祓魔のリベンジ
ラッコ先生
第1話 進路先
『ハッピーバースデートゥーユー♪…ハッピーバースデーディアはるおみ~ハッピーバースデートゥーユー♪』
『おめでとう~!!!』
僕、
そんな僕を孤児院のみんなが祝ってくれた。
「はるおみ!はいこれ!みんなからのプレゼント!」
そう言って、プレゼントを渡してくれたのは孤児院に入って一番最初に仲良くなった陽臣より2つ下の
「あけてみて!」
快斗やみんながそわそわする視線を浴びながらプレゼントを開けた。プレゼントの中には手作りで編んだのだろうお守りが入っていた。
たぶん編んだのは孤児院の先生だろう。しかし、この糸かなりいい素材だ。みんなお小遣いも多くないだろうにお金を出し合って買ってくれたのだろう。
「みんな……、本当にありがとう。」
孤児院のみんなはサプライズが成功したようで嬉しそうに笑っていた。
「あ、あとその中にみんなの応援メッセージが書いてあるからまたあとで読んでくれよ!」と快斗が照れくさそうしながら教えてくれた。
もうすぐ受験の僕へのプレゼントをお守りにするとは、センスがいいことだ。
突然、快斗は何かを思い出したように呟いた。
「あ、そういえば!」
「なんで受験先教えてくれなかったんだよ!道子先生から聞いたぞ!はるおみ、日本最難関の大学受けるらしーじゃねーか!」
道子先生というのは陽臣たち孤児院の先生で母親的存在でもある。
「知ってればもっと盛大に祝ったのに……」
快斗は膨れ顔で不満げそうだった。長年の付き合いの友人からそのような大事な話をされなかったのだ。当然悲しいに決まっている。
なんか悪いことしたな。
しかし、最初は言わないでおこうとは思ってはいなかった。なんなら一番の友人である快斗には一番先に言おうと思っていた。しかし今ではもう言う必要はなくなった。いや、言う必要がなくなったのだ。
あの出来事以来——
※
——1週間前。
「道子先生、ありがとうございました」
陽臣は今年が受験生ということで道子先生と最後の進路決めをしていた。道子先生との話の末に日本最難関の大学に進学することにした。
陽臣は進路のことを快斗に話そうと快斗の家まで向かっていた。
快斗の家に向かっている道中、森のずっと奥まで続く階段がを見かけた。
「ん?こんなところに階段なんかあったっけ?」
いつもの僕なら絶対行かなかったがなぜかその時は無性にこの階段を上りたくなってしまった。陽臣は階段を一段一段着実に上っていきおそよ1000段以上もの階段を上り切った。
「はぁー、はぁー、…さすがに…疲れた。」
陽臣は息を切らしながら鳥居にもたれかかり下にスライドしながら座り込む。呼吸を整えあたりを見回す。しかし驚くことにそこにはあたり一帯何もなく、かろうじて言えるのは森が囲っている地面には玉砂利が敷かれているということだけだ。
「なんだ、何もないじゃん。無駄足だったかー最悪だ…」
陽臣はそう言って踵を返そうとしたときだった。
カランッ
背後から
陽臣は脊髄反射ですぐさま振り返った。すると玉砂利が敷いている中央に人形のようなものが落ちていた。
「あれ?あんなのさっきまであったっけ?」
陽臣は息を呑み恐る恐る人形近づいていく。
ザック…ザック…ザック…
陽臣は慎重に一歩一歩着実に玉砂利を踏みしめて行く。
人形までたどり着いた陽臣はその人形をじっくり観察した。
その人形は一部を除けばとても状態の良い日本人形だった。
「なんで片目だけ穴が開いてるんだ?」
陽臣そのセリフが合図になったかのように何者かが勢いよく陽臣めがけ突っ込んできた。
ドンッ!
爆発音のような地響きとともに陽臣がさっきまでいた場所は砂埃に包まれていた。
陽臣は恐る恐る目を開けた。そこには、雪のような白い長髪の触ったら消えてしまうのではないかと思わせる白く儚い顔。例えるなら、囚われの雪国のお姫様という感じだ。そんな女性に陽臣はお姫様抱っこをされていた。陽臣は先ほど人形を見ていたことも忘れすっかりその女性に見惚れてしまった。
「重い、降りて。」
女性の雪よりも冷たい声が僕にとんできた。何か気に障ることをしたのだろうか?
そう言われ陽臣は言われた通りにした。
陽臣は先ほどまで人形を眺めていたことを思い出した。そして先ほどまで
砂埃でよく見えない…、人だろうか。砂埃りに映るシルエットには人型のようなものが立っていた。背も高くない。子どもくらいだろうか。そして、徐々に砂埃りが薄くなっていき中にから何者かの姿があらわになっていく。
「!!!」
人は本気で恐怖すると声が出ないものだと言う。あれは本当だった。陽臣はまるで声の出し方を忘れたのように口から出るのは微かな吐息だけだった。そして、まるでお尻と地面が磁石だと思わせるほどに勢いよく腰を抜かしてしまった。
砂埃りの中には、子どもくらいの身長で鋭い爪、鋭い牙が生えていた。そして一番特徴てきで恐ろしいのは顔の上半分を占めるほどの大きな一つ目をもつこの世のものとは思えない化け物が姿をあらわにした。
その時陽臣は理解した。
ついさっきこいつに殺されかけたのだと。
普通の人間ならこの場から一番に逃げ出したいそう思うだろう。しかし、陽臣は違った。
10年前、両親が強盗犯に殺されてそれを隠れてみることしかできなかった。そんな弱い自分を卒業するために今まで勉強も武術も遊ぶ時間を削ってまで頑張ったんだ。今があの頃の自分と違うと証明するチャンスだ!
そう思い立ったときには陽臣のお尻と地面の磁力はなくなっていた。
陽臣は立ち上がり一度大きな深呼吸をして心を落ち着かせた。
「お姉さん、さっきはありがとうございました。僕が時間を稼ぎます、そのうちに逃げてください!」
「え、いや、だい…」
白髪の女性が何か言おうとしていたが、陽臣はそれを遮って女性の方に視線を向け少し微笑んだあと目の前の化け物めがけて一直線に走り出した。
なんだろうこの感覚。今なら何でもできそうな気がする。なんか力が湧いてくる。今なら……こいつを倒せる!
「うぉーーー!、僕の10年間磨き上げたこの拳とくと味わいやがれぇー!!!」
陽臣はそう言って、化け物の右頬めがけ全力の一撃をくらわした。
カーンッ!
「「???」」
化け物の頬は鉄のように硬かった。
頬だけではない、この化け物は全身硬いのである。
陽臣は何が起こったか理解ができず首を傾げた。
化け物も何が起こったのかわからず首を傾げた。
「邪魔。どいて。」
陽臣の背後から声がした。振り返ると先ほどの白髪の女性が刀を握り空高くジャンプしていた。
「!!!」
陽臣は白髪の女性の殺気あてられその場に反射的にしゃがんでしまった。
女は化け物の首めがけ刀を振った。
スパッ
あの鉄のように硬かった化け物の首がまるで豆腐を着るようにスルッっと刃を通した。
女の一刀はまるで舞いをみているかのように美しかった。
視界がボヤつく……
化け物が死んだとたんあたりに靄のようなものがかかり気が付くと先ほどまであった玉砂利も鳥居も全てなくなっており陽臣と女性は森の中にいた。
「え!?、なんで!?」
陽臣が困惑していると知らない男性の声がした。
「今のは先ほどの《ガイスト》、『
木陰から現れたのは、背が高くモデルのような身長。そして吊り目で赤い目が特徴的な面のいい男だった。その男の腰には先ほどの白髪の女性同様に刀があった。
「がい…すと?どくがんし…じん?げんかく?……あとだれ?」
陽臣には初めての言葉ばかりで聞き取れたのは『幻覚』だけだった。
「すみません、いきなり声をかけてしまい。私は『日本極秘組織対ガイスト東京支部第0部隊レイス』の隊長を務めさせてもらっています
「あなたを……スカウトしに来ました。」
そう言い白夜虎太郎はニコッと笑った。
「スカウト!?」
陽臣は先ほど遭遇した変な化け物、そして知らない単語に、知らない組織からのスカウトなにがなんだかもう訳が分からなくなっている。
「ちなみに、こちらの女性は
そう言って白夜は狛犬に視線を送った。
「白夜またカッコつけてる。そんな長く言ったって誰だって理解できない。
この川のせせらぎのように落ち着いて話しているのは白髪の女性だ。
「べっ!べつにカッコなんかつけてへんわ!ほんま狛犬ちゃんはすぐ人をからかいよってこの前だって……」
白夜虎太郎は感情的になると関西弁になるのだ。
白夜が何かブツブツと言っていたがそんなことはお構いなしに陽臣が口を開いた。
「あの!もう何が何だか分からないんで、順序だててお話してくれませんか?」
「ゴホン!そ、そうですね。すみませんでした」
白夜はそういい近くの木にもたれかかった。
カッコつけているのだろうがこの身なりだ、悔しいが様になっている。
「信じるか信じないかはべつですが、今から言うことは事実です。」
陽臣は先ほど現実とは思えない体験をしているのでもう疑う理由がなかった。
「日本では災害や行方不明者が多発しているのはご存じですね?」
「はい」
「あれらは全て《ガイスト》と呼ばれる、化け物の仕業なんです。」
「!?!?」
「災害に関しては正直推測の範囲ですが、行方不明者は《ガイスト》の仕業で間違いありません。」
「食べるため…」
陽臣がボソッと呟いた。
「鋭いですね」
さっきこの人自分で言ってんだけど。
「そう、《ガイスト》たちは人間のエネルギーが多いものを好んで捕食します」
「エネルギー?」
「はい、この地球には色々な場所からエネルギーが満ち溢れています。木、花、動物、虫だってそうです。どの生物、植物も酸素や二酸化炭素を取り込むだけではなくエネルギーを同時に取り込んでいます。私たちはエネルギーのことを『マナ』とよんでいます。」
「じゃー人間はそのマナをとりこむ量が多いから狙われているってことですか?」
「すごいですね、そこまであてるなんて。」
いや、今の流れ誰でもわかるだろ。この人あれだ、バカだ。
「そうです、《ガイスト》はマナを酸素代わりにして存在しています。ですので人間、それもマナ量が多い人間を積極に食べているというわけです。」
「なるほど、《ガイスト》たちの目的は分かりました。」
「良かったです」
白夜がニコリと笑った。
「では説明を続けます。そして《ガイスト》に対抗すべく日本の上層部ごく少数しかしらない秘密組織、『日本極秘組織対ガイスト』というものができました。皆さんからは長いので《祓魔師》と呼ばれています。」
「なるほど、だいぶ整理できてきました。それではなぜ僕をスカウトに来たんですか?」
「それは、上手く隠しているようですが君のマナ量が規格外の量でしたから」
「え!?」
白夜の目には家一つ分くらいなら包めるのではないかと思えるほどのマナがオーラをまとっているかのように陽臣の周りをかこっていた。
うまく隠している?
陽臣には全く心当たりがなかった。
「あ、すみません言い方を間違えました。うまく隠されているが正しいですね。」
「え、だれにですか!?」
「すみません陽臣さん、それは分かりません」
「そうですか」
陽臣は引っかかった。先ほど白夜は陽臣に「すみません陽臣」と言った。しかし陽臣はまだ自己紹介もしてはいなかった。
「なんで、僕の名前をしっているんだ?って思いましたね」
白夜は意地悪そうに笑った。
「陽臣さんのことは一通り調べさせてもらいました。10年前両親を亡くされたこと、孤児院の子だということ、勉学が優秀で武術の方何度か全国大会で優勝されていることも」
「陽臣さん。なぜこんな国家機密のような情報を単なるスカウト相手にペラペラと喋るんだろうと思いませんでしたか?」
まるで心を読まれているかの如く的中していた。
「はい…」
「それは陽臣さん、あなたが必ずこのスカウト受けると確信しているからですよ」
「確信?」
なにを言っているんだろうこの人は。どう考えても僕がスカウトを受ける理由なんかありはしないのに。ん!?もしかして弱みでもにぎられた!?あり得る!僕のこと調べたとか言ってたし!
「ひ、卑怯だぞ!でもな僕は弱みなんて握られても怖くないからな!晒すならかってにさらすがいいわ!」
陽臣の膝はガタガタだ。
「え?」
白夜は困惑した。
すると、狛犬も陽臣に加勢した。
「白夜最低ー。卑劣。外道。ナルシスト。」
「ナルシストは関係ないやろ!」
「みんなに言う。」
狛犬の冷たい視線を白夜に送った。
「ちょっとまってください!誤解です!二人とも!」
白夜は両掌を前に突き出した。
「私は、弱みを握って無理やりスカウトしようとなんかしてません!」
「ほんとですか?」
「はい、本当です!」
陽臣は少しほっとした。
「私が確信しているのは…《ガイスト》、それもかなり上位のものでしょう。そいつが陽臣さんの両親を殺した犯人だからです。」
僕はこの耳を疑った。
あの時、親が殺されているところをクローゼットの中で見ていた。犯人は陰でしか見えてなく人型だったのでまさか《ガイスト》だとは思いもよらなかった。いや、見えてなくともまさか人外だとは思わないだろう。
「ほ、ほんとうですか?」
「はい」
嘘をついているようには見えなかった。そして陽臣は点と点がつながったそんな気がした。
僕は自分の顔を一発殴った。
「やっと仇が取れる」
この時、決意した。
両親を殺した全ての者を……抹殺する。
陽臣のシリアスな雰囲気を気にもせずに狛犬が口を開けた。
「白夜私もー帰る。」
狛犬はそう言って帰って行った。
「ちょっと!待ちなさい!」
そう言って白夜は狛犬の後を追おうとしたが立ち止まり陽臣の方振り返った。
「来週の夜21時にそちらへ迎えに行きます。もしスカウトに応じてくださるのなら孤児院の門の前まで来てください。あ、あとこのことは誰にも言ってはだめですよ、陽臣の首が飛びますから」と恐怖の一言を言い残し白夜は狛犬の後を追った。
※
——現在。
ということがあり、陽臣の進路は大学進学から祓魔師への入隊に変わったのである。
——そして、21時。
「荷物よし!、手紙よし!、お守りよし!」
陽臣のカバンに着けているお守りが揺れる。
「よし!いこう!」
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