044.クリムゾンドラゴンハイブ
アルトの爆弾発言から数時間。
温和そうなシルヴァを怒らせてしまったアルトだったがなんとか怒りを収めてもらってダンジョンの階層を進んだ。
そしてここは30階層ボス部屋の前。
アルトたちはボス部屋の中で飛び交う大量のドラゴンたちを眺めている。
「あれはボスなんでしょうか?」
「ん。たくさん」<うん。なんかたくさんいるね>
「あれはクリムゾンドラゴンハイブですね。ドラゴンの群れは眷属で本体はあの要塞です」
ドラゴンの群れの後ろに巨大な蜂の巣のようなものが鎮座しておりそこからどんどんドラゴンたちが姿を表していく。あの巣のようなものがシルヴァのいう要塞みたいだね。
というかシルヴァに説明を先こされた! わたしにはこれくらいしかやることがないのに……。
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種族:クリムゾンドラゴンハイブ
蜂の巣のような姿をしたドラゴンの巣型の魔物。SSランク。大量のドラゴンの眷属を召喚し物量で敵を押し潰す。眷属はそれぞれAランク相当の強さがあり、暴風のブレスを吐き出す。
クリムゾンドラゴンハイブの本体は部分的に攻撃してもすぐ再生してしまうため全体を満遍なく攻撃する必要がある。弱点は炎。
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「クリムゾンドラゴンハイブはダンジョンの主ではないんですよね?」
「はい。ダンジョンの主は35階層にいるようです。要塞に包まれて隠れていますが次の階層への階段がそこにあります」
「なるほど……。クリムゾンドラゴンハイブの弱点は炎みたいですけどアビスファイアは広範囲攻撃じゃないですし。困りましたね」
「範囲攻撃は得意」<範囲攻撃はぼくの得意分野だけど>
「でも風魔法だと威力が足りなさそうです」
「肯定」<ぼくもそう思う>
アルトの魔法は強力だけど範囲攻撃としては心許ない。それに対してノーアの魔法は柔軟で範囲も広くすることができるけど威力の方が物足りない。両方のいいとこ取りをできるといいんだけど、まあそんな上手い話はないよね?
「あなたは〈付与〉が使えるのですよね? 魔法に〈付与〉は試しましたか?」
「魔法に〈付与〉、ですか?」
「その様子だと試したことはないようですね。風魔法が使えるのであればそれにあなたのアビスファイアを付与したらどうでしょうか?」
「そんなことできるんですか?」
「できます」
わたしは『そうなの?』って思って〈付与〉のウィンドウを改めて呼び出して確認してみる。
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技能:付与
物体、魔法に効果を付与する
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確かに魔法に効果を付与できるみたい。ちゃんと書いてあるのに気が付かなかっただけみたいだ。また〈天眼〉さんのうっかりが発動したのかと思った。〈天眼〉さんにドヤ顔されてる気がする。疑ってごめんなさい。
「ノーアさんはあのでかい蜂の巣みたいなのをまとめて攻撃することができますか?」
「任せる。新魔法」<任せて。新しい魔法を覚えたからできるよ>
「ならいけそうですね」
「ではわたしは向こうで待ってますね」
「はい。教えてくれてありがとうございました」
わたしよりシルヴァの方がアルトの持ってる
そう思っていた時期がわたしにもありました。
しかし現実は無常。アルトとノーアは迫り来る多数のドラゴンの物量のせいで巣に辿り着けずに攻めあぐねていた。斬っても斬ってもどんどん湧いてくるドラゴンの群れに一度撤退を余儀なくされている。
アルトたちは改めて作戦を考えていた。
「〈隠密〉の効果で近づくことはできますか?」
「多分無理」<多分無理。魔物は気配に敏感だからどれかしらに勘づかれる>
「ですよね」
エーテルウッドの街の人間相手に完全に気配を悟らせなかった〈隠密〉の〈気配遮断〉と〈隠蔽〉だけど警戒している魔物相手には流石に見破られるみたいだ。アルトを担いでノーアが隠れて巣に近づくことは難しいらしい。
「ノーアさん。さっき言っていた新魔法は二発打つことができますか?」
「無理」<無理。一回が限度だよ>
「一度あのドラゴンたちをなぎ払ってもらおうかと思いましたけどそれも難しそうですね。あ、いやもしかすると。ノーアさんこれ持てますか?」
◇◇◇
アルトたちは再びボス部屋の門をくぐった。すでに魔法のための精神集中は済んでいてあとは発動するだけの状態だ。
「ホーリーサンクチュアリ!」
ドラゴンの群れが迫ってきているのを確認してアルトが聖域を展開した。まだ
「発動する。合わせて!」<魔法を発動するよ。タイミングを合わせて!>
「わかりました!」
「ウィンドヴォーテックス!」「〈
ノーアが魔法で特大のハリケーンを発生させた。そこにアルトが冥府の炎を付与する。ハリケーンは黒炎と混ざり合って、さながら炎をふらす台風と化した。それは直径1キロメートルに及びそうなほど巨大でドラゴンたちを次々と飲み込んでいく。
ドラゴンたちが炎の台風に飲み込まれている間にアルトたちは
アルトが右手に持った剣でドラゴンをいなしノーアの方へ誘導する。そしてノーアはというと……。
アビスファイアを付与した左手に持った剣を使ってドラゴンを切り倒していた。左手に持った剣は冥左剣シャドウリーパー。攻撃した相手から魔力を奪う剣だ。魔法で使い切った魔力をこれでまかなう作戦だ。左手の剣で飛翔してくるドラゴンたちを次々と切り倒していく。
本体の巣まですぐそこまで迫った。巣に近づくにつれドラゴンの排出量がどんどん増えていく。
「ノーアさん! いけそうですか?」
「ん。いける」<うん。いけるよ>
「わかりました! ホーリーサンクチュアリ!」
聖域を展開した。今度は本体の巣を巻き込む位置での魔法の発動だ。これでドラゴンの眷属も
「合わせて! ウィンドヴォーテックス!」「〈
再度特大の炎の台風が生成された。それは
数分の時がたって完全に燃え尽きた巣は黒い煙となって消え、次の階層への階段が姿を現した。
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