017.異変への備え

「アルトの武器を新調しましょう!」


 冒険者ギルドを出てすぐにアリアがこう言い出した。

 なお今は日が暮れて暗くなっており、どう考えても店側に迷惑がかかるだろう時間帯だ。


「明日でいいんじゃね?」

「セイソンに賛成」

「ダメよ! アルトの短剣はボロボロなのよ。武器がない状態だと危険だわ」


 セイソンとノーアは乗り気ではないが、アリアは強行するようだ。


「アルトはどんな武器がいい?」

「選んでいいんですか?」

「もちろんいいわよ」

「じゃあ中くらいの剣を2本でお願いしたいです」

「双剣ってことね! アルトに似合いそうね!」


『あと、付与で壊れないやつがいいね』


 わたしは会話に割り込む。


「後は熱に強いといいですね。鉄製の短剣は付与に耐えられないかったので」

「なるほどね。ミスリル製……はまだちょっと早いかしら。それ以外に熱に強いとなるとちょうどいいのはサンドリアイト製かしらね。でもそうなるとオーダーになりそうね」

「俺は飲んでるわ」

「ん。帰って寝る」


 離れていくセイソンとノーアをよそに、アリアはアルトを鍛冶屋に引き連れていく。


「おやっさん! アルトにちょうどいい剣を選んで!」


 そう言って扉を開けると剣や槍などさまざまな武器が壁にラックに立てかけられている質実剛健といった店内だった。店員は見当たらない。

 それもそのはずで扉にはクローズドと掲げられていた。アリアは無視したようだけど。


「なんだ。もう閉店だと書いておろうが」


 スキンヘッドの厳ついおじさんが奥の扉からのそりと出てくる。


「熱に強い手ごろの中型の剣が欲しいんだけど。この子の丈に合ったものを二つね」

「話を聞かん娘だな。まあいい。熱に強くて手ごろとなるとサンドリアイト製になるがそうなると鉄と強度は変わらんぞ」

「それで大丈夫です」

「お前さんか? ちょっと手を貸せ。よし、あれを試してみろ。ちょっと持ってくる」


 おやっさんは一度アルトの手を握り確かめるようにうなづくと、刃渡り50センチほどの剣を2本持ってきくる。


「どうだ? これくらいがちょうどいいと思うんだが」

「ちょっと振ってみてもいいですか?」

「ああ。あそこに試し切りの藁束がある。使ってくれ」


 アルトは剣を一閃した。一瞬置いて切れた藁束がバサリと落ちる。


「お前さん。いい腕だな。振ってみてどうだった」

「ちょうどいいと思います」

「分かった。ああ。今振ってもらったのは鉄製だ。サンドリアイト製はオーダーメイドになる。今日のところは代わりにそいつを持ってけ」

「ありがとうございます。お代はいくらになりますか?」

「二本で頭金20,000ニクル、残りは納品後で100,000ニクルだな。その鉄の剣は数打ちだからお代はいい。納品の時に戻してくれ」

「なるほど。どれくらいで完成しますか?」

「まあ、一週間ってとこだな」

「わかりました。これ頭金の20,000ニクルです」


 そう言って金貨2枚を手渡す。


「おう。じゃあまた一週間後だな」

「はい。よろしくお願いします」



 アルトは鉄の剣を2本手に入れた。



 ◇◇◇



 翌々日、〈アークライト〉の面々でギルドに向かう。


 受付に行くと前々日にアリアに畳み掛けられて青い顔をしていた受付嬢が目の下にクマを作ってアルトたちに対応していた。

 いわくアリアの一昨日の予想は的中していて、街道近辺にフォレストリザードやその他Cランク以下の魔物が出没しだしているとか。そしてその魔物たちを〈アークライト〉に駆除、ないし、間引きをおこなって欲しいらしい。

 アリアは報酬を吊り上げる形で交渉して依頼を請け負ったようだ。強かだね。


 周りを見るとギルド内は昨日よりも明らかに慌ただしくなっており、ギルド職員があちらこちらへと忙しなく動き回っている様子が目に映る。

 冒険者たちの姿はいつもより明らかに少なく、そのほとんどが魔物の駆除や異変の調査に赴いているようだ。


 今のところ、エーテルウッドにはフォレストリザードのようなCランクの魔物を倒せる冒険者パーティーは〈アークライト〉以外いない。そのためアルトたちは急いでグローブの森に向かうようだ。



 ◇◇◇



 グローブの森に隣接する街道の道すがら。

 アルトたちは駆け足になりながら、ある冒険者の男に話を聞いていた。


「そう。ストーンハートベアは街道まで出てきているのね?」

「ああ。俺はこのまま戻ってエーテルウッドへ応援を呼びに行く。だが〈アークライト〉が行ってくれるなら心強いな!」

「ええ。任せなさい」

「すまないがよろしく頼む!」


 そう言って男は踵を返してエーテルウッドに向かって駆け出していく。

 剣戟の響く音がここまで届いている。冒険者とストーンハートベアの闘っている音のようだ。アルトたちの駆ける足がさらに早くなる。


 冒険者たちが魔物と戦っているところに辿り着いた。

 あの魔物がストーンハートベアのようだ。岩と植物で覆われた巨大なクマのような姿をしており巨大な牙を剥き出し冒険者たちに爪で引き裂くように腕を振り回している。

 冒険者たちは10名ほどの集団だった。ストーンハートベアをうまく抑えることには成功しているようだが、その岩に覆われた皮膚に阻まれてか、上手く有効打を与えられていない様子が窺える。


「私たちは〈アークライト〉! 一応聞くけど助太刀してもいいのかしら?」

「!! ああ! 頼む! 俺たちじゃあいつを始末できねぇ!」

「分かったわ」


 アルトたちがストーンハートベアとの戦いに参戦する。


「セイソンは撹乱!」

「おう! 任せろ」


 セイソンは颯爽とストーンハートベアに立ち向かってく。


 その間にわたしはストーンハートベアのステータスを確認した。

 岩に覆われた胸の中にあるハート型の岩が弱点のようだ。


「さて、どうしようかしらね? わたしの火魔法があればおそらくダメージは与えられるけど、やっぱり延焼が怖いし」

「アルト。〈付与〉」

「〈付与〉ですか」

「ん。わたしの剣につけて」

「なるほど。わかりました」

「アルトに頼る気?」


 アルトが精神集中を始める。アリアは少し呆れ気味だが諦めたようだ。


 わたしはノーアの剣が溶けてしまわないかとちょっと懸念したけど問題なさそうだった。なぜなら〈天眼〉さんが剣を調べてくれてミスリル製と分かったからね。ミスリル製ならちょっとのことでは壊れたりはしないだろう。〈天眼〉は物体にも使えるって何気に初めて知ったよ。

 ……えっ? 火付石ひつけいし? そんなもの知らん。


「〈付与エンチャント〉、ホーリーレイ!」


 アルトはノーアの剣に白光を付与する。

 その瞬間ノーアは弾丸のようにストーンハートベアに突っ込んでいく。


『アルト! ストーンハートベアは胸の中にあるハート型の岩が弱点みたい! ノーアに伝えて!』

『わかりました!』


「ノーアさん! 弱点は胸です! 中にハート型の岩があるのでそこを狙ってください!」

「知ってる。セイソン!」


 ノーアは弱点を知っていたようだ。余計なお世話だったね。

 セイソンはノーアの掛け声に呼応されたようにストーンハートベアに槍を振り上げ体勢を無防備な直立の状態にさせた。


 ズシャシャシャ!!


 ノーアは光剣を縦に二回、横に二回振りする。

 ストーンハートベアは胸に四角い風穴を開けて動きを止め、やがて力尽きるように倒れ込んだ。


 ノーアのもう片方の手にはハート型の岩が握られていた。


 ……それって弱点を狙った意味なくない?

 アルトも大概だけどノーアもかなり人外のようだね。

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