004.誤解は続く

 状況を察するに、アルトから正式に聖霊認定されてしまったみたい。


 あれから涙を湛えて立ち止まってしまったアルト。わたしはそれを見ながらどうしたものかと考えていた。


 ちなみにわたしはまだ状況をよくわかっていない。もともと使えるはずの聖魔法を使えたから何だというのだろう。そりゃ、〈魔力操作〉の効果で少しスムーズに魔力を使えるようになったのかもしれないけど、それだけと言えばそれだけのことだ。もっと言うなら、〈魔力操作〉が技能スキルが発現したこともわからないくらい弱技能で、わたしが技能である証明ができない場合も視野に入れてたんだけど。


 そんなことを考えていると意を決したようにアルトが口を開いた。


「聖霊様。ありがとうございます。聖霊様のおかげで聖魔法が使えました」

『いや、聖魔法は使えるよね』

「いえ。ぼくは忌子いみこなので魔法は使えないです」

『え? でも魔法欄には冥と聖って載ってたけど。あと忌子って?』


 なんか認識がすれ違っている気がする……。


「確かに冥属性は発現していたらしいです。でも使えたことはないです。あまり使いたいものでもないですけど。聖属性はそもそも持ってないです。魔法も一人一種類までしか持てないものですし、祝福後の〈鑑定〉でも出てきませんでした。それと忌子というのは技能や魔法が発現しなかったり使えなかったりする人のことを言います。ぼくは魔法が使えない忌子ですね。それで……忌子は教会から神様に見放されたものとして扱われるんです」


 ちょっと悲しそうな目をするアルト。


 魔法を持ってるのに使えないということがあるんだ。それでアルトはその魔法が使えない子だったと。うーん。理解はしたけど納得はできない感じ。

 それによくわからないのは聖属性は持ってないってどう言うことなんだろう? 〈天眼〉では聖の文字が見えてるんだけど。

 それに使えなかったらしい聖魔法は使えるようになったよね?


 ……〈魔力操作〉のおかげなのかな? 2つの属性の魔力を持っていると魔法が使いにくくて普通は使えない、とかがあるのかもしれない。それで〈魔力操作〉があるとその普通は使えない魔法を使えるようにすることができるみたいな?

 そうだとすると複数属性を持っている人は〈魔力操作〉がないとまともに魔法を使えないのかもしれない。それが忌子になるのかな?

 なぜ、〈鑑定〉で聖魔法の適性が表示されなかったのかはわからないけど。そういう仕様? それともそのときはまだ聖魔法の適性を持ってなかったとかなのかな?


 まあ、なぜ聖魔法の適性が表示されなかったのかはともかく、最初は地味だなーって思った〈魔力操作〉けど、この推測が当たっていれば何気に強技能だったのかも?


 あと教会よ。わざわざ神様から見放されたものとして扱う必要あるか? なんかいい印象を抱けないんだけど。アルトが悲しんでるじゃないか!


「聖霊様は勇者様や英雄達に聖属性の魔力を与えていたという逸話があります。つまりはそういうことですよね?」


 アルトがとんでも無いことを言い出す。


 なんだその後出しの逸話。それじゃあわたしがまんまその逸話の聖魔力を与えた聖霊みたいじゃない! そんな話は聞いていません!


 ……そもそも〈天眼〉で見えたからってアルトが魔法を使えると思ってたのが痛い。そのせいで使えないはずの魔法を簡単に『試して?』なんてお願いしてしまった。そしてそのせいでアルトは、わたしが魔力を貸したから聖魔法を使えていると思い込んでいる。それじゃあ聖霊様と勘違いされてもしょうがないのかもしれない。


「聖霊様?」

『その聖霊様っていうの、何とかならないかな?』


 その言葉にアルトは首をかしげる仕草をするが、気づいたようにうなずいた。


「聖霊様は正体を隠しているということですね!」

『あー、違うんだけど……もういいか』


 よくよく考えてみたら聖霊と間違えられることにデメリットはないかもしれない。


 すでにアルトは聖魔法は使えるようになってるみたいだから、これからわざわざわたしが魔力を貸し与える必要はない。魔力を貸し与えてると勘違いされたとしても別に困ったことにはならないよね。


 わたしが今アルトの技能になっていることを考えると、おそらくアルトにずっとついていくことになるはずだ。

 であれば、このままアルトが誤解しているままの方が好感度は高いままになるはずだし、あえて誤解を解こうとして不信を買うよりずっといいかもしれない。


 もし他の人に同じことをしろと言われると困るけど、そこはアルトに秘密ということにしておいてもらえれば何とかなるだろう。


 よし決めた。このままうやむやにしよう!


『わたしが聖霊っていうのはアルトとわたしだけの秘密だよ?』

「秘密ですね!」

『あまり他の人に頼りにされるのは嫌だからね』

「はい! むやみに頼られたら困りますもんね!」


 うん。少し罪悪感。


『聖霊様って呼び方もなんとかならないかな?』

「聖霊様って呼んでると他の人にバレるかもしれないですもんね!」

『そうだね』

「ではなんてお呼びしたらいいですか?」

『アルトがよければセイって呼んで?』

「セイ様ですね!」

『いや、呼び捨てでいいよ』

「それは無理です。聖霊様に呼び捨てなんて恐れ多いです!」

『いや、様づけは嫌だよ』

「無理です」


 わたしはただの一般人だよ。聖霊様呼びは自分のことじゃないみたいだからまだよかったけど、自分の名前を様付けはすごい、何というか、背徳感を感じてむずむずする。絶対嫌だ。

 あと思ったよりアルトの押しがつよい。


『じゃあセイさんはどう?』

「セイさん?」

『うん』


 アルトは顎に手を置いて考えるような仕草をする。少し考えて納得したのか軽く頷いた。


「では、セイさんと呼ばせてもらいますね!」

『うん。アルト』

「はい!」


 よし! これでアルトとはこれからも仲良くやっていけそうだね! ちょっと嬉しくなってくる。


『これからもよろしくね!』

「はい! あっ! でもセイさんはまだぼくについてくるんですか?」


 えっ? それって付き纏わないでほしいってこと? 結構仲良くなったと思ってたのに。酷いです。


 やっぱりわたしの対人スキルは底辺だったか。

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