026.処刑と助け
翌日、アルトは冷たい石の床に座り、重苦しい気配が漂う牢獄の中で判決の時を待っていた。
「アルト。冥魔法の使用という容認できない行為により、貴様は断罪される」
裁判官の厳かなる声が牢獄の中に響き渡る。それはアルトの死刑判決だった。アルトの顔には無念と絶望が交錯し、無実を訴える言葉すらも出てこない。
「なお、貴様の処刑は民衆の前で執行されることが決定した。執行は今日の午後一番にエーテルウッドの大広間で行う。それまでこの牢獄でゆっくりしているといい」
裁判官がそう締めくくる。
その後アルトは俯き、裁判官がその場を後にするまで顔を下げたままだった。
◇◇◇
裁判官の姿がなくなった後、わたしは顔を下げたままのアルトに朗らかに話しかけた。
『おおかた予想通りだったね』
『そうですね。大体予想通りです』
『それにしてもなかなかの演技力だね! あのアルトの絶望の顔』
『ちょっと、恥ずかしいです』
アルトは下げていた顔を上げ、恥ずかしがりながらもにこやかに念話を飛ばす。
裁判官に対する態度? もちろん演技ですとも。油断させるためのね。
わたしはハモニス教会はアルトを悪役に仕立て上げ、冥魔法を使ったという根拠のない(しかし実体はついている)嫌疑を広めることで、民衆を味方につけて正当性を確保しようとするだろうと思った。そのため民衆の前で処刑を行うだろうという予想は見事に的中していた。
『意外だったのはエーテルウッドの街で処刑を行う事かな。てっきり王都とかまで連れて行かれるかとも思ったけど』
公開処刑は大勢の前でしたほうが効果がありそうだからね。
『けど、すぐに執行が始まるのは嬉しい誤算でした。王都に行くまでずっと拘束されるのは嫌だなと思ってましたからね』
『それもそうだね。あとは予定通りにやるだけか』
『結局強行突破になってしまいましたが』
アルトはため息混じりの苦笑を漏らす。
『聖遺物の双剣頼りだからね。だけど上手くいけば街の人を味方にできるかもしれないよ』
アルトとわたしの作戦は聖剣で民衆を味方につけよう作戦だ。
アルトが刑の執行の途中で聖右剣ホーリーレイヴァントを異空間から出して驚かせ、執行を中断させる。そしてその隙にアルトが剣をかざして、ハモニス教会がアルトに根拠のない断罪を執行しようとしていることを暴露するのだ。
民衆がアルトを勇者と誤認してくれればよし。さらにハモニス教会に疑問を持ってくれればなおよし。
まあ上手くいくかはわからないけどやらないよりはマシだよね。
結局強行突破なのはしょうがない。
だって、わたしとアルトって脳筋だし? 最終的に力ずくになるのはしょうがないよね?
◇◇◇
広場の中央に立つ祭壇の上で、アルトは民衆の冷酷な視線と非難の中、処刑を待つ身となっていた。鎖に繋がれた手首を引き寄せる刑吏たちの手に、アルトは俯きながら応じる。
ハモニス教会の異端審問官がアルトの前に出てきて咳払いをした。処刑の前に彼が演説をするようだ。やはり彼がこの騒動の主導者らしい。ちなみにわたしはこの異端審問官のステータスを確認済みでアルトにも共有済みだ。
────────────────────
名前:エルモン
種族:人族
技能:弁舌
魔法:水
恩恵:─
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「信者の皆さんよ、今日我々は神聖な教えを守り抜くために、冥魔法の使い手として立ち塞がる者に対する断罪を下さねばなりません。彼、アルトは冥魔法を行使する、神託から逸脱した存在なのです。我々は神聖なる教えを守り、冥魔法の脅威を排除するため、彼を断罪し、みなさんを危険から守るのです!」
エルモンの声に大抵の民衆は手を打ち合わせ、頷き合いながら異端審問官の主張に同意する。
「冥魔法を使うだと? 魔王の生まれ変わりなんじゃないか?」
「怖いわね」
「魔人族に連なるものに死を!」
アルトにやじを飛ばす者までいる。だけど中には疑念を抱く者もいるみたいで、眉間に皺を寄せたり「まだあんなに小さな子が」などと呟いている人もいたりする。
アルトが広場の中央に立たされる。とうとう処刑の時間が来たようだ。
「では時間だ。やれ!」
エルモンが高らかに宣告を行い執行人が凶刃を手に取った。これであとはアルトがホーリーレイヴァントを取り出して演説するだけだ。
「助けに来た」
予想外の事態が起こった。
広場に剣閃がきらりと光る。手枷が壊れる音がし、その後振り下ろされる凶刃を阻止する。そしてアルトを抱きかかえて逃げ出そうとしたのは……。
「アルト。逃げる」
ノーアだった。
ノーアさん台本と違います! ノーアさんは配役に入ってないです!
……まあ、助けに来てくれたことは評価してあげてもいいけどね!
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