084.シンギュラリティゴブリンクイーン
緑色の肌をした女性がボーダンを突き飛ばした。
ボーダンは突風に煽られて宙を舞い地面に叩きつけられる。
「ごふ!」
「ボーダン? 大丈夫なのです!?」
「だいじょう、ぐふ」
大丈夫だと言おうとしたのだろう。しかしボーダンは背中を折って口から血を吐き出した。その背中は球状に抉られていて明らかに大丈夫ではない。致命傷だ。
「早くポーションを持ってくるのです!」
「ああ! ボーダン! 飲め!」
ナッツが無理やりポーションをボーダンに飲ませるが回復する兆しはない。
「中級ポーションじゃダメか!?」
その様子を嘲笑うようにニヤリと眺めていた女性はゆっくりとボーダンの方に向かってくる。
わたしはその女性を〈天眼〉で確認した。
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種族:シンギュラリティゴブリンクイーン
状態:通常
人間の女性に近い姿を持つ小鬼型モンスター。推定Bランク。空気と風を魔法で操り突風の弾丸を飛ばしたり、自身に風による素早さ強化のバフをのせたりする。風のバリアを張ることで遠距離攻撃を阻害する。
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『ミニック。あれはゴブリンみたい。倒すよ』
『でも、ボーダンが……』
『あーもう! そっちはなんとかするから戦いに集中して!』
ミニックが少し震えながらシンギュラリティゴブリンクイーンのに弾丸を撃ち込む。しかし、風のバリアが発動して弾丸を通さずに吹き飛ばしていく。
わたしはミニックが牽制しているうちに〈天与〉を発動した。
<供与する技能、魔法または聖遺物を選択してください>
ヴォイドインジュアリーを選択。
<天声ポイント10ptの消費を確認しました。〈天与〉を開始します……完了しました>
『ミニック! 画面を共有してもいい?』
『大丈夫なのです』
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魔法名:ヴォイドインジュアリー
対象に触れて発動することで対象の負傷を無かったことにする。
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『これでボーダンを治療して!』
『わかったのです!』
「ナッツさん! 足止めを頼むのです!」
「あれをか? 俺たちには無理だ!」
「10秒でいいのです」
「わかった。10秒でいいんだな。カイレン、リアナ、ホーク行くぞ!」
ミニックがボーダンの前まで移動して精神集中を始める。
その間ナッツたち4人は弓と魔法でシンギュラリティゴブリンクイーンを攻撃するがゴブリンクイーンはまたも風のバリアでそれを無効化する。
ゴブリンクイーンが手を前に突き出した! そこには魔力が練り込まれ風の弾丸が生成されて射出される。
「ぐっ!」
カイレンが剣でそれを防御しようとする。しかし風の弾丸の威力が強くカイレンが吹き飛ばされる。致命傷ではないが戦闘には戻れないだろう。
「ミニック! まだか!?」
「ヴォイドインジュアリーなのです!」
ミニックがボーダンにヴォイドインジュアリーを発動した。その効果はすぐに現れボーダンの致命傷だった傷は全て癒えてなくなる。
「何があった? ボーダンの怪我がなくなったぞ!」
「ミニックが回復魔法も使えるの!?」
ミニックの様子を横目に見ていたナッツとリアナが驚きの声をあげる。だがそれに構っている暇はない。
『ボーダンはもう大丈夫! あのゴブリンに攻撃して!』
バンバン!
ミニックが弾丸を再度ゴブリンクイーンに打ち込む。しかしやはり風のバリアに阻まれて弾丸はゴブリンクイーンに届かない。ニヤニヤと笑うゴブリンクイーン。そのまま風の弾丸を放ってきてミニックたちは懸命にそれを避ける。
「くそ! 何か手はないのか!?」
「魔法を使うのです!」
「わかった。つまりはまた時間稼ぎってことだな!」
ナッツたちが弓と魔法でゴブリンクイーンを攻撃する。もちろんバリアに阻まれるがその間ゴブリンクイーンも攻撃はできないらしい。今はそれだけの時間が稼げれば十分だ。
「ヴォイドイレイサーなのです!」
ミニックが素早く精神集中して2連続の魔力のこもった弾丸を撃ち放った。魔力消費を抑えた弾丸で魔力を錬る時間も短縮されている。一発目の魔力の弾丸が風のバリアを消失させて、次弾が消失させた空間を通り抜けてクイーンの眉間に吸い込まれそうになる。
しかしそれはクイーンの手前で弾かれるように阻まれてた。
おそらくバリアを2重で張っていたのだろう。せっかく練習してきた戦法が簡単に打ち破られた。
しかし今の弾丸にはゴブリンクイーンも驚いているようだ。ミニックを敵と見做したようできつい目線をミニックにむけている。
ゴブリンクイーンの足に魔力が集中していく。そう思ったらいつの間にかミニックの前にゴブリンクイーンが現れて掌底を放とうとしているところだった。
風による素早さ強化のバフか! やられた! これでは回避が間に合わない!
時間が走馬灯のように引き伸ばされる感覚におちいる。視界が狭くなる。また失敗か。やり直しになってしまう。
掌底がミニックに迫る。もうだめか! わたしは目を瞑りたい感覚におちいる。
「ゴフ」
掌底がカイレンに突き刺さった。
一瞬『どういうこと?』と混乱するが、ギリギリのところでカイレンがミニックとゴブリンクイーンの間に割り込んだのだと認識が追いついた。
カイレンの腹は大きく抉れてゴブリンクイーンの腕が貫通している。そのゴブリンクイーンの腕をカイレンが気力を振り絞ってつかみかかる。
「借りは、返した、ぞ。今の、うち、にやれ!」
「でも!」
「時間がない! はや、く!」
「……許さないのです!」
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!
ゴブリンクイーンの眉間に銃口を当て弾丸を連射する。流石にこの近さでバリアを張ることはできない。至近距離からのオーバキルの攻撃だ。ゴブリンクイーンは脳天を撃ち抜かれてもすこしの間痙攣していたがやがて動きが止まって息たえた。
「カイレン! もういいのです! 腕を離すのです!」
シンギュラリティゴブリンクイーンが死んだ後もカイレンは腕を離さず掴んだままだった。意識を失っているのか。このままゴブリンクイーンの腕が体に入り込んだままでは回復ができない。
「引き離して!」
「わかってるぜ!」
駆け寄ってきたリアナとホークがカイレンとゴブリンクイーンの死体を引き離す。
「ヴォイドインジュアリー!」
ミニックが回復魔法を発動した。カイレンの穴が空いた体が一瞬にして元の状態に戻る。しかしカイレンは目を覚さない。
「……間に合わなかったのです?」
「まさか」
リアナがカイレンの意識がないことを確認して心臓に手をやる。心臓マッサージをするようだ。胸骨圧迫と人工呼吸を交互に行い意識を取り戻そうと必死になって心肺蘇生をおこなっていく。
しかし、カイレンの目が覚めることは無かった。
<天の声保持者の大切な者の死亡を確認しました。協議を開始します>
わたしの視界は暗転した。
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