088.ルナ

 ゴダックの命令に従ってルナと呼ばれた狼獣人の奴隷の女の子が無言でミニックを部屋に案内していく。いつみても可愛い子だ。しかも狼耳。なんで耳がつくと可愛くなるんだろうね?


 そういえば獣人は小人族のことを嫌ってるんだったよね。ルナも餌付けして多少当たりが弱くなったとはいえ、ミニックのことをよくは思っていないはず。


 一応、彼女もステータスを確認しておこうかな?


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 名前:ルナ

 種族:狼人族

 職業:奴隷(違法)

 状態:隷属(ゴダック)

 技能:双剣技

 魔法:風

 恩恵:─

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 今回は職業と状態も出してもらう形で表示してもらった。


 さすが獣人と言ったところか攻撃系の技能スキルと使いやすそうな風の魔法持ちらしい。


 職業はやっぱり奴隷になっている。と言うか違法? ルナも違法奴隷なのか。もしかするとゴダック商会って普通に違法奴隷も扱ってる闇商会なのかもしれない。ルナに聞いてみればわかるかな?


『ミニック。ルナにゴダック商会が違法奴隷を扱っているかどうかを聞いてみて?』

『え? 嫌なのです』

『なんでよ』

『不躾すぎるのです』


 そうかな? 普通だと思うけど。


『いいから聞いて』


「……ゴダック商会って違法奴隷を扱っているのです?」

「なんですか急に」

「ごめんなさいなのです。聞いてみただけなのです」

「……なんでそう思ったんですか?」


 ほら。普通に返してくれたじゃん。


『悪魔さんはなんでそう思ったのです?』

『ルナもミニックと同じで違法奴隷だから』

『そうなのです!?』


 ミニックが目を白黒させて驚いている。


「どうしたんですか?」

「な、なんでもないのです。理由はルナが違法奴隷だからなのです」

「わたしが違法奴隷……なぜそう思ったのですか?」

「それは……説明するのが難しいのです」

「そうですか。すみません。先ほどの質問ですが、答えられないことになっているんです」


 言えないことになっている。つまりはなんらかの方法で言動を縛っているってことだよね。違法奴隷を使っていると言っているようなものだ。


 そこから沈黙が続く。ミニックよ。なんか会話を続けたらどうなの?


「……この前は美味しいご飯ありがとうございました」

「この前なのです? 別に大したことじゃないのです」

「それでもです。あんなに美味しい食べ物は久しぶりでした」


 ルナが尻尾を振ってる。思い出して嬉しくなっているのかもしれない。


「これからもっと食べればいいのです」

「無理です。ゴダック様に使役されている間はそんないいもの食べることはできません」


 悲しそうな顔でそういうルナ。


 かわいそう。やっぱりルナの隷属もなんとかしてあげたいんだけど。ミニックと扱いが違うって? そんなの当たり前だよね。ゴダックに使役されてる女の子とかかわいそうすぎるじゃん。


 ……ん? 使役?


『そうか!』

『急にどうしたのです?』

『この状況、なんとかなるかもしれない!』

『……本当なのです?』


 ミニックが訝しげにわたしにたずねてくる。


 だけどまだ確定じゃないけどうまくいく予感がするんだよね。早速〈天与〉を確認しなければ!


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 天与:以前〈天授〉によって供与された技能、魔法、聖遺物を同等の天声ポイントで天の声保持者に供与することが可能。現在は以下のものが供与可能。

・魔力操作:50pt

・火付石:1pt

・アビスファイア:10pt

・付与:35pt

・ホーリーレイ:5pt

・聖右剣ホーリーレイヴァント、冥左剣シャドウリーパー:100pt

・ホーリースパーク:10pt

・ホーリーサンクチュアリ:100pt

・英雄模倣:1000pt

・アビスヒール:100pt

・精霊術:10pt

・鍛治:10pt

・使役:10pt

・ヴォイドインジュアリー:10pt

・ヴォイドイレイサー:10pt

・ヴォイドグラヴィティ:10pt

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 うん。やっぱりあるよね。〈使役〉という技能が。これをさらに確認!


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 技能:使役

 他人の隷属状態を上書きする。人と魔物どちらにも使用可能。隷属状態を解除することもできる。胸に手を当てて念じることで発動可能。

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 やっぱりね! これってステータスの状態欄で出てた隷属っていう状態を上書きするってことだよね? これを使えば奴隷状態から解放できるんじゃない?


 なんで気がつかなかったんだろう。やっぱりわたしは馬鹿なのかな?


 早速〈天与〉を発動! 〈使役〉を選択してミニックに技能を覚えさせた。


『ミニック! 〈使役〉っていう技能を覚えたから使ってみて?』

『〈使役〉なのです? どう使うのです?』

『胸に手を当てて念じるだけみたい。早速やってみて?』


 〈使役〉の画面をミニックに共有しながら催促した。ミニックは自分の胸にてを当てて〈使役〉を試そうとしているみたい。でも何も起こる様子はない。


『何も変わった様子はないのです』

『おかしいね。ちょっと確認してみる』


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 名前:ミニック

 種族:小人族

 職業:奴隷︎(違法)

 状態:隷属(ゴダック)

 技能:全銃技

    天の声

    収納

    使役

 魔法:無

 恩恵:自由神の勇者の種

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 やっぱり隷属状態は解消されていない。もう一度〈使役〉の画面を確認する。


 ……そういうことか。


 「他人の隷属状態を上書きする」と書いてある。多分自分自身には〈使役〉を使うことはできないみたい。そうなるとどうするべきか。


『ルナに使ってみて?』

『え! 嫌なのです!』

『なんでよ』

『セクハラになるのです!』


 わたしはミニックがルナの胸に手を当てている場面を想像した。確かにミニックがそれをするとセクハラになる可能性がある。でも今はこれしか選択肢がないからやってもらうしかない。


『ルナを救うためだよ。ちゃんと説明すればわかってくれるって』

『……わかったのです』


 ミニックは少し逡巡したがすぐに決心したような顔になる。


「ルナさんは奴隷から解放されたいのです?」

「なんですか? できるなら解放されたいですけど」

「それならなんとかできるかもしれないのです。試してみてもいいのです?」

「そんなことできるんですか!? もしできるならお願いしたいですが……」

「わかったのです。で、では失礼するのです!」

「っ! 何をするんですか!!」


 ミニックがルナの胸に手を当てた。薄暗い光がルナを包み込む。多分これはうまく発動しているよね?


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 名前:ルナ

 職業:─

 状態:通常

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『成功したみたい! 隷属状態から通常に戻ってる』

『よかったのです』


「やっぱり小人族は信用なりません!! こんなことをするなんて!!」

「これで隷属状態から解放されたはずなのです。確認してみるのです」

「そんなことを言ってはぐらかすつもりですか!! そんな簡単に奴隷から解放されるわけが……。あれ? 奴隷紋がなくなってる?」


 ルナは自身の胸を確認して驚きの声を上げた。ミニックへの怒りはどこかへ飛んでいってしまったみたい。


「本当にそんなことが……」

「これでルナは自由なのです」


 ルナは静かに涙を流してしばらくその場に立ち尽くしていた。


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