじろぐ、

睨めつけられただけで言葉が出てこない本能が拒否している


正直怖い心臓がぎゅっと締め付けられて言葉をつむぐのを拒む。


だが退かない、

自分の意志でそれを無理やり押さえつける。

そしてさっきから感じていた一言を放つ。

おそらくは彼女たちの絶対的な弱点である一言を。


「確かに、力づくで連れていかれたらどうしようもないでしょう。

しかしそれはアンリ神人の思いに沿うものなんですか?」


マリンとカリンの動きが止まる。


おそらくアンリ神人は彼女たちにとって絶対的な君主であり

自分との平和的なかいこうを望んでいる。


つまり力づくなんて事は絶対にできない。


マリン笑い始める。

馬鹿にした笑いではない、

笑い終えると彼女は一言素晴らしいと呟いた。


「一つ例外を作りましょうか?

そちらから攻撃を受けた場合反撃に出るという事でよろしいですか?」


「もちろんそれは、大丈夫です」


「分かりました。今ここでマリン・ストラディウスの名において

その二つの約束を守ると誓いましょう。


証人はカリン・ストラディウスあなたでよろしいわね?」

は、とカリンは返事をする。


どうやらマリンの方が立場は上らしい。



「と言ってもこれでは証拠になりませんわね。カリン、紙とペンを」


カリンに紙とペンを渡されるとマリンは何かを書き始めた。

それは見た事もない文字だった。


うずき状に文字を書き始める。

それを見て誠は彼女たちを別の次元の人間なのだと改めて認識する。


「これを取っておいて下さい。

契約書ですのでこれで約束をにするということはできません。


アンリ神人の家名を汚す事になってしますもの」


 

斑鳩いかるがは横で見ていて誠の急激な成長に喜びを覚えていた。

そしてある一つの事実をもう一度突き付けられた。


つまりガルシアと対等に交渉する立場にあるのは誠しかいないという事だ。

口を出したい気持ちをぐっとこらえる。


今、彼は独り立ちしようとしているのだ黙ってみていようと。


「それでお約束は致しましたがまねかれて頂けるのですかまこと様?」


「分かった連れて行ってくれ」


 誠は《まこと》マリンの手に触れる。


斑鳩いかるが殿!我々が不要に日本に武力攻撃を行おうとは思っていない!

日本は友好国だと思っている。

まこと様の思いを無下むげにされるなよ!」


カリンはそういうと消えていった。


斑鳩いかるがは一人残された部屋の中でぐっと拳を握り

願いをたくすこと事しかできない自分を呪った。


そして思った。

きりしま総理大臣は自分で考えて自分の意志で日本に味方するようにまことを導いている。


だが、


それはまこと次第によってはまこと自身が日本の最大の敵となりうることしていた。


そうならない事を斑鳩いかるがは願うばかりだった。

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