028.竜の巣へ向かう
『ノーア語翻訳機を開発してくれないかな』
そう思ったら〈天啓〉がアップデートされたらしい。
早速〈天眼〉で確認してみることにする。
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副技:天啓
技能保持者と話すことができる。翻訳機能付き。念話もすることが可能。
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うーん。特に変わったところはないような? 何が変わったんだろう。
「必要?」<ダンジョンに潜る準備で何か必要なものものはある?>
ん? なんだ? ノーアの声に重なるように別の音声が聞こえてくる。映画でたまに流れる副音声みたいな感じ。
「服は欲しいですね。あとは食料と水、それと地図とかでしょうか?」
「わかった」<わかった。ヴァーディアンに着いたら買ってくるよ>
「ぼくも手伝います」
「邪魔」<アルトは外で待機してて。ヴァーディアンにもぼくらのことについて連絡がいってるかもしれないから。ぼくは〈隠密〉の
「……それもそうですね。それならお願いします」
それにしてもこの副音声どこかで聞いたことあるような? あ、これって〈天授〉を使うときとかに聞こえる声かも!
この〈天授〉を使うときとかに聞こえる声……言いにくいな。アナウンスと呼ぶことにしよう。このアナウンスが〈天啓〉のアップデートってことかな? アナウンスがノーアの翻訳機代わりをしているってこと?
でもこれで毎回アルトに聞き直す必要がないってことだね! 楽になっていいことだ!
「ヴァーディアンの迷宮までどれくらいかかるんでしょうか?」
「2日間」<このまま駆け足で行けば2日間くらいだね>
「結構かかりますね。それにこのまま駆け足だと馬車を使われたら追いつかれるかもしれません」
「頑張れば半日くらい」<僕らが途中でバテないくらいのギリギリの速さで走れば、半日くらいで着くよ>
「うーん。それなら追い付かれないかもしれないですけど。隠れてやりすごすとかはどうですか?」
「非推奨」<捜索隊が出されるかもしれないからおすすめはしないかな>
ノーアたちがなかなかの人外発言をしているような気がする。駆け足で二日がどうして半日に短縮できるんだろう? 本当にCランクとEランクなのかな? 前世にいたような一般人では絶対無理な所業だよ?
だけどやっぱりノーア語翻訳のアナウンスがあるとスムーズでいいね。すんなりと会話が理解できる。
「それもそうですね。じゃあ走りましょうか?」
ノーアがアルトに頷きを返すと二人はヴァーディアンへの道をかなりのスピードで走り出した。
◇◇◇
アルトは木陰に身を隠しながら、ヴァーディアン迷宮都市から一キロほど離れたところにあるアーチ状の門のを見ていた。アーチ状の門はヴァーディアンのダンジョンへ続く入り口で、不思議な模様で飾られている。門の先にはダンジョンへと続く階段が大理石のように白く輝いているのがちらりと見える。
アルトたちがこれから入ろうとしているダンジョンはトロン王国、あ、アルトたちがいる国の名前ね。そのトロン王国で一番の難関とされるヴァーディアンの地下迷宮型ダンジョン、別名〈龍の巣〉だ。
竜の巣と呼ばれるだけあり、その中に住む魔物は全てドラゴン型、または亜竜型の魔物で構成されており、1階層の道中でさえCランクの魔物で溢れているという。それが最難関と言われる所以だ。
しかしその竜の巣だが歴史は意外にも浅い。11年前に発生したダンジョンだ。他のダンジョンが最も若いものでも50年以上前に発生していると言えば、その歴史の浅さがわかるだろうか?
そして、冒険者たちが探索のために行き来がしやすいように、そして最大の脅威となりうる氾濫が起こったときにすぐに対処ができるように、そう考えて作られたのがヴァーディアン迷宮都市なのだ。とは言っても氾濫はダンジョンができてから100年以上経ったダンジョンからしか起こったことがないから実質的には冒険者の探索、強いては冒険者が持ち帰る戦利品が目当てみたいだけど。
現在の竜の巣の最高到達階層は30階層。30階層以上あるのか、それとも30階層までで終わりなのか本当のところはわからないが、有識者たちの間ではおそらくこれ以上の階層はないのではと予想している人が大半らしい。
その理由として挙げられるのが、30階層のボスが冒険者ギルドのトロン王国本部でSSランクとして認定されているからだ。SSランクは魔物につけられるランクとして最高ランク。これ以上強い魔物が出てくるようだと氾濫が起こった時に国が壊滅するレベルでまずい状況になる。だから30階層までで終わりのはずだと予想しているのだ。
つまり竜の巣の階層が30階層までだと予想するのはそうであってほしいというこの国の人たちの希望的観測。人は信じたいものを信じる生き物であることはこの世界でも同じみたいだね。
ちなみにSSランクの冒険者はこの世界に一人しかいない。
そう考えるといかに竜の巣の攻略が難しいかがわかる。
以上、ここまでアルトの受け売りでした。たまに思うけどアルトって結構博識だよね?
「戻った」<買い出しから戻ったよ>
誰もいなかったところに急にノーアが現れて、目の前で言葉少なにアルトに話しかけた。
ノーアが買い出しから帰ってきたようだ。急に出てきたのは〈隠密〉
「ノーアさん! おつかれさまです。ありがとうございます」
アルトが小声でノーアに反応を返す。
「着替える?」
ノーアが服を取り出した。ん? 服?
取り出されたのは鮮やかな赤の色使いに幾何学的な黄色のパターンをあしらったワンピースタイプのコスチュームだった。それは前世だったら有名デザイナーが手がけた某有名ブランドから出ていそうな衣装で、一般人には理解のしにくいデザインで……簡単に言ってしまえばとても派手だった。
アルトを見ると、引き攣った顔でそのコスチュームを見ている。アルトから見てもその衣装は抵抗があるらしい。
「……いえ。やっぱりこのままで大丈夫です」
「そう?」
ノーアさん。もう少し無難な服はなかったのかな?
「早速入りますか?」
気を取り直したアルトがノーアにコソコソと話しかける。
「待つ。人」<待って。人が来る。静かにして>
ダンジョンの中から数名の男たちが慌ただしく出てきて門の前で立ち止まった。金属製の鎧に外套を羽織っているがそこからでもがっしりとした体つきをしているのがわかる。
彼らの表情は緊張が滲み出ていた。涙を流しているものさえいる。
「ダンジョンから帰還したばかりで疲れているだろうが、もう少し頑張ってもらう」
一段と豪華な鎧を纏っている男がしゃべっている。彼らのリーダーかな?
「あれは危険だ。急ぎヴァーディアンに戻り領主様に対応策を仰ぐ。皆すまんが走って行くぞ」
リーダーらしき男の声に応えるように男たちはヴァーディアン迷宮都市へ向かって走っていった。
「誰だったんでしょうか?」
「騎士」<あれはヴァーディアン騎士団の騎士だね>
「……ぼくたちを追ってきたんでしょうか?」
「多分違う」<多分違うと思う。流石にこんなに速く手を回せるとは思えないから>
「じゃあ、あれは?」
「異変」<ダンジョンの中で何か異変が起こったみたいだね>
「なるほど」
「やめる? 危険」<ダンジョンに入るのはやめて最初にぼくがいった通りに国外へ行く? 異変のあるダンジョンは危険だよ?>
「……いえ。入ります。このダンジョンには今、入らないといけないような気がするんです」
「……わかった」<……わかった。行こうか>
「はい」
アルトたちは荘厳な門の中をくぐり抜けていった。
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