089.脱走
しばらくしてルナが放心状態から立ち直った。
ミニックの方に向き直ったかと思うと膝をついてミニックに頭を下げてくる。いわゆる土下座だね。
「小人族、いえ、ミニック様。わたしを奴隷から解放していただきありがとうございます」
「ど、どうしたのです!? 顔を上げてほしいのです」
それでもルナは頭を上げる様子はない。ミニックがルナを土下座させている図が続いている。
『女の子に土下座をさせるとかミニックもわるよのぉ』
『不可抗力なのです!!』
これみよがしにいじってやるとあわあわと慌て出すミニック。なんとかルナを立ち上がらせようと言葉を紡いでいく。
「とりあえずここから離れるのです。いつ人が来るかもわからないのです」
確かにここは廊下だからね。いつ従業員が来てもおかしくはない。なるべく早く離れた方がいいよね。
「……そうですね。ではひとまず部屋まで案内しますね。もうすぐつきますので」
ルナは立ち上がってミニックを先導していく。部屋にはすぐに到着した。中に入るなりまたしてもルナがミニックに礼をしてくる。
「ミニック様。再度のお礼を。わたしの身を助けていただきありがとうございます」
「どういたしましてなのです。でもどうしてルナは奴隷になっていたのです?」
「わたしは教会に魔法が使えない忌子だと言われたのです。それで親に売られて。ミニック様。わたしは違法奴隷だったんですよね。わたしは忌子ではないということですか?」
『そうだよ。風魔法が使えるはず』
「そうなのです。風魔法が使えるのです」
「やはりそうなのですね。わたしの名誉を守ってくださりありがとうございます。わたしにできることがあればなんでもいたします」
「な、なんでもなのです?」
『なんでもするって。あれ? ミニック何考えてるの?』
『な、何も考えてないのです!!』
『へー怪しい』
「そ、それならぼくを助けてほしいのです。ここから出たいのです」
あ、話を逸らしたね。
「わかりました。ですがミニック様はまだ奴隷紋がついていますね。わたしと同じように解除することはできないのでしょうか?」
「自分の隷属状態は解除できないのです」
「そうですか。そうなるとミニック様がこの屋敷から自分で出ようとすれば奴隷紋の効果が発動してしまうと思います」
「そうなのです?」
「はい。ですのでわたしが抱えていきます。自分から出ようとするのでなければ奴隷紋に苦しめられることはないと思いますので」
「え、なのです?」
ミニックが頭に疑問符をつけているのにも気がつかず、ルナがミニックを横抱きに抱えた。いわゆるお姫様抱っこだね。ミニックの顔が羞恥に歪んでいく。
『よかったね。美少女に抱っこしてもらえて』
『うるさいのです。……恥ずかしいのです』
ルナはミニックを抱えたまま部屋にある窓のほうに向かうと窓を開けて外へと飛び出した。
「このまま商会の外に向かいます! どちらに向かえばいいですか?」
「スタリアのほうへ向かってほしいのです。スタリアの冒険者ギルドに助けを求めるのです」
「わかりました! このまま向かいます!」
「……お願いするのです」
ゴダック商会の庭を抜けて、太陽が沈んだ道をルナが走って進んでいく。
夜の闇がカタノヴァの街を覆っている。人通りは少ない。とはいえ全くないわけではない。少年を抱えた少女が走っていく姿は流石に目に留まりやすい。
「奴隷が逃げたぞ!」
「庭を抜けたのを見ました。あっちです」
商会の人間と思わしき人々が建物の中から騒いでいるのが聞こえてくる。
「ゴダックに脱走がバレてしまったようです」
「捕まったらまずいのです! 急げるのです?」
「頑張りますがこのまま走っていても追いつかれると思います。それよりは隠れながら進んだほうがいいかもしれません」
狼獣人で身体能力に優れるとはいってもルナはまだそこまで大きくない少女だからね。ミニックを抱えて走るのでは流石に大人には敵わない。追いつかれるという判断は妥当だと思う。
「わかったのです。ルナに任せるのです」
ルナはミニックを抱え、周囲の建物や影に隠れながら、人目を避けて進んでいく。
街の中をさらに進んでいく。もうすぐ城門に出るはずだ。ルナの足が心なしか早くなっていくのがわかる。
急に足音や声が聞こえてきた。ルナは物陰に隠れるとミニックをさらに深く抱きしめて身をひそめている。ミニックの顔がまた赤くなる。何それ羨ましいんですけど。
まあそんな冗談はここまでにしておこう。ルナは周囲を警戒して耳をピクピクと動かしていたが、やがて申し訳なさそうに言葉をもらした。
「すみません。両方から人が来ます。挟まれてしまいました。かなりの手練れみたいです」
ルナのいう通り両側から人が歩いてくる。いる場所を悟られているようだ。隠れる場所は他にはない。
万事休すか。人影がルナの前に現れる。
「ミニックさん。無事のようですね」
「よう。ミニック。女の子に抱かれてるとは随分なご身分じゃないか。こりゃ助けに来る必要はなかったか?」
アイリスとボーダンが目の前で抱えられているミニックに対してそう告げたのだった。
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