龍の泉が輝く時
クロノヒョウ
第1話
深い山の奥の奥にある小さな村。
ここに住む村人たちがそれぞれ背に荷物を、手に灯りを持って深夜に山を登っていた。
「みんないるかい?」
先頭を歩いていた村長が振り向いて村人たちを確認する。
「ああ、みんないるよ」
安心した村長はみんなを笑顔で見つめた。
お年寄りに肩を貸している青年や小さな子どもを背負っている母親に目を向けながら「もうすぐだからな」と声をかけた。
村長の言葉通りそれからすぐに山頂にたどり着いた。
村人たちは村を見下ろせる場所に立つといっせいに灯りを消した。
「はじまるね」
「ああ、はじまるぞ」
真っ暗になった世界で息をのむ村人たち。
しばらくすると村の方からゴゴゴと低い音が聞こえてきた。
音はだんだん大きくなって大地を揺らした。
「来た!」
ひび割れた大地が裂け家や木々が地中にのみ込まれた。
と同時にその中から小さな龍が一匹二匹、いや、何百何千と天に向かって勢いよく飛び出した。
「産まれた!」
「おお……」
光輝きながら村人たちの目の前を次々と昇っていく龍の子どもたち。
大地から飛び出す光が空へと昇る光景はそれはそれは美しかった。
「ママ……」
「おや、目が覚めたのかい? ほら、見てごらん」
母親の背中で目を覚ました娘が空を見上げた。
「……綺麗!」
「龍の子が産まれたんだよ」
遥か空には光輝く龍が星となって龍の泉を作っていた。
「これが龍の泉?」
「そうだよ。よく見ておくんだ。私たち龍の守護族はこうやって空に龍の泉を輝かせるために生きているのさ」
「……おうちは? 村はどうなっちゃうの?」
「村……村か、そうだね……」
母親と娘は大地にのみ込まれた家や木々に視線を落とした。
「いいかい、この広い大地も美しい自然ももともと誰のものでもない。私たちが少しだけ住まわせてもらっているだけなんだよ」
「うん」
「そのかわりと言ってはなんだけど私たち龍の守護族は地中に眠っている龍の子どもたちを守っているんだ。その土地の上に村を作ってね。わかるかい?」
「うん! じゃあ私たちは龍のお母さんだね」
「はっはっは、そうだね、そうかもしれないね」
大地が静かになると村人たちは皆空を見上げていた。
「いつ見ても綺麗だな」
「ああ、美しい」
村人たちは龍の子どもたちでできたキラキラと輝く龍の泉を見て涙を流していた。
「よし、みんな! あの龍の泉についていくぞ! 次の大地までもうひと頑張りだ!」
「おう!」
村長のかけ声で村人たちはゆっくりと一歩ずつ前へ向かって歩き出した。
龍の子どもが眠っている次の大地への道案内をするために、天空の龍の泉はさらに輝きを増していた。
完
龍の泉が輝く時 クロノヒョウ @kurono-hyo
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