061.ヴァルガン大司教を嵌めろ
国王様との面会から5日。
今日はヴァルガンがフェルヴィウス王の召喚に応じて王城に出向く日になっている。
フェルヴィウス王はアルトとセリスが王城に滞在することを内密に許可した。内密と言った通り公にはしていないし、その情報が漏れないように細心の注意を払っている。それは国が混乱するのを避けるためというのももちろんあるが、それ以上にヴァルガンに知られてしまうのを避けるためだ。
エレイン王女の体調が戻ったことも機密となっている。ヴァルガンに気づかれるとまたエレイン王女が狙われるかもしれないし、ヴァルガンが疑われていることに気がついて逃げる可能性もあるからだ。
ちなみにアーサーとアルセリアは王城にはいない。アーサーは訳あって他国へと出向いていて、アルセリアはセラフィナとノクターン城塞都市で襲撃者がきたときに捕らえる役目を負っている。アルセリアは最初は襲撃者の確保に消極的だったがセリスにお願いされると手のひらを返して捕獲に前向きになった。セリスは将来人を振り回す女性になりそうだね。
謁見の間でフェルヴィウス王が玉座に座っている。フェルヴィウス王の横には聖女テレジアが控えており、ヴァルガンの謁見を待っている。
扉が開きヴァルガンが謁見の間に入ってきた。フェルヴィウス王を王様とみなしていないような横柄な態度で玉座へ向かう絨毯の上を歩いてやってくる。
「これはこれは国王様。わたしを呼び出すとは何事です? テレジアさんもいるとは。王女様の治療はどうなったのです?」
「ヴァルガンよ。エレインの具合はよくなったのでな。テレジアはもう卿に返そうかと思っておる」
「まさか、本当ですかテレジアさん?」
「本当です」
「なぜわたしに伝えないのです!」
声を荒げるヴァルガン。そんなヴァルガンを見てフェルヴィウス王の目がきらりと光る。
「卿はエレインの快癒を慶してはくれなんだか?」
「……いえそんなことは。エレイン王女の呪いが治ったことは喜ばしいことです」
ヴァルガンは少し引き攣った顔をしているね。やはりヴァルガンには心当たりがあるようだ。だけどあくまで呪いだと言い張る。尻尾は出さないみたい。
騎士たちに紛れて隠れていたアルトが後ろから歩み寄る。
「誰です!?」
ヴァルガンは後ろを振り向きそれに気がつくがもう遅い。
アルトはその手に持つ注射器のようなものをヴァルガンに突き刺した。そして被っていたフードをとり顔をあらわにする。
「あなたはアルトさん!? わたしに何をした!?」
「ヴァルガン大司教。エレイン王女と同じ呪いをあなたに施しました」
ヴァルガンの顔が見る見るうちに赤くなっていく。
「なんですと! そんなことをしてどうなるかわかっているんでしょうね!? 国王様! アルトさんを匿うとはどういうことでしょう! ことによっては教会は黙っていませんよ! テレジアさん! 早くわたしの毒を解いてください」
「……」
「テレジアさん! どうしたのです! 早く! ホーリーキュアを!」
部屋の中が静寂に包まれていく。
「ヴァルガン大司教。今のは嘘です。あなたに毒は盛っていません」
「……おどかしてくれますね。けれどここに現れたのが運の尽きです。あなたを処刑させてもらいます。もちろん王家にもわたしを謀った罪を払っていただきますよ」
だけど、周りはしんと静まり返っている。
この場にはもう誰もヴァルガンの味方はいないよ。
「不思議なのだがヴァルガンよ。なぜ主はエレインのかかった毒が毒であることを知っておるのだ?」
「は?」
「なぜ、エレインが呪いではなく毒であることを知っておるのだと聞いておる。そのことはここにおるものしか知らない情報のはずなのだがな」
「いえ。それは……」
ヴァルガンの額から汗が滲み出てくる。己の失敗を悟ったみたいだ。
「これは何かの間違いで──」
「陛下! 大司教に関する新たな情報がございます」
「間に合ったか。急ぎ参れ」
謁見の間の扉が開き、伝令が慌ただしくフェルヴィウス王に近づいていき耳元で何事かを囁いた。
「そうか。ご苦労であった」
「は! わたしはこれで失礼します!」
フェルヴィウス王がヴァルガンに向き直って鋭い目線を向ける。
「ヴァルガンよ。ノクターン城塞都市でセラフィナはよく働いてくれているようだな?」
「も、もちろんです。魔人族の猛攻を一人で防いでいるようなものですから」
「そのことだが、残念ながら襲いかかってきているのは魔人族ではなかったようだ」
「は?」
「まさか教会関連の者を襲撃者に混ぜているとは思わなかったが、すべて証言してくれたようだ。卿が魔人族の襲撃を偽造しているということを。それにしても魔王の魔法はすごいな。まさか罪を自供させる魔法があるとは」
うん。アルセリアが上手くやったみたいんだね。ちなみに罪を自白させる魔法はアビスコンフェッション。質問に対して自意識下にある情報を嘘偽りなく強制的に告白させられる魔法らしい。抵抗しようとすると精神が壊れていくという副作用付きらしいからえげつない魔法だ。ぜひアルトにも覚えていただきたい。
これでヴァルガンは逃げることができないだろう。さてこの後はどうする気かな?
「ふふふ。ははは!! まさか愚鈍だと思っていた王がここまで真実にたどり着くとは」
「罪を認めるのだな?」
「罪? わたしはハモニス神の意向に従って魔人族を滅ぼそうとしているだけです。むしろ魔人族に対して攻勢をかけようともせず、それどころか魔王とそれに連なる者の助力を受けるとは。むしろあなた方が万死に値しますね。あなた方は魔王国オクアに戦争を仕掛けるべきだったのですよ」
ちょっとヴァルガンが何をいっているのか意味がわからない。
「もういいか。騎士たちよ。あやつを捕らえよ」
「わたしを捕らえる? ハモニス神の威光を受けたわたしを? それはハモニス神に歯向かうのと同義。あなた方には神罰が降るでしょう。それでもわたしを捕らえますか? 捕らえられませんよねえ?」
ヴァルガンの狂気に騎士たちが怯んでいる。ヴァルガンは自分の言っていることに自信があるのだろうか。心酔しきった目をしている。
「では道を開けなさい」
「そうはいかないね」
「アーサー王太子ですか。邪魔です。どきなさい」
謁見の間にアーサーが入ってきた。その後ろからは妙齢の女性が連なって歩いてくる。
「そこの女もどきなさ……あなた様は!」
ヴァルガンが女性を見るなり驚いた顔をした。確かにすごい豪華な服装をした人だけど。どなた様?
「フルル聖国からルミナリス教皇にご光来いただいた」
「フェルヴィウス王。この度はうちの信徒が迷惑をかけたようだな。許せ」
「いえ。もったいなきお言葉」
教皇様? 教会のトップがお出ましになりました。フェルヴィウス王の様子を見るにルミナリス教皇のほうが偉いみたいだ。破門されたらやばいみたいな感じなのかな。
「さて、ヴァルガンよ。何か釈明はあるか?」
「わたしはハモニス神のお声を聞き届けているだけです。魔王と魔人族はこの世から消さなければなりません」
「貴様の宗教上の解釈を聞いているわけではない。なぜトロン王国に対して侵攻しエレイン王女に毒を盛ったのかを聞いておる」
「わたしは導いているだけです。魔人族を撲滅するために」
「話にならんな。貴様は破門だ」
ルミナリス教皇は随分あっさりとヴァルガンを破門にした。
「そんな、お待ちください! 教皇様! ハモニス教会を導けるのはわたししかいない。わたしに触るな!」
ヴァルガンが叫びながら騎士たちに連れられていく。あっけない最後だった。
まあ、これで一件落着だね!
ルミナリス教皇がアルトの方を見やる。鋭い眼光がアルトを貫く。
「さてアルトよ」
うん、やばい。アルトはハモニス教会から逃亡中だった……。
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