025.アルトの処遇と準備

 元聖女の盛大なカミングアウトから一夜明け、アルトは異端審問官から審問を受ける事になっている。


『アルト。大丈夫?』

『大丈夫です』


 言葉ではそういうが昨日からアルトは明らかに元気がない。信じがたい事実に内心整理がついていないんだろう。もしわたしが「お父さんは魔王です」なんて言われたら……。うん。考えたくもない。


 足音が近づき、異端審問官がアルトの牢に現れる。


「アルト、お前は冥魔法の行使の疑いで告発されている。審問は今すぐ始まる。ここから出なさい」


 アルトは黙って頷き、異端審問官に従って立ち上がった。嫌な目だ。審問官は冷徹な目つきでアルトを牢獄から引き出し、異端審問の部屋へと連行していく。


「お前は冥魔法の使用を否定しているが、我々はお前の使用した魔法が冥魔法であると判断している。しかし、お前は確たる証拠がないことを理由に無実だと主張している。そう認識している。間違っているかね?」


 部屋に入り二人が座ったところで異端審問官がそうアルトに問いかける。


「いいえ。あっています。ぼくは冥魔法を使った覚えはありません」

「そうか。では我々からの要求は冥魔法を使ったことを認めろ、だ」

「認めません」

「今、事実を認めれば罪は軽くなることを約束しよう」

「ぼくは冥魔法を行使していません。それに関する確たる証拠があるなら見せてください」

「あくまでも冥魔法を行使していないと言い張るか」

「事実です。ぼくは罪を犯していません」

「それが答えか。残念だ」


 異端審問官は冷酷な笑みを深くしながら話を続ける。


「教会の秩序を乱す者は許されない。お前が冥魔法を行使したこと、そしてそれを否定することは、深刻な罪だ」

「だから証拠を──」

「これが証拠だ」

「……は?」


 そこには一冊の書物が手に置かれていた。

 審問官がそれをおもむろに開くと、大きくと書かれた見出し。そしてその下に小さな文字でアビスファイアの形状的特徴が記載されている。なるほど。そうくるか。


 おおかた、教会で使用を取り締まっている冥魔法が記載された伝記書をでっち上げたんだろうね。悪辣だ。


「お前が冥魔法の行使を否定することは無駄だ。ここに証拠があるからな」

「……教会はそこまでするんですね」

「さてなんのことやら。わたしはただ真実の立証をしているだけだ」

「……」

「明日にでもお前への判決が下るだろう。それまで震えて眠るんだな。アルトよ」


 そういうと異端審問官は異端審問の部屋から出ていった。入れ替わりで入ってきた牢番がアルトを牢獄へと移動させる。


『……さて、どうしようか?』

『どうしましょう?』


 牢屋に入るなりわたしはアルトに問いかけ、アルトはわたしに問いかけ返した。


『いっそのこと脱獄しちゃう?』

『いやそれはでき……そうですか?』

『うーん。今のままじゃ難しいかも?』

『それにそれは最終手段にしたいです』

『だよね』

『はい』


 じゃあやっぱりやることはあれかな! 〈天授〉さんカモン!


『〈天授〉を使おう』

『やっぱりそうなるんですね』

『ちなみに天声ポイントは118ptあります』

『結構多いです』


 そうなのだ! ダンジョン攻略の結果なのか、それともウッドランドドラゴンを倒したときの天声ポイントが多かったのかはわからないが、ポイントが激増していたのだ。これで〈天授〉を心置きなく回せる、もとい使用できる。

 実は100pt貯まるまで待っていようと密かに考えていたんだよね。しかしこれまで何度〈天授〉回す誘惑に駆られたか!

 何をそんなに興奮しているのかって? ええ。興奮してますとも!

 もうはっきり言ってしまうけどわたしはガチャ欲にそそられているのだ!


『今回の〈天授〉だけど100ptと10ptで回したいんだけどどうかな?』

『回すってなんですか? あっ〈天授〉を発動するってことですね。別にいいと思います。セイさんに任せます』

『そんなあっさりと言わないで』

『……どうすればよかったんですか?』


 うーん。任せてくれるのはありがたいんだけど、なんかこう〈天授〉への熱量が低い気がする。こういう少し辛気臭い空気の時こそ気分をあげていかなきゃだよね?


 ということで牢番がいないのを見計らって早速天授を発動する事にする。


<消費する天声ポイントを入力してください>


 はい! 100pt消費!


<天声ポイント100ptの消費を確認しました。〈天授〉を開始します……完了しました。聖右剣ホーリーレイヴァント、冥左剣シャドウリーパーを取得しました>


 すると二つの剣がアルトの前に現れた。光を放つ白亜の剣と闇に包まれたような漆黒の剣だ。


『剣が二本出てきました!』

『だね! 初めての聖遺物だ!』


 ……えっ? 火付石ひつけいし? そんなもの知らん。


 ともかく、これにはアルトもテンションが上がったようだ。なんて言ったって剣は取り上げられてしまっているからね。


 わたしは早速〈天眼〉で二つの剣を確認する。


────────────────────

 名称:聖右剣ホーリーレイヴァント

 輝く白い光を放ち、聖なるエネルギーが剣身に包まれている右手専用の剣。冥左剣シャドウリーパーの片割れの双剣。

 特徴として以下の二点がある

 ・聖なるエネルギーの充填し聖属性の攻撃が増幅され聖なるダメージを加える

 ・不浄なものへの効果があり不浄な存在やアンデッドに対して追加のダメージを与える

────────────────────


────────────────────

 名称:冥左剣シャドウリーパー

 闇に包まれ、冥界のエネルギーが剣身を覆っている左手専用の剣。聖右剣ホーリーレイヴァントの片割れの双剣。

 特徴として以下の二点がある

 ・冥属性の攻撃が追加の闇のエネルギーを発生させ、敵の抵抗力を若干無視してダメージを与える

 ・攻撃が命中すると敵の魂を吸収し、魔力を回復する。

────────────────────


 なんか凄そう。(小並感)

 というかこれをアルトに説明するのがちょっと面倒だなぁ。なんとかならないかなぁ。(チラチラ)


『わ! 急になんか文字の羅列が出てきました』


 さすが〈天眼〉さん!


『それが双剣の詳細みたい。一応把握しておいて?』

『わかりました! ……あの』

『どうしたの?』

『一応言っておくんですけど、戦闘中にこれをいきなり出さないでくださいね? 前が見えなくなるので』

『……もちろんわかってるよ!』


 わかってませんでした! やば! あぶなかった。


『でもこの剣どうしましょう?』

『だよね、見つかったら取り上げられるかも?』


 そう思って二つの剣を見つめると<念じることで異空間から自由に収納、取出が可能>という文字が説明文に追加される。


 早速、アルトにやってもらうと、どこからともなく黒い空間が現れて二つの剣が吸い込まれていった。


『……不思議だ』

『……ですね』


 それから何度か出し入れを試してしまったよ。


 だけど、これでいざとなったら二つの剣を使って脱獄することもできそうだ。またご都合主義が働いているんじゃないかも思うけど、わたし的にはその方がありがたいからよしとする。


 あと、ちょっと忘れそうになったけど10ptのガチャも回したよ。

 獲得したのはホーリースパークという聖魔法だった。内容はこんな感じ。


────────────────────

 魔法名:ホーリースパーク

 神聖な力で発生した稲妻を呼び出す。邪悪や悪しきもの存在に対して特攻がある。

────────────────────


 強力な聖属性の魔法みたいだね。今は魔法の発動を妨げる手枷をつけてるから魔法は使えないけど、使えるようになればかなり有効に使えそうだ。


 これで準備は整った! あとは明日の審判を待つだけかな?


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