083.ゴブリン掃討戦
「よし。全員集まったな」
ボーダンが自分の隊の人員が全員集まったことを確認してそう声をかける。
今はゴブリンが巣を作っている洞窟の近くだ。洞窟の前には見張りらしきゴブリンが警戒するように立って、あたりを確認しているのが見える。
ボーダンの隊は隊長のボーダンに加えてミニック、〈ヴェイルウォーク〉のカイレン、リアナ、ホーク、そして初めて冒険者ギルドに入ったときボーダンとの間で仲裁をしてくれた男、ナッツの6人だ。
冒険者の数に対して人数が少ないのではと思われるかもしれないが、他の冒険者たちは後ろからついてきてゴブリンキングがいない部屋の掃討をしたり、洞窟から逃げ出したゴブリンを待ち伏せしたりするようだ。
ゴブリン掃討戦は旨味の少ない依頼であるため冒険者たちは少しでも楽な仕事をしたがるらしい。ゴブリンキングを倒すなんていう労力の割に稼ぎにならない役目はごめんなのだろう。
ちなみに〈ヴェイルウォーク〉の面々はFランクなのに自主的に参加している。ミニックに少しでも恩を返すためらしい。カイレンたちの恩義に対する真摯さはすごいものがあるね。
「じゃあそろそろいくぞ。ポーションは持ったな? ミニックがあの見張りを倒すのが突入の合図だ。ミニック。いけるな?」
「もちろんなのです! いくのです!」
バン!
その一撃で見張りのゴブリンが倒される。
「皆走れ! ゴブリンたちを根絶やしにするぞ!」
ボーダンの号令によって6人は洞窟の中に入っていく。続けて他の冒険者たちも続々と洞窟の中に向かっているのが見える。ミニックが先頭になってどんどんと洞窟の中を進んでいく。
バンバン!
ミニックたちは地図を確認しながら真っ直ぐにゴブリンキングがいる部屋の方向に進んでいく。調査隊の斥候役が作った地図だ。
道には続々と侵入を察知したゴブリンやその上位種が湧いてくるがミニックが弾丸で黙らせる。
「楽すぎるな」
「ミニックが出会い頭にゴブリンを屠ってくれるからな」
「わたしたちやることがないです」
「お前たちはキングがいる部屋に着くまで気を引き締めて準備してろ。そろそろ着くはずだからな」
そんなことを話しながらしばらく進んでいると大部屋に出た。いや大部屋というよりはもう野球場か何かと見間違えるくらいにはでかい部屋だ。
見渡すと大量のゴブリンたちがいる。その数おそらく1000以上。全てがEランク以上の上位種みたいだ。
「ここがゴブリンキングのいる部屋だな! おれが仕留めにいく。皆援護しろ。ファイアアックス!」
「アースバレット!」
「しっ!」
ボーダンがファイアアックスの魔法を使用した。斧に炎を付与する魔法だ。ボーダンが斧に炎を纏わせてゴブリンたちに突っ込んでいく。
リアナが魔法の攻撃をして、ホークとナッツが弓で矢を射り、カイレンが近場にいたゴブリンに切りかかる。ミニックが弾丸を飛ばしてゴブリンたちをどんどんと倒していく。
見ているとナッツはさすがにベテランの冒険者という感じでゴブリンを倒していくね。
だけど〈ヴェイルウォーク〉の面々はまだちょっとあぶなげな戦闘をしているのでヒヤヒヤする。それでもミニックに助けられながら懸命に戦っている。
ボーダンが炎を纏った斧を振り回してゴブリンを振り払ってどんどん進んでいく。しかしゴブリンジェネラルがその前に立ちはだかる。さすがのボーダンもジェネラルを一撃で倒すことはできないらしく立ち止まって応戦する。しかし他のゴブリンたちがボーダンに迫ってきて挟み撃ちにされそうになる。
「ヴォイドイレイサーなのです!」
ミニックが魔力のこもった弾丸を飛ばしてボーダンに立ち塞がるゴブリンジェネラルの頭を消失させた。若干オーバーキルのような気もするけど、そこはボーダンに警告する意味もあったのだろう。案の定ボーダンから反応がある。
「よくやった!」
「まだこれからなのです! 突出しすぎちゃダメなのです!」
「おう。わかった。気をつけるぜ」
続々とゴブリンが迫ってくる。それをミニックたちは順々に倒してゴブリンの数を減らしていくがゴブリンたちの指揮は下がらない。むしろさらに攻撃的になっているように見える。
次第にゴブリンの数が減っていき。奥の方が見渡せるようになってきた。
近くには身長2メートルほどはありそうな大剣を持った筋骨隆々のゴブリンが木製の椅子に鎮座しており、何事かゴブリンたちに命令を出している。
あれがゴブリンキングかな?
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種族:ゴブリンキング
状態:通常
巨大な肉体と繁殖力を持った小鬼型魔物。Cランク。強靭な肉体での大剣での攻撃は脅威的。いるだけでゴブリンたちの戦闘指揮、能力を上げる効果を発揮し、さらに興奮状態にして不退転のゴブリン集団に変える。
────────────────────
やはりあれがゴブリンキングらしい。本体もさることながらゴブリンたちの能力を上げる効果はかなりめんどくさそうだ。ゴブリンたちの指揮が高かったのは興奮状態にあるせいかな?
とうとうゴブリンキングにボーダンがたどり着いた。ゴブリンキングが椅子から立ち上がり戦闘の体制を取る。ボーダンが付与のきれた斧を上段から振り下ろす。キングの剣と斧が打ち合わされて軽く火花が舞う。
「お前らは他のゴブリンが近づかないように援護しろ! こいつは俺が一人でやる!」
少しの隙をついてボーダンがメンバーに方針を伝える。
ミニックたちはボーダンに近づかせないように立ち回ってゴブリンを屠っていく。ゴブリンキングとボーダンの周りから人と魔物がはけて円周状の闘技場のような様相をみせている。
「ファイアーボール!」
一度後ろに飛び退いたボーダンが魔法を詠唱して炎球を放つ。しかしゴブリンキングはそれを剣で一刀両断にしボーダンを見やる。
「ファイアアックス!」
ボーダンが再度斧に炎を纏わせた。ゴブリンキングがダッシュして近づいてくる。
斧と剣を何度も交わらせた2者の猛攻が続く。しかし炎の熱に徐々にダメージが入っていたのかゴブリンキングの剣がどんどん欠けていきとうとう根本から折れた。
「とどめだ!」
剣の使えなくなったゴブリンキングの頭にボーダンが斧を振り下ろした。ゴブリンキングの頭がふたつに裂けてその命を散らす。
「やったぜ!」
「さすがです!」
「まあ、ゴブリン程度にやられるボーダンじゃねえよな」
周りのゴブリンをあらかた倒し終えた他のメンバーたちにも弛緩した空気が流れ始める。
しかしそんな空気を突如吹き荒れた突風が嘲笑うように吹き飛ばす。
「ボーダン! 後ろなのです!」
気がつくとキトンを纏った緑色の肌の女性がボーダンの後ろに立っていた。そのままボーダンの背中に手を当ててボーダンの巨体を突き飛ばす。
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