003.転生したら天声だった件
転生したら天声だった件。
精神的ダメージでわたしのライフはボロボロなんだけど、これは多分アルトに知らせないといけないことかなと思うので共有することにする。
『アルト。よく聞いてね? わたしが何なのかわかったよ』
「そうですか! やっぱり聖霊様でしたか!」
アルトがキラキラした目でわたしを見つめてくる。いや、実際にはわたしは見えてないはずだからそのような気がするだけなんだけど。
この目を曇らせなければならないのかと思うと胃がムカムカする感覚に襲われる。いや胃なんてないんだけども。
『違うの』
「えっ、違ったんですか。じゃあやっぱりぼくは……」
アルトがすごく悲しそうな顔をする。なぜ、そんなに悲しそうな顔をするのかはわからないが、冷たい海の底に引きずり込まれるような罪悪感。できるならこんな気持ちになりたくない。だが、元はと言えば、耳障りのいい言葉でアルトの誤解を訂正しなかったわたしが蒔いた種だ。甘んじて受け入れることにする。
『わたしはアルトの
意を決してアルトに言った。
……
何も言葉が返ってこない。もしかして失望された?
意を決してアルトを見る。
予想に反してアルトはちょっと悲しげな表情ながらも困惑が勝っているような顔だった。
「それは、聖霊様は〈全剣技〉だった、ということですか?」
『いや違くて、わたしはアルトのもう一つの技能、〈天の声〉だったの』
訂正して言ったらアルトは情け深い微笑みを返してきた。
えっ? なんか憐れまれてる?
アルトは少し考えるような顔になったあと諭すように言った。
「まずですね。技能が話すなんてことは聞いたことがありません」
……たぶんそうだろうね。前世でもしゃべるスキルなんて聞いたことは……いやあるにはあったかな。だけどかなりレアな扱いだったからこっちの世界では無かったというのはうなずける。
「それに、聖霊様は知らないかもしれないですけど、技能は一人一つしか持てないんです。だからそれはおかしいんです。現に教会の祝福で授かったのは〈全剣技〉だけですし」
へー。この世界では技能が一人一つなんだ? だからおかしいと。でも実際〈鑑定〉を使ったら〈天の声〉は出てたしなぁ。何か抜け道的なのがあるんじゃないかな?
『いやでもほら。新しく技能が芽生えることだってあるかもだし』
「そんなことは聞いたことないです」
根拠のない言葉だったけど、即答ですか。
どことなく不信な目をされてるような気がする。
うーん。せっかく好感度がいい感じだったのに下がってしまうのはいただけない。どうしたものだろう。
……そうか。わたしが技能だってことを証明できればいいのか。
『ちょっと考えるから待っててくれる?』
「はい? わかりました」
さっきの鑑定には補足的な技能っぽいのものも見えたし、それで何とかならないかな?
とりあえずもう一度天の声確認してみよう。
────────────────────
技能:
副技:天啓
天眼
天授
??
天声ポイント:101pt
天命 ★★★
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そうそう副技だった。どんな効果かわからないから順番に見ていこうかな。
多分、〈天啓〉って何だ?って考えれば〈天啓〉についてわかるよね。
────────────────────
副技:天啓
技能保持者と話すことができる。翻訳機能付き。技能保持者と念話もすることが可能。
────────────────────
なるほど。この副技でアルトと話できてたんだね。しかも念話も使えるらしい。あとでアルトと試してみたいな。不信がられてるのがなくなったらだけど……
聖霊だってアルトに念話させるくらいできるかもしれないし、状況を打破するにはちょっと弱い気がする。次、〈天眼〉を見てみよう。
────────────────────
副技:天眼
万物を見通すことができる。見通したものはウインドウ上に表示される。
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万物を見通すってすごいね。でもあれ? これってさっきアルトが言ってた〈鑑定〉のことなんじゃ? 〈天の声〉の副技としては〈天眼〉っていうのかな?
まあこれも今は使えなさそうだし次に行こう。〈天授〉は何かな?
────────────────────
副技:天授
技能、魔法、聖遺物のいずれかを天の声保持者に与える。供与されるものは消費する天声ポイントの量によって左右される。
────────────────────
これだー!!
流石に聖霊もこんなことはできないよね?
それに、もしこれで技能が増えてくれればアルトの言ってた否定材料、技能は一つしか持てないっていうことと、技能は新しく取得できないっていうことの両方を論破できる。
……しゃべる方は無理だけど。それはもうそういう技能だと納得して貰えばいい。
うん。大丈夫だ。これで勝てる!
『これからわたしが聖霊じゃないことを証明します』
「証明ですか。どうやってです?」
『〈天授〉を使います』
「〈天授〉?」
『うん。〈天授〉を使うと技能、魔法、または聖遺物をアルトに与えることができるんだって』
「え、それって──」
『よしさっそくやってみよー』
どうやればいいのかな? 〈天授〉発動、みたいな?
<消費する天声ポイントを入力してください>
ふむむ。流石にポイントが全部なくなっちゃうのは後々困りそうだし、無難に半分の50ptくらい?
<天声ポイント50ptの消費を確認しました。〈天授〉を開始します……完了しました。〈魔力操作〉を取得しました>
あれもう終わり? なんかあっけない。
見てみるけれど、特にアルトに変わった様子もない。少なくとも聖遺物ではなさそう。
しかたないから〈鑑定〉、いや、〈天眼〉だっけ? を使ってみることにする。
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名前:アルト
種族:人族(?)
技能:全剣技
天の声
魔力操作
魔法:冥
聖
恩恵:自由神の勇者の種
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やった! 技能が増えてる! これでアルトを説得できる。早速〈天眼〉を発動。
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技能:魔力操作
体内魔力を操作する。操作することでスムーズに魔法を行使することが可能になる。
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うーん? なんか思ったより地味だ。しかもあまり取得したと実感しにくそうな技能。あれ、説得失敗?
まあとりあえず試してもらおう。
『アルト。魔法使ってみて』
「魔法ですか。でもぼくは魔法使えないです」
うん? 魔法はあるけど? ああ、行使するのが難しいって意味かな?
『発動しやすくなってるはずだから試してみてよ。冥魔法と聖魔法』
「えっ? 聖魔法、ですか?」
『えっ? うん。聖魔法も』
なぜ、聖魔法限定?
「わかりました。聖霊様がそういうならやってみます!」
いや、だから聖霊じゃないことを証明するために魔法を行使してもらうんだけど。まあいっか。
アルトは神妙な顔つきになって立ち止まって目を閉じ、精神集中を始めた。
最初は何をはじめたんだろうかと思ったけど、魔力を溜めているみたい。こちらの魔法は精神集中するタイプなのかな。魔力が少しずつ練り込まれていくのがわかる。なぜわかるのかはわからない。
「ホーリーライト!」
アルトが魔法の名のような言葉を発した後、光がアルトの周りを包んだ。それは白く柔らかな光で、かわいらしさとあいまってアルトを神々しく見せていた。
「本当に、できた……」
アルトは感極まったようにつぶやく。
なぜそこまで感動しているのかわからないけどうまくいったみたい。でもこれでわたしが聖霊だっていう誤解は解けたんじゃ無いかな?
『ほらね? これでわたしが技能だって証明できたでしょ?』
「やっぱり、聖霊様だったんですね! 聖魔法が使えるようになるなんて聖霊様が魔力を貸してくれたとしか考えられません!」
アルトは涙すら溜めながら興奮したようにそう言い放った。
アルトの誤解は深まってしまったようだ。
あれ、なんでこうなった?
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