066.VSゴブリン
ミニックの無属性魔法を試した後、街の城門を出た。薬草採集と魔物討伐を兼ねた探索だ。門には門番がいたけど不審な目で手を払うような仕草をするだけで案外すんなり通ることができた。まあ、薬草摘みをする街人はそれなりにいるのかもしれない。
ミニックはビクビクとした足取りで道なき道をゆっくりと進んでいく。
だけどわたしはスパルタだ。ただ歩かせるわけではない。ミニックに念話を教え込みながら木々の隙間を進んでいた。
『ここはなんて言う国なの?』
「べトール連邦なのです。街の名前はスタリアなのです」
『また普通に喋ってる』
『……ごめんなさいなのです』
話している間にも片っ端から草に〈天眼〉をかけてはミニックに薬草などを採取させていく。あ、早速薬草を見つけた。
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名称:トゥルシー草
上級ポーションの材料となる薬草。
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『目の前にある草を摘んで? 画面が出てるところの下ね』
『さっきから不思議なのです。悪魔さんは〈鑑定〉持ちなのです?』
『まあ似たようなものだね』
ミニックの中でわたしの呼び方は悪魔になったらしい。不本意だけどまあ支障はないし好きなように呼ばせてあげることにしている。
『どうして悪魔さんはぼくについてくるのです? 悪魔さんはぼくのことを好きじゃないように見えるのです。それなのについてくる理由がわからないのです』
『そうするしかないからだよ』
『よくわからないのです』
『……止まって』
わたしの言葉にミニックが歩みを止めた。
木々の間から全身が灰緑で尖った耳を持つ子供くらいの背丈の魔物が複数見える。前にも見たことがある。あれはゴブリンだね。10匹くらいいる。だけど様子が変だ。何かを囲んでいるみたい。
『ゴブリンなのです?』
『そうだね。しかも冒険者が囲まれているみたい』
囲まれているのは冒険者3人。見たところまだ駆け出しのように見える。明らかに安物の防具を身につけて包囲するゴブリンたちを怯えた表情で見つめている。
『剣士と魔術士、弓士が一人ずつ。パーティーとしてはバランスが良く見えるね。だけど全員が怪我をしているみたい。それに対してゴブリンは9匹。このままじゃまずそうだね』
『た、助けるのです』
『危険だけど?』
いつもは弱気なミニックが彼らを助けると言い出した。だけどそれは悪手だと思う。
冒険者たちの見た目を悪し様に言ったけど、はっきり言って彼らよりもミニックの方が酷い格好だ。防具ですらないただの布でできた服装に武器もなし。最初から9匹いるゴブリンの群れはミニックには荷が重いんじゃないかな?
『魔法があればなんとかなると思うのです』
ミニックは体を震わせている。しかしその顔を見ると決意に満ちた目をしていた。
ふーん。そんな顔もできるんだね。ただの泣き虫かと思ってたけどミニックのことをちょっと見直したかも。ちょっとだけだけど。
まあそれだけ助けたいなら頑張ってみればいいんじゃないかな? どうせわたしには止めることはできないし。
『じゃあ、魔法の準備をしたら急いで向かうよ』
『はいなのです!』
手に魔力をためた後ミニックが走り出す。以外にも足が速い。小さい体をさらにかがめて姿を隠すようにしながらゴブリンに急接近していく。
そして、一体のゴブリンの後頭部めがけて掌底を放った。
「ヴォイドイレイサーなのです!」
ゴブリンの頭に直径10センチほどの穴があく。頭に穴が空いたゴブリンは体をびくつかせてその場に倒れ込む。
ミニックは倒れたゴブリンを跨いで3人の冒険者の方へと向かう。
「す、助太刀するのです」
声を震わせているのがちょっと残念。
「何!? 子供!?」
「いや。小人族だ!」
「ゴブリンの頭に穴が空いたぞ!」
冒険者たちが騒いでいる。ゴブリンたちは一瞬驚いたように混乱していたがすぐに一匹がミニックに向かって短剣を振りかぶって襲いかかってくる。
『次の魔法の準備!』
「防いでくださいなのです!」
「ああ! わかった!」
「アースバレット!」
剣士が襲い掛かってきたゴブリンの短剣を剣でいなしながら防ぐ。魔術士と弓士の二人は後ろのゴブリンたち魔法や弓で牽制している。その間に魔力をためたミニックがゴブリンの体に掌底を放つ。
「ヴォイドイレイサー!」
風穴をあけたゴブリンがすぐさま倒れ込む。あと7体だ。
だけどゴブリンたちは今にも襲い掛かろうとしている。さてミニックはどうする気かな?
「包囲が薄いあそこから逃げるのです!」
逃げるんかい!
だけど冷静になって考えてみれば7体同時に相手にするのは確かに厳しい。最良の手かもしれない。
4人がミニックの倒したゴブリンの方へ一斉に駆け出す。ゴブリンが横から攻撃を仕掛けようとしてくるが剣士がそれをガードして弾き飛ばす。全員でゴブリンの包囲網を抜け出しミニックが来た方向へと向かっていく。
「おい。さっきのやつもう打てないのかよ」
「難しいのです。走りながらだと精神集中できないのです」
ゴブリンが追いかけてくるなか剣士の言葉にミニックが答える。
アルトなら走りながらでも魔力を練られたけど。まあミニックとアルトを比べるのは気の毒か。
「そうかよ。おい。お前らは先に言ってろ」
「何する気!?」
「このままじゃどのみち追いつかれる。俺が殿をやるから先に逃げてろ」
「待ちなさい!!」
魔術士の静止を聞かずに剣士がゴブリンの群れへ突っ込んでいく。だが多勢に無勢だ。ゴブリンたちの棍棒が猛威をふるい剣士の持つ剣を弾き飛ばす。剣士にゴブリンの棍棒が迫っていく。
『待ちなさい!!』
わたしの静止を無視してミニックがゴブリンと剣士の間に割り込んだ。そのまま魔法を放とうとする。だけど精神集中が足りずに魔力が練りきれてない。魔法が不発に終わったミニックの頭にゴブリンの棍棒がヒットする。そのまま地面に倒れ込んで起き上がることができない。
『ミニック!? 起きて!!』
ミニックは起きあがらない。剣士とミニックがゴブリンに群がられていく。剣士とミニックの悲鳴があがる。
ぷつり。
わたしの視界はブラックアウトした。
◇◇◇
<天の声保持者ミニックが死亡しました。天命を発動しますか? はい/いいえ>
……そうか。ミニックは死んでしまったらしい。
あまり感慨は浮かばない。ただ少し、思い違いをしていたなと思うだけ。
わたしはミニックの強さを勝手に過大評価していたみたいだ。表では弱そうと思いながらも〈自由神の勇者の種〉に選ばれるだけの強さはあると思い込んでいた。アルト並とは言わないけどそれなりの強さはあると。
だけどそんなことはなかった。
それはそうだ。どう見ても一般人、いや一般人よりも体躯が小さい小人族に強さを求めるのが間違いだったんだろう。
「はい」
<天命の発動を受諾しました。これより天の声保持者ミニックの遡及措置を行います>
アルトに会うためにはミニックを制御しなきゃいけない。ミニックを暴走させてはいけない。ミニックを安全に成長させなければいけない。よし。心に刻んだ。
<天命を発動したことで天の声の副技がアップデートされました>
<遡及完了。死亡ポイントにおける復活処理を行います>
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