068.VSゴブリン再び
ミニックが家の前で父親に押し出されて転げている。
前回と同じ光景だ。だけど前回と違って落ち込んではいるけど泣いてはいないみたい。まあそれはどうでもいいことだ。
『さて、早速ミニックには冒険者になってもらおうか!』
『何が早速なのです?』
『おっ、えらいね。早速念話を使ってるね』
『まあ、なのです』
伸ばし伸ばしにするのもなんなので家に行くまでの道のりで念話を練習したのだ。それでうまくできていたから褒めた。褒めて伸ばすスタイルだ。ミニックもまんざらでもないような顔をしている。
実際、念話を使いこなすスピードはアルトよりも早い。戦闘面ではアルトは天性のものがあったけど、ミニックは器用なのかもね。
『お金がないのは知ってるよ。だからミニックには街を出て薬草採集と魔物狩りをしてもらいます』
『無理だと思うのです』
『やる前から否定しない』
『でも、武器も魔法もないのにどうやって戦うのです?』
『武器ならさっきあげたでしょ?』
ポイントを100ptもつぎ込んだ銃だよ? これで強くなかったら嘘だよね。
『武器ってこれのことです?』
異空間から2丁の拳銃を取り出す。でも持ち方がおかしい。銃口側を持ってブンブンと振っていた。
『これなら棍棒のほうがまだマシなのです』
『持ち手が逆だし、そうやって使うものじゃありません』
『どういうことなのです?』
『逆側を持って引き金、そう、そこを引くと、ってちょっと待った!!』
バン! と音がして弾丸がミニックの顔を掠めた。ミニックの頬に赤い筋ができる。
あぶな! こんな凡ミスで死に戻りとか本当に洒落にならないんですけど!
みるとミニックは青い顔になって尻餅をついている。相当驚いたようだ。この武器の危険性は十分理解してくれただろうからわたしからのお小言は無しにしてあげる。
『……とりあえず使い方はわかった?』
ミニックは言葉を発さなかったが、コクコクという首の振りで理解したことを伝えてくれた。
◇◇◇
『悪魔さんはなんでぼくのことを助けてくれるのです?』
『言ったよね? 助けるかわりにわたしの言うことを聞いてもらうって』
『やっぱり悪魔さんは悪魔さんなのです』
ミニックが笑う。いやなぜそこで笑う? 笑う要素ないよね? そして2回目でも悪魔さん呼びが続くみたいです。ちゃんと〈天の声〉だって言ってるのに。アルトもそうだけど誰もわたしのことを〈天の声〉だって認めてくれないよね?(アルトへの盛大な風評被害)
まあそれはともかく、街の外を出たミニックとわたしは薬草摘みをしながら木々が生い茂る道を進んでいる。
『多分そろそろだ……。やっぱり。止まって』
『はいなのです』
なぜ止まったのか。それは前回ゴブリンと遭遇したところにきたからだ。今回も駆け出し冒険者の3人がゴブリン9体に囲まれている。
『ミニック。前にゴブリン9体。倒せる?』
『わからないのです。でもどうにかしないとあの人たちが大変なのです』
『そうかもね。だけどミニックが倒せないと判断するならここは撤退だよ』
『それならいけるのです』
それならってなんだよ。ミニックに死なれてしまうとわたしが困るんだけど。そんなわたしの心の声はミニックには届かない。
「そこの3人!! しゃがむのです!!」
ミニックの言葉に冒険者たちが一瞬浮き足立つがすぐにしゃがみ込む。ゴブリンたちがミニックに気がつきギャーギャーと声を上げてこちらを向く。だが振り向いたゴブリンたちはミニックを視界に入れることはなかった。
バンバンバンバン!!
振り向いた4体のゴブリンがその脳天を弾丸に撃ち抜かれ吹っ飛んで倒れ込む。多分即死だ。動き出す様子がない。
バンバンバンバンバン!!
続けて5連射をミニックが放つ。その間1秒もない。しかも全ての弾丸が吸い込まれるようにゴブリンたちの脳天を貫いていく。
これならあの3人にしゃがんでもらう必要なかったんじゃないの?
それにしてもすごい射撃能力だ! そんなミニックにはこの言葉を送りたい。の○太くんかよ!?
いきなりこんな射撃精度あり得るの? そう思ったら〈天眼〉さんから〈全銃技〉の詳細をもらった。
────────────────────
技能:全銃技
副技:拳銃術 Lv.1
体力 Lv.1
器用 Lv.5
命中 Lv.5
瞬発力 Lv.1
反射神経 Lv.1
???
────────────────────
最近また調子乗り出したよね。〈天眼〉さん。
まあそれはいいとして器用と命中のレベルが高すぎなんですけど。Lv.5とか今までで見たことない。ノーアの〈気配遮断〉ですらLv.4だったはずだよ。まあ最初しか見てないから上がってたのかもしれないけど。
これは〈天眼〉さんからのもっと技能をちゃんと見ろっていうお達しかな。確かに強さの基準だから見たほうがいいんだろうけど。地味に面倒なんだよね。わかりましたよ。頑張って見ますとも。
3人の冒険者たちはしゃがみ込んだまま呆然とした様子でミニックのいる方を見ている。
まあ、そうだよね。自分達がやられそうになっていたところでゴブリンが瞬殺されたらね。誰だってそうなるよね。
ミニックが3人に近づいていく。3人はミニックを視界に収めたのだろう。「え? 子供?」「いや。小人族だ」「強すぎじゃね?」と口々に言い合っている。
「大丈夫なのです?」
「ああ。……助かった」
「ありがとう」
「死ぬかと思ったぜ」
4人が口々に言い合っている。弛緩した雰囲気が漂ってくる。しかしその余裕を見せるのはまだ早かったみたいだ。
『また魔物がくる』
『本当なのです!?』
「どうかしたのか?」
「また魔物がくるのです」
「なんですって!」
「本当だぜ。足音が聞こえてくる」
またゴブリンだ。だけど大きさがさっき倒したものよりもひと回りから2回り大きい個体が含まれている。上位種かもしれない。
〈天眼〉で素早くゴブリンたちを確認する。
『敵は全部でゴブリン15体。その内Eランクのゴブリンシャーマン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンソーディアー、ゴブリンシーフが1体ずつ。さらにDランクのゴブリンジェネラルが1体だね』
『本当なのです!?』
ミニックが驚きながらもそのことを3人と共有する。
「無理だ、逃げようぜ」
「それこそ無理よ! 追いつかれるわ!」
『逃げられるのです?』
『ミニックだけなら逃げられるかも。だけど怪我してる3人は追いつかれると思う。どうする? 逃げる?』
正直、今のミニックなら問題なく倒せると思う。だけど、ミニックは防御が心許ない。もし怯えて力が出せないようなら逃げる方がいいのかもしれない。
実際、ミニックは震えている。9体のゴブリンたちを倒していたときもずっと震えていた。
『大丈夫なのです!』
強がりなのはわかってる。だけどその男気は買ってあげよう。
『わかった。まずは遠距離持ちのアーチャーとシャーマン、それと厄介なシーフとソーディアーを狙って!』
バンバンバンバン!!
言い終わるよりも早くミニックがを狙い撃つ。その一発で3体の頭は撃ち抜かれるがソーディアーだけは剣でその銃弾を弾き飛ばした。
「援護を頼むのです!」
「俺らではジェネラルは無理だ。ソーディアーに行く」
「わかったのです!」
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!
モブのゴブリンたちをミニックが蹂躙する。だがその間にソーディアーとジェネラルが4人に急接近してくる。
ミニックがジェネラルに向けて銃弾を放つ。しかしジェネラルが持つ大楯に阻まれて銃弾が弾かれる。3人の冒険者たちはソーディアーの剣戟をいなしつつ戦っているが押され気味だ。ミニックから気が逸れているうちに倒してしまった方がいい。
『ソーディアーに撃って!』
バン!
ソーディアーの脳天に弾丸が突き刺さってそのまま倒れ込む。よし! あとはジェネラルだけだ。
「ヴォイドサウンド」
ミニックが銃弾を撃ち放った。それがジェネラルの脚太ももに突き刺さる。だがジェネラルはその弾丸をものともしないで突き進んでくる。弾丸を打ちまくるミニック。それは全て盾に阻まれてジェネラルの前進するスピードが落ちるだけだ。
だけどそれも計算の内。ジェネラルは後ろから近づいてくる音に気がつかない。
「アースバレット!」
「しっ」
魔法と矢がガラ空きのジェネラルの背中に突き刺さる。そして動きが止まったジェネラルに剣士が盾を持った腕めがけて斬撃をお見舞いした。それは切り落とすまではいかなかったが半分くらいまで切り込まれている。ジェネラル腕がだらりとたれ下がる。
「今だ! やれ!」
ジェネラルの頭に弾丸が撃ち放たれる。そのまま倒れ込んでその後動き出すことはなかった。
<天命ポイントが更新されました>
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