ヨークシャーテリアの花屋第5話
@peacetohanage
第5話
今日も店主のヨークシャーテリアが、せっせと仕事をしていると、店先に不穏な人影が現れました。
ヨークシャーテリアは不安になり、一度店先を確認する事にしました。
店先にはさっき到着したばかりの食虫植物の花達が置いてあります。
「お客さん、いらっしゃい。ここはどんな花でも揃う秘密の花屋ですが」
「こほん、私は博士です!偶然花屋の前を通り掛かった物ですから、ちょっと気になりましてね」
博士は右手に筒状の厚紙を携えています。
「博士ですか!これは、これは…しかし一体、何の博士なのです?」
「こほん、それは秘密だ」
「そっちの厚紙は、この辺りの地図なのですか?」
「こほん、それも秘密だ。他人に教える義理は無い…。だがね?せっかく花屋に来たのだ。何か欲しいのだがね?」
そう言って博士は分厚い眼鏡をきらりと押し上げます。
「それならこちらのサラセニアはどうです?」
ヨークシャーテリアはちょうど店先にあった食虫植物を指差しました。
「おや?私が持っている厚紙の様な形をした葉だな。とても立体感のあるユニークな植物だね」
ヨークシャーテリアは鉢を回しながら、ちょうど鮮やかに染まった葉の面を博士に向けました。
「この酒器に似た筒状の葉に、一度入った虫は二度と出て来られない。葉からは甘い香りがして、虫を誘き寄せるのです」
「何とっ!虫を食べる植物があったなんて…これは漏れなく研究に書き認めておくべきだ」
博士が虫が飛び込んでいないかと、筒状の葉の中を覗き込むと、眼鏡がまた怪しくきらりと光りました。
「サラセニアの花言葉はちょっと変人です。謎の博士であるあなたにはぴったりだ」
「サラセニアは植物なのに虫を食べる!私は博士なのに、いつも白紙の厚紙を持ち歩いている!まさに変人同士…。これにした。私の研究室に、今日からサラセニアを飾るとしよう」
「これはどうも、どうも。お買い上げ、ありがとうございます」
博士は右手に筒状の白紙を、左手に筒状のサラセニアを携えて、自分の研究室へ帰る事にした。
ちょっと変わった博士のちょっと変わった研究の…食虫植物は果たしてプラスになるのでしょうか?
ヨークシャーテリアは店先の様々な彼等を眺めながら腕捲りをします。
花屋の店主は、今日も明日も変わらずせっせっせ。
おわり
ヨークシャーテリアの花屋第5話 @peacetohanage
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