080.護衛依頼

 アイリスから護衛依頼受けたミニックはアラバ州の州都であるカタノヴァまでの道のりを馬車に揺られながら進んでいる。ミニックは馬車の中で魔法の練習。今はをしながら握りしめた石ころをヴォイドイレイサーで消せないかを試している。


 聞いての通りわたしとミニックは護衛依頼を受けることにした。


 アイリスが言うにはギルドへの貢献度はこの前のフォーチュンラビットのドロップと今回のDランクの魔物とEランク魔物のドロップで十分だったらしく、あとは護衛依頼をこなせばDランクへの昇格条件を満たすらしい。早く昇格させたいわたしとしてはうってつけな依頼だったということだね。

 ちなみにジャイアンラビットのドロップアイテムも買取に出していない。騒がれると困るからね。


 討伐隊が組まれるというのに護衛依頼なんか受けさせてもいいのかと思われるかもしれないけど、カタノヴァは2日で着く距離らしく、往復で4日で戻って来られるという計算でアイリスに送り出された。アイリスも随分と無理なスケジュールを組んでくれるよね。だけど依頼人の要望でもあると聞かされれば仕方がない。


「それにしてもまさかギルドマスターに小人族を紹介されたときは何事かと思いましたが、これほどの腕利きとは驚きですな」


 そうミニックに話しかけてくるのは今回の護衛相手の商人、ゴダックだ。まだ30歳くらいと若い見た目だがゴダック商会というアラバ州でも一番の商会の会頭らしい。


「お褒めに預かり光栄なのです。ですがぼくなんてまだまだなのです」


 最初はゴダックもミニックのことを懐疑的な目で見ていたけど、先ほどミニックがDランクの魔物であるシルバーファングを瞬殺したことで見る目が変わったみたいだ。今はミニックのことを信用して任せてくれている。


「ははは。謙虚ですな。そろそろ昼の休憩にしますぞ」

「わかりましたなのです」


 しばらくして馬車が止まる。見晴らしのいい場所だ。ここで休憩に入るみたいだね。ここなら魔物や盗賊に襲われそうになってもすぐに発見することができると思う。


 馬車が止まった後ゴダックが馬車に人を呼んだ。御者をしていた狼獣人の女の子だ。ゴダックの奴隷兼護衛らしい。二人は昼食を取るみたいだね。


 昼食は干し肉みたいだ。色褪せた茶色の外見をした固そうなそれはあまり食欲をそそらない。でもこの世界では旅中の食事は干し肉が一般的みたいなんだよね。やっぱり保存性と保存場所の問題で新鮮な肉とか野菜とかはあまりむかないらしい。


 それにしても女の子はミニックのことを敵意のある目で見ているね。やはり小人族は獣人にも嫌われていると言うことなのだろう。ミニックは少し居心地悪そうにしている。


 そんな中でミニックは〈収納〉から出来立ての状態のホットサンドウィッチを取り出した。ゴダックの前で美味しそうにそれを頬張る。これは昨日のうちに大量に購入した食べ物の一つだね。ミニックには好きに食べていいと許可を与えている。


 だけど〈収納〉を人前で使うのは感心しないね。


「まさか、それは〈収納〉ですかな!?」


 ほら。やっぱり驚かれた。


「そうなのです」

「まさかミニックさんは〈運送術〉の技能スキルをお持ちで?」

「〈運送術〉なのです?」


 ゴダックが言うには〈運送術〉と言う技能を取得した人が稀に発現する能力が〈収納〉なのだそうだ。〈運送術〉の副技に〈収納〉があるんだろうね。そして〈収納〉を使えるようになった人は商人として成功することが約束されたようなものらしい。


 まあ、それはそうだよね。だって無限の容量がある時間停止機能を持った運送可能な倉庫を手に入れたようなものだから。これを使えば運送業に革命が起こるくらいのチートスキルだもの。


 そういえば今更だけど〈天授〉とか〈天秤〉で授かる技能って副技みたいだよね。恩恵で授かる技能は副技を内包してるけど、〈天授〉の技能はそれ単体で効果を発揮するから。まあ、だからなんだって話なんだけど。


 わたしはゴダックの様子を確認している。〈収納〉を見てどんな反応をするか確認するためだね。

 案の定ゴダックの目が獲物を追うそれに変わったような気がする。


「ぜひウチの商会で働きませんかな?」

「申し訳ないのですがお断りするのです」

「良い待遇をお約束しますぞ?」

「ぼくは冒険者で強くならないといけないのです」


 うんうん。ミニックにはSランク冒険者になってアルトを追ってもらわなきゃいけないからね。


「そうですか。それなら仕方ありませんな。ところでそれはサンドウィッチですかな? 他にもあればわたしにも譲っていただけると嬉しいですな。もちろんお代はお支払いしますぞ」

「わかりましたなのです。はいなのです」


 ミニックは〈収納〉からサンドウィッチを2つ取り出してゴダックに渡す。


「1つで良いのですぞ。奴隷の分はいらないですからな」

「それならお代は1つ分で良いのです。なのでそちらの方にもあげてほしいのです」

「……わかりましたぞ」


 そう言ってゴダックは奴隷の女の子にサンドウィッチを渡した。女の子は最初驚いたような顔をして断ろうとしていたが結局受け取ってくれたみたいだ。尻尾がゆらゆら振られている。なんだかんだで嬉しかったのだろう。


『ミニック。魔物がくるよ』


 わたしの声に反応したミニックが馬車の外を確認する。


「どうかしましたかな?」

「またシルバーファングのようなのです。倒してくるのです」

「なるほど。よろしくお願いしますぞ。ルナ。お前も行ってきなさい」

「大丈夫なのです。ぼくだけで十分なのです」


 食事中に襲撃してくるなんて無粋だよね。奴隷の女の子にはちゃんと食事をとってもらいたいからね。決して女の子が可愛いからじゃないよ? 狼耳をもふもふしたいとか思ってませんとも。ほんとだよ?

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