こんな世界大好きだ。~王様の初恋編~

りんご

こんなところに生まれてくるんじゃなかった。

俺の名前は神田カナダ 雄飛ユウヒ。17歳だ。

早くも10のとき、交通事故で両親を亡くし、王を受け継いだ。

だが、俺は昔から王などに興味はなかった。

興味があったのはこの城の外だけだ。

だが、俺は外に出ることを禁じられ、何かやりたいことがあっても全て自分でやらせてくれない。

それはもう嫌でしょうがなかった。

自分で作った作品がどれだけ下手だろうが作品展に飾られた。

全くうまくないのに小さいときに書いた絵が作品展に飾られていることを考えると、恥かしくてしょうがなかった。

スポーツだろうと勉強だろうと、全て自分で挑戦するという選択肢がなかった。

それが悔しかった。


「こんな世界大嫌いだ。いっそ世界破壊指令でも出そうか。いや、世界を破壊するのはこの自分の手でやりたい。今回こそはな」

「王様!おやめください!そのようなことはなさらぬよう。自分で世界を破壊など!世界破壊指令を今すぐなさりますか?それとも来年?来月?あぁ明日でも今からでもよろしいです。さぁ何なりと。わたくし家来にお任せ下され」

「はぁ。めんどくさい。世界破壊指令なんか出すわけないだろ。さぁ。帰れ」

「は!王様、何かあればまた何なりとお申し付けくださいませ」


そう言って部屋から出て行った。

「こんな世界大嫌いだ」

この言葉は雄飛の口癖だった。

そのたび家来がバタついてこちらに向かってきて世界破壊指令を実行しようとするので困っていた。

だが…それより困っていることが一つ。

明日が誕生日なんだ。18になる。

それで来週、結婚の依頼が来ている。

次の王を生まなければならないから。

だが俺は結婚相手のサファイアが嫌いだ。

上目つかいで気持ち悪い。

人の悪口ばっかり言う。

もう嫌でしょうがなかった。だが、自分の意見は絶対に通らないのだ。

父が決めたことだ。父はサファイアの父と一緒に会社を作った。

仕事は数百人雇って自分たちは働かない。

給料は数万円しかもらえず、残りの金は全部父とサファイアの父が持って行った。

雇われた人は毎日毎日懸命に働いているというのに。

そんな会社は持ちたくない。そう思っていた。王になった今、サファイアの父と一緒に会社をしているが、やはりサファイアの父は自分の事しか考えていない。

俺に回ってきた給料は、城で働いている全員とその会社で働いている全員に渡した。

自分の金など父の財産が大量にあるのでいらない。

もし余ったとしても貧しい国に募金した。

家来全員が反対したが、自分の意見を突き通そうとした王に逆らえなかった。


そして誕生日が来た。

壮大な誕生日パーティーが行われた。

雄飛はちっとも嬉しくなかった。

来週にはサファイアと結婚する。

それが嫌すぎて、スピーチを拒否してしまった。


「王様のスピーチを、王様自身が拒否されました。今回、王様のスピーチは無しとします」


周りがざわつく。


「王様、何でスピーチ拒否したんだろう」

「そういえば来週サファイア様と結婚だっけ?羨ましい。男のあこがれだよな」

「私、サファイア様に会ったことあるよ」

「マジで?!なんで?」

「道を歩いてたら『ご機嫌よう。いい天気ですね。これから学校?頑張ってください』って。いいでしょ?」

「いぃなぁ。サファイア様に会ってみたい。」

「でも、悪い噂もあるっぽいよ?裏で悪の取引してるとかなんとかって」

「サファイア様のお父様がなんか会社が結構やばいらしいよ」

「マジで?なのにその娘のサファイア様は清潔で可愛らしい外見で中身はドス黒いっての?おかしな親子だなぁ。お父様も外見だけは、男も憧れるぐらいイケメンだってのに」

「色々と残念だよね。でも雄飛様が結婚なさるってことは...きっと両思いでしょう。どちらも一緒にいるときはラブラブですからね。」


そんなことを話しているとき

「み、皆さま!王様が一言だけインタビューなさるとのことです!」


ざわざわとみんなが話し出す。

「マジ?!」

「サファイア様についてかな?違うかな?それにしても今日は誕生日だというのにあんな怖い目つきになさって何か嫌なことでもあったのでしょうか?」


「あー。いま怖い目つきだけど嫌なことあったかな?みたいなこと言った奴。手を上げろ」

「は、はい!何でしょう?」

「何か嫌なことがあったかって質問だが…今まで生きていて気に食わねぇ事ばっかだ。思い道りになったこと一度もねぇよ!」

「ひ!ひぃ!すみません!本当にすみません!」

「どーでもいーよ。帰れ」

「え?」

「帰れ」

「すみませんでした!」


叱られた女性はドアへと涙目で走って行った。

王様はいかにも不機嫌だった。

だが、王様はそんなことが恥ずかしいとも全く思わず、そのままスピーチを行った。


「俺は、サファイアと結婚なんか全く嬉しくないんだ。なのに、なのに、父上に命じられたからって...俺の恋愛感情なんか1mmも分かってねぇんだ!俺は!サファイアとの、婚約を白紙にする!」


その言葉を発した後、ざわざわと話し始めた。


「え?白紙にするって言ってももう婚約してるんだろ?無理に決まってんじゃん...」

「マジ何考えてんの?王様もまだまだ子供だね」

「バカじゃないの?サファイア様に会えるだけでも光栄だってのに。結婚を白紙にするなんて。金持ちのいうことはよくわからんね」

「ただ金持ってて権利があってやりたい事やれるってのに文句ばっかでマジバカw」


誰もが雄飛のことをバカだといった。

しかも、被害を受けたのは雄飛だけではない。

雄飛ではない他の王国の王様のやっている、『王様の嫌なこと全部書くブログ』

というブログは、「共感する」「私も王の娘だからわかる」「こんなことになったら絶対つらい」などのコメントによって、いいね数1000万に増えている。

そのブログが大炎上。雄飛ではないのに、雄飛のアカウントだと決めつけたのだ。

ほかにも、『イケメン王子』という名前で活動しているインフルエンサーが大炎上してしまったのだ。それを知ったほかの人がほかの人にも伝えて...という感じで雄飛の住所が特定され大量の手紙に追われている。それを処理するのは、家来だ。

そのせいで家来にも恨まれてしまった。

そんなことがあった雄飛の誕生日。それから1日が過ぎたとき。


「おい」

「何でしょう王様」

「今すぐサファイアとの婚約を白紙にしろ」

「ですが王様!余りにも急すぎます!一年あれば大丈夫ですが、結婚は5日後です」

「できんのか。じゃあもうお前はいらない。城を出ていけ。これから城の門をくぐることがないように」

「お、王様!それだけはおやめください!わかりました!何とか白紙にして見せます!」

「よし。すぐに行け」

「は、はい!」


急すぎるお願い。

この様なことはまだ一度も起きたことがなかった。

だが今の王様は機嫌が悪い。

王様は婚約を白紙にしようと走っていった家来に一言だけ最後に付け加えた。


「俺は今日散歩に行く。人生初だな。絶対に探しに来ないように。あと廊下は走るな。あと2回やったら家来失格な」

「すみませんでした!」


なぜこれほど家来を辞めたくないのか。

それは給料だ。給料は多い時には1000万を超える。

だがその家来も今となっては減ってしまっている。

王様の無茶なお願いと無茶な行動に悩まされ、退職する。

城のルールを無視して王様に指摘され、退職させられる。

どちらかというと退職ほうが多い。


「王様!婚約を白紙にすることができました!ここにサインをお願いします!」

「ふむ。よくやった。褒美をやろう」

「あ、ありがとうございます!」


すらすらすらと紙にサインを描いた。

まだ王様は不機嫌だった。


「散歩に行ってくる。遅くなったとしても探しに来るな」

「は!了解いたしました!」


雄飛は行ってみたい店があったのだ。


「ここが飲食店か。料理が食べられる店のようだな」


店の中に入っていった。

王様だから。と言われないように普通の服を着た。

普通の人になるようにメイクを雇ってメイクをしてもらった。

外らから見れば誰でも普通の人だと勘違いするほど。

声もバレないように少し低くして喋った。

だが、そんなことを忘れるほどの出来事が起きたのだ。


「いらっしゃいませ。お一人ですか?」


その一言だけで分かった。

この人は運命の人だと。


「どうしました?顔が真っ赤ですよ?大丈夫ですか?!」

「ああ。大丈夫だ。ありがとう。一人だ。この店の一番おすすめのものを頼もう」

「了解しました!ではあちらのお席におかけください」

「あ!」

「どうしました?」

「いえ。何でも」

「そうですか」


そういうと行ってしまった。

その場から動けずにいると、さっきの人がまたこちらに来た。


「どうしたんですか?やっぱりどこか悪いんですか?」

「い、いやそんなことじゃないんだが…」

「じゃあ早くあそこの席におかけください!他のお客様に迷惑です!」

「はいっ!わかりました!」


そのまま席まで走っていった。

料理が届くまで無駄にメニューを見ながら、あの人の事を思い出す。

そういえば、名前聞いてなかったな。

そんなことをぼんやり考えながら、数分立った時。

こちらへ美味しそうなハンバーグをもって迷っているさっきの女性がいた。

俺を見つけると、見つけた!と目をまん丸に開けてニコニコでこちらに向かってきた。


「はい!こちらが一番人気のステーキハンバーグでございます!」

「あ、ああ、あああ、ありがとうございます」


ただただ可愛かった。

ステーキハンバーグの事など忘れて見とれてしまった。

これが『恋』というやつなのだろうか。

雄飛は決意を決めた。


「すみません!」

「はい!どうしましたか?もしかして料理に不満でも?!」

「いえ。お名前は?」

「な、名前?!えーと、さ、桜井サクライ、は、ハルカ。18歳」

「へー。俺と一緒じゃん」

「そ、そうなんですね!」

「ねぇ。一緒に今度ご飯食べたりできる?」

「すみません。ちょっと今は忙しいので、バイト終わったら一緒に話しましょう!とりあえず、13時まで待っててください!」

「ステーキハンバーグ食べて待ってる。そんな急がなくてもいいのに」

「この分からず屋!」


と、頬を赤くして膨らまして怒って行ってしまった。

そして雄飛はゆっくりとステーキハンバーグを食べ始めた。

食べ終わったとき、ちょうどあと5分ほどで13時になるところで食べ終わった。

早くハルカさんに会いたい。それしか考えていなかった。

スキップして入ってきたところから出ようとすると、


「お会計はお済ですか?」

「会計?まだだけど」

「ではお会計をお願いします」

「分かった。いくらですか?」

「5,500円でございます」

「ハイ。これでいいか?じゃ」

「お、お客様!お待ちください!これは一万円です!お釣りをお受け取り下さい!」

「お釣り?いいよ。いらない」


雄飛はハルカと会う事しか考えていなかった。

そして待ち合わせの13時を過ぎたとき。


「ごめん。まった?」

「いや?ハルカのためなら何時間でも待つぞ?」

「ズルいです」

「何が?」

「いや。取り合えず何のために呼び出したんですか?」

「ああ。そうだったそうだった。忘れてた」

「何をですか?」

「ちょっとこっち来い」


ハルカは雄飛に引っ張られるがままについていった。

そしてそこには誰もいなかった。

ただ、ハルカと雄飛の2人だけ。

そこで雄飛は…


「ハルカ…俺と…」

「あの、ちょっと待ってください。自己紹介お願いします!」

「ああ。まだだったな。俺は神田雄飛。よろしくな」

「え?!お、王様?!」

「ああ。そうだが…気づかなかったか。えーっととかいう奴はどこだっけ…」

「これですか?」

「そうそれ!ハルカってメイクに詳しいんだな」

「いや王様が知らなさすぎるだけで…」

「じゃメイク落とすか」

「こうすれば落ちますよ。ホラ。ってホントに王様?!」


「だから言っただろ?とりあえず本題に入るか」


といいハルカを壁まで移動させて、

右手で壁を触り、


「好きだ。付き合ってくれ」


といった。

だが、


「ちょっと待ってください。急すぎません?」

「ダメだったか?雑誌にこうすれば絶対成功するって書いてあったのに…」

「王様って雑誌とかそういうの読むんだ…」

「まぁたまに大量入荷してしまうからな。漫画と間違えてしまうのだ」

「ポンコツじゃん」

「で?告白の結果は?」

「もう少し…考えさせてください」

「そうか…雑誌でもう少し考えさせてくださいはほとんどNOと言ってもいいって書いてあったよな…それじゃあこの告白の結果はNOだな。残念だがもうこの人じゃない人を…」

「ちょっと待ってください!」

「ん?やっぱりNOだった?」

「違います」

「じゃあ俺と縁を切るとかそういう感じの?」

「違います。告白の結果は…」

「NOでしょ?」

「よろしくお願いします…」

「どっちの意味のよろしくお願いします?」

「え、えぇと…YESのほうの…」


そういった瞬間に

雄飛がハルカの事をギュッっと抱いた。


「好きだ」

「映画の告白シーンの後みたいになってますけど…普通の人だったらフラれてますからね?こんなチョロい私だったから…っていうかサファイアさんとの婚約って大丈夫なんですか?」

「白紙にした」

「そんなできるんですか?!」

「ああ。うちの家来にかかれば何でもできるからな」

「すごいな…こんなに可愛くない私をこんなに抱いてくれるなんて。早く放してください。気持ち悪いです」

「じゃ。今日からよろしくな。俺の彼女」

「よ、よろしくお願いします…王様」

「その王様よびやめて?普通に雄飛って呼んで」

「わ、わかりました…雄飛のお願いなら…」

「よろしく!ハルカ!」

「よろしくお願いします…」


こうして、2人の恋愛が始まるのであった。


そうこうしているうちに、城の中は大混乱。

王様がいなくなるし、彼女がいる可能性が出てきたとかなんとかって噂が出てくるし。いくらサファイアとの婚約を白紙にしたからって彼女がいるわけではないだろうというのが現在の答えだった。

そして王様が城を去ってから10時間後の事。


「王様が帰還なさりました!」

「王様から連絡があるそうです!」


皆がざわざわする。

王様の連絡など、何か重大なことがかかわっているに違いない。と。


「俺に彼女ができた。ゆくゆくは彼女と結婚する。サファイアとは縁を切る!」


その言葉を聞いたサファイアは、


「やっぱり…私の裏を知ってる人は結婚を嫌がるわね。まぁ。金で釣ればイケメンゲットできるし?別にどーでもいいけどね」


そんなことを言っていた。

だが、裏ではボロボロと涙を流していた。

サファイアは裏で嫌々悪の取引をしていた。

その情報が外に出てしまい、サファイアのイメージが悪くなっていた。

本当は、雄飛の事が大好きで、雄飛の知らないだけで本当は幼馴染なのだ。

だが、こう裏で悪の取引をするようになったのは、父親のせいだった。


「雄飛の彼女はハルカっていうらしいわね。徹底的に嫌がらせをしましょう」


2人の恋愛とともに、サファイアの復讐も始まろうとしていた…




中へ続く

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