081.防具と帰り道
結局あのあとゴダックの護衛は特に問題なく進んでいった。まあ、毎回食事をねだられたというのはあるけど、奴隷の女の子にも干し肉じゃない普通の食事をさせられたと考えれば良いことなのだろう。最後の方は女の子もミニックのことをそんなに敵意を向けなくなってきていたのでよかったのだと思うことにする。
ミニックにはカタノヴァの冒険者ギルドで護衛依頼の完了を承認してもらうと早速防具屋に向かってもらった。
この街では亜人族じゃない人がやっている防具屋もあるらしいからね。そこで防具を更新するのだ。
まあ杞憂だとは思うけどゴブリンの集落を攻めるなら万全な状態を整えておきたいからね。いつまでも布の服で戦うのは流石にもしもの場合が怖いから。
「いらっしゃい! ってなんだ。小人族か? 冷やかしならやめてくれや」
「冷やかしじゃないのです。防具を買いにきたのです」
そう言って店主の男の目の前に金貨を20枚積み上げる。円で200万円換算の金額だ。それなりの防具は買えるだろう。
それにしてもミニックは最初泣き虫だったのにだいぶ堂々としてきたね。店主のちょっとした脅しにもびくつかずに対応している。魔物と戦ったことでだいぶ耐性がついてきたみたいだ。
「なるほどな。本気なのはわかった。だがウチにはあまり小人族用の防具はないぞ。あるのは既製品のあそこにあるやつくらいだな。それ以外だとオーダーになる。だが20万ニクルじゃちょいと足りねーかな」
「既製品でいいのです。ちょっと見せてもらうのです」
「おう。わかった」
ミニックは防具を見て回る。その中で1つ、黒い防具に目をつけた。
「かっこいいのです」
「ああ、それか? ダークスネークの皮で作ったやつだな。Cランクの魔物だが伸縮性があって軽いから使いやすいぜ。それでいて硬度もそれなりにある。値段は15万ニクルだな」
「これにしたいのです。着てみてもいいのです?」
「好きにしな。きちんとフィットしたやつを選べよ。防具は命に直結するからな」
◇◇◇
結局ミニックはダークスネークでできた防具を15万ニクルで購入した。その場で防具に着替えて黒い服装に身を包んでいる。
カタノヴァからスタリアへの道のりは順調だ。馬車に揺られながらミニックは魔法の練習をしている。
『ヴォイドイレイサーなのです』
ミニックが持っていた石に指を突き立てて魔法を発動させる。その石は直径5センチメートルくらいの穴を開けてその後ヒビが入って割れてしまった。
『難しいのです』
『魔力の微調整は難しいのかもね』
今やっているのはヴォイドイレイサーの魔力消費を抑えた発動の練習だ。今は直径1センチメートルくらいの穴を開けるように調整してもらおうとしている。ちなみに既に念話詠唱は獲得済み。
ヴォイドイレイサーはその消失範囲で魔力の消費量が大幅に変わる。多分球体で換算してると思うから直径が2倍になると魔力の消費量は2×2×2の8倍になってると思うんだよね。それを直径1センチメートルくらいのちょうど弾丸が通る大きさまでできるように練習させている。
なぜそんなことをするのかというと穴を開ければ弾丸が通る魔物がいると思うからなんだよね。
例えば外皮が硬い魔物であってもその外皮を消失させて中の肉だけの状態にしたら多分普通の弾丸でも貫通させることができると思う。ヴォイドイレイサーの弾丸と通常の弾丸を連続で打ち込むことで消し去った外皮の後に通常の弾丸が魔物を穿つというわけだね。
あとはバリア対策。バリアも一部だけ穴を開けられればそこから弾丸を通して敵に直接弾丸を当てることができる。
といってもこれはミニックの弾丸の精度がすごいからできる芸当なんだけどね。ミニックの一番のチートはわたしが付与した能力よりも射撃精度だと思う。
ちなみに銃関連でいうと他にも試してもらいたいことはあるんだけど今は馬車の中だからね。流石に銃を使うのは躊躇われた。
『もう一回!』
『わかってるのです! ヴォイドイレイサーなのです!』
今度は直径4.5センチメートルくらいかな?
なんだかんだでミニックは器用だからスタリアに帰るまでには習得できてしまいそうかな?
「いや!! 助けてくだしまし!! 誰か!!」
練習していると不意に前方の離れたところで悲鳴が聞こえた。よく耳を澄ますと剣戟の音も聞こえる。
『誰かが襲われているみたいだね』
「急いでくださいなのです! 人が襲われているのです!」
「だめだ! 俺たちも襲われるかもしれない。俺は戻るぞ」
ミニックが馬車の走らせるスピードを上げるように催促する。しかし御者は逆方向に舵をとりはじめた。
わたしは先行して何が起こっているのかを確認する。見えたのは豪華な馬車が盗賊に襲われているところ。馬車の近くで女性が騎士に囲まれて守られている。
騎士は盗賊と応戦していているが人数差が激しく劣勢のようだ。
『ミニック。急いだ方がいいかも。馬車が盗賊に襲われている』
『わかったのです』
「ぼくは降りて向こうにいくのです」
「勝手にしろ」
ミニックが馬車を飛び降りて盗賊が襲っているところまで走っていく。
バンバンバンバンバン!
ニュートラルアークデュオを取り出して盗賊の頭を狙い打つ。いつ見てもすごい精度だ。寸分の狂いもなく弾丸が盗賊の頭に吸い込まれていく。
「なんだ!」
「新手か!」
向こうでは盗賊と騎士の両方から驚きの声が上がる。
「助太刀にきたのです!」
「小人族?」
「いやでも盗賊が倒されているぞ。かなりの手練れだ」
「おいお前ら! 遠距離攻撃が厄介だ! まずはあのチビをやっちまえ!」
盗賊達がミニックに迫ってくる。しかしミニックはその盗賊達を次々に倒していく。一方的な蹂躙だ。大勢いた盗賊達は既にその数を半数以下に減らし、騎士達も体制を立て直しているように見える。
「くそが! 役に立たねえ奴らだ。あいつは俺がやる。お前らはこのまま馬車を襲ってろ」
盗賊の頭領と思われる男が剣と盾を持ってミニックに迫ってくる。
バンバン!
ミニックが弾丸を頭領に撃ち放つ。しかし頭領はその弾丸を盾で弾き飛ばした。
『こういう時こそ魔法の練習の成果を試す時だね!』
『わかってるのです!』
ミニックが弾丸に魔力を込め始めた。さっきの練習でさせていた魔力消費を抑えた消失の魔法だ。
「ヴォイドイレイサーなのです!」
バンバン!
ヴォイドイレイサーは盾に直径4センチメートルの穴を開け、さらにその開けた穴を通って頭領の頭に弾丸が貫いた。
「おい! 頭領がやられたぞ!」
「撤退だ!」
頭領が死んだことで盗賊達は四方八方に逃げ出そうとする。しかし。
バンバンバンバンバン!
そんな盗賊達にミニックが追い打ちをかける。
『容赦ないね』
『盗賊は害悪なのです。今のうちに殺しておくべきなのです』
なるほどね。確かにそうかもしれない。
騎士達に減らされていた盗賊達はミニックの銃の乱射によって最終的に全てうちとられたのだった。
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