大文字伝子が行く212

クライングフリーマン

行く人、来る人。

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田健太郎・・・久保田警部補とあつこの子。

 馬場(金森)和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・・空自からのEITO出向。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOボーイズに参加。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 高坂一郎看護官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。喫茶店アテロゴのマスター。

 物部(逢坂)栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部と再婚した。童話作家だったが、今は書いていない。

 物部満百合・・・物部と栞の子供。

 辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴのウエイター。

 一色泰子(たいこ)・・・辰巳の婚約者。喫茶店アテロゴのウエイトレス。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。今は建築デザイン事務所社員。社会人演劇を主宰。

 福本(鈴木)祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。

 福本日出夫・・・福本の叔父。タクシー運転手。元刑事。

 福本明子・・・福本の母。

 福本めぐみ・・・福本と祥子の子。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。宅配便ドライバーをしていたが、やすらぎほのかホテル東京の支配人になった。

 依田(小田)慶子・・・やすらぎほのかホテル東京副支配人。依田の妻。

 小田社長・・・やすらぎほのかホテル社長。慶子の叔父。

 山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。今は海自臨時職員。

 山城(南原)蘭・・・南原の妹。美容師。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。元高校の国語教師。今は妻の文子と学習塾を経営している。

 南原(大田原)文子・・・南原の妻。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。妻のコウと音楽教室を経営している。

 服部(麻宮)コウ・・・服部の妻。

 藤井康子・・・伝子のお隣さん。モールで料理教室を開いている。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

 森淳子・・・依田が済んでいたアパートの大家さん。

 中津健二・・・中津警部の弟で、中津興信所を開いている。

 みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

 みゆき出版社副編集長西村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の副編集長。

 内藤久女(ないとうひさめ)・・・ウーマン銭湯の客。

 一ノ瀬欣之助・・・なぎさの亡夫、一ノ瀬孝一佐の父親。

 一ノ瀬悦子・・・なぎさの亡夫、一ノ瀬一佐の母親。

 天童晃(ひかる)・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人で、EITOで師範をしている。

 仁礼海自幕僚長・・・海自の、偉い人。

 前田空将・・・空自の、上から2番目に偉い人。

 橘陸将・・・陸自の、上から2番目に偉い人。なぎさの叔父。

 栗原海将・・・海自の、上から2番目に偉い人。

 渡辺副総監・・・警視庁副総監。EITO設立にも関わっている。

 村越警視正・・・警視庁テロ対策室室長。

 新里警視・・・あつこの後輩。警視庁テロ対策室勤務。

 遠山新八・・・遠山組組長。遠山組と窪内組は、反社であり、テキ屋家業だったが、伝子の矜持に惚れ、反社は足を洗って所謂『ミカジメ料』の徴収等は行わず、縁日の無いときは、区役所のゴミ収集やし尿くみ取り等を手伝って経営をしている。久保田管理官の『情報屋』でもある。

 池上葉子・・・池上病院院長。亡き息子彰の先輩で、卓球の指導に来ていた高遠を息子のように大事に扱う。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午前10時。ウーマン銭湯。

 前のウーマン銭湯と違い、最大キャパは50人。

 今この時間帯は20人。やはり、正月だから、動きはゆっくりの人が多いのか?

 なぎさは、目をつぶって昨日までの1年を振り返っていた。

「寝ちゃダメだよ。」突然の声に、なぎさは、目を開けた。

 さっき、シャワーエリアで隣にいた子だ。小学生が1人で?と思っていた。

 ウーマン銭湯は、名前の通り、女性専用だ。LGBT法が改正されてもまだ『心が女性だから』と主張すれば、堂々と女湯に入れると勘違いする馬鹿な輩がいる。

 しかし、伝子のアイディアで、セキュリティーシステムは万全で、『肉体が男性』の場合は、自動的に警察に通報される。人は、産まれた時の性でDNAが違う。熱センサー、サーモグラフィーで検知したデータをAIが判断する。女装なんか意味が無い。それでも、番台エリアで何とかなると思ってごねる。支払いは前払い制で、最近の『お名前カード』でも『入る資格』がないこともばれてしまう。脱ぐまでもないことだ。

 先日の事件の際は、そんな輩を装った男が弁護士同伴で、支配人のいる事務所に怒鳴り込んで来た。実際は、事件の『陽動』だったようだが。

 シャワーエリアというのは、『洗い場』を廃止して出来たもので、ブース単位で立ったまま洗う。足が不自由な人には、予約の際に申し込んでおけば、シャワーチェアを用意して貰える。洗い場エリアが無い代わりに、湯船の数も多く、隅にはサウナ室もある。サウナ利用は、加算料金が発生するが、渡されたIDキーをかざせば、入室出来る。

「寝てた訳じゃないんだけどね。」「おねえさん、レディース湯、改装オープンするの、知ってる?」「ああ、この間火事に遭った所ね。いつか行ってみるかな?」「今日は、これからどうするの?」「お墓参り。」「お墓参り?普通、昨日まででしょ。」「うん、仕事でね。行けなかったのよ、昨日までに。」「おねえさん、何の仕事をしてるの?」

 なぎさは、初めて警戒感を抱いた。「芸能人。」「嘘おお。」「嘘。」

 2人は笑った。少女は、それ以上深く言って来なかった。内藤久女と名乗った。

 午前11時半。

 なぎさが、ウーマン銭湯を出ると、舅姑が待っていた。

「またね。」と、言おうとした時、もう少女はいなかった。

 なぎさが舅姑と去った後、物陰から少女は見ていた。

 午前11時半。中津興信所。

 中津健二と所員達は、出発の準備をした。今日は、『初詣』の体裁で、実は依頼主からの依頼で張り込みである。

 午前11時半。ある寺の墓地。

 副島の墓の前。田坂と安藤と浜田がやってくると、天童がいた。

「一足違いだね。大文字さんが、ちゃんと墓参りして、掃除を済ませている。」

 田坂達が花束等を持っているのを見て、「多分、親族が遠方なのだろう。お供えしていない墓があるだろう?こういう時は、『お裾分け』をするんだよ。」と天童は言った。

 田坂達は、手分けして、『お裾分け』をした。

「今日は、千客万来ですな。」と言って、住職がやってきて言った。

「副島さんは、ご自宅とお寺で書道教室をされていたが・・・残念です。」

「ご自宅の方は、次に引っ越し手来た方が塾を開いたようですよ。お寺の方は?」

「残念ながら、立ち消えですね。どうぞ、『初詣』をして行って下さい。」

 午前11時半。別の墓地。

「なぎさ。知らない人とお話して、ついて行っちゃダメよ。」「かあさん。冗談がきついよ。」「いえ。気をつけます。」2人の会話に、なぎさは笑顔で応えた。

 午前11時半。池上家。

 我が子を抱いて、伝子は母乳を飲ませた。

「いつも済みません、池上先生。」「いいのよ、高遠君。彰が亡くなってから、あなたが『こども代わり』。何でも我が儘言っていいのよ。この子は賢い子よ。きっと、成長すれば、貴方たちの立場を分かってくれると思うわ。」

 午前11時半。ある神社。

 久保田管理官と久保田夫妻が初詣を済ませると、悲鳴が聞こえた。

 あつこは、久保田管理官に、息子の健太郎を預けて、久保田警部補と共に走り出した。

 悲鳴があった所に、叫びながら、周囲に助けを求めている女性がいて、晴れ着の上に纏ったショールに火が付いたことが一目瞭然だった。

 久保田警部補は、ショールを引き剥がし、ショールを踏み続けた。

 付近の露店から飛び出したオヤジが消火器で消した。

 一方、あつこは逃げる男の前方の木にブーメランを投げた。ブーメランは木で反転して男の顔面に直撃した。

 あつこは、すぐに110番をした。ここでDDバッジを使うのはよくない、と判断したからだ。DDバッジとは、元は陸自が開発した、災害救助用のバッジだが、EITO発足と共に皆が持つようになった、バッジだ。最初はエリアだけ本部で把握して、押せばピンポイントで居場所を確定していたが、今は改良されて所持しているだけで居場所は確定出来て、押す事で何らかの合図を送ることになった。

 間もなく、やって来た警備員に事情を話し、あつこは健太郎の元に戻った。

 久保田警部補と久保田管理官は、ある男と談笑していた。

「まあ、遠山さん。今日はあなたの『会社』の露店なの?」あつこの言葉に照れながら、遠山は「正月早々旦那のお役に立てるなんて、嬉しいです。」と言った。

「警備員に引き渡したから、間もなく『お縄』よ。」

 午前11時半。福本家近くの神社。

 ここでも、同じようなことがあった。福本は、祥子と明子にめぐみを託して走った。

 悲鳴を上げた女性のショールは、近くにいた人達が必死に消火している。

 逃げた男は、今にも入り口から逆走して出て行きそうだ。福本は叫んだ。「サチコ、ジュンコ、おじさん!!」

 全てを悟った、福本の叔父日出夫は、木に括ったサチコとジュンコのリードを解き放った。1分も経たない内に、賊は元警察犬2匹に『御用』になった。

 午後12時半。物部のアパート。

「済まんな。ボーナス上げるよ。」物部は電話を切った。

「辰巳達、引き受けてくれたよ。満百合にもしものことあっちゃ大変だからな。警視とところも福本のところも、下手したら『火付け犯』に怪我や火傷させられているかも知れないからな。みんなで一緒なら安心だ。」

 物部の言葉に、「今、副総監の会見を放送していたわ。ショールやマフラーの女性は特に気をつけて。なるべく複数の人間と行動をして欲しい、って。全ての女性にSPを付けられ無いしねえ。」

「そういうことだ。」

 午後1時。伝子のマンション。

 Base bookのリール動画がアップロードされた。

『火の用心』しろって言ってるのにねえ。アタイはそんなケチなことしないわよ。3が日位は、ゆっくりしていいわよ。『仕事始め』はまだだからね。冬休みの宿題、あ、正月休みの宿題?メッセージ見てよ。

 》

 メッセージは、こう書いてあった。

[

 さからうものにはようしゃなし

 かんしゃするならかんがえる

 いまだみらいはみえてこない

 きたみちかえるばかはいない

 わざわざえらぶはいばらみち

 だせいですすむかいくじなし

 しかたがないからついてこい


 ]

 PCの画面を見た後、綾子は「やなやつ。」と言った。

「お義母さん、珍しく意見が合いましたね。」と高遠は綾子と握手した。

「さっき、物部からLinenのメッセージがあったよ。初詣は、明日辰巳君達と出掛けるって。それと、襟のある服着て。」と、伝子は言った。

「伝子、コンティニューがせっかちって、ガセかも知れないよ」と、高遠は言った。

「何だよ、急に。」「この文章。12文字の羅列で、文章に特に意味は無い。これ、折句って言うんだ。」

「どこの『おりく』さん?」「今度のキーワードは人名じゃない。今の若い人は単純に「縦読み」って呼んでいる。お義母さん、各行の先頭を読んでみて。」

 高遠に言われるがまま、綾子は読んでみる。」

「さ か い き わ だ し 堺、岸和田市?」「堺市と岸和田市なら、大阪支部の案件だけどね。問題は、この7文字から出来たアナグラムだ。つまり、もう一ひねり必要だ。これをアナグラムと考えると、こういう答えが出てくる。『かわさきだいし』。つまり、1月4日に川崎大師に来いって言っている。」「行かなかったら?あるいは気がつかなかったら?」「思い切りSNSで馬鹿にするでしょうね。そして、無茶苦茶な攻撃を始める。」

 高遠は、EITO用のPCを起動させて、理事官に推理を話した。

「ひょっとしたら、他にもターゲットはあるかも知れませんが。」「分かった。皆には私から伝えよう。他の可能性が3日までに見つかったら、連絡してくれ。」

 PCをシャットダウンしたとき、「今の場合は報告してくれ、じゃないの?」

「ウチの旦那は偉いんだよ、クソババア。」「悪かったわね。」

「あ。また、コントやってる。」入ってきた藤井が言った。

 後ろから、みゆき出版社の編集長山村と副編集長西村が顔を出した。

「あけましておめでとうございます。」2人声を揃えて挨拶をした後、山村は言った。

「高遠ちゃん、Base book見た?」

「編集長、褒めてやって下さい。うちの旦那はもうナゾナゾ解いちゃいました。」と伝子は自慢した。

「その調子で、自分の作品もホイホイ送ってくれると助かるんだけどなあ。」

 編集長の嫌味に、「はい。前向きに努力致します。」と高遠は正座して応えた。

 そして、高遠の推理を聞いた編集長は、「ふうん。西村。那珂国の大使って、誰だっけ?」「えええと、金槌研一大使ですね。」

「前の大使は?金槌さんの?」「川崎類大使ですね。」

 2人の会話を聞いた伝子は、すぐにスマホを取り出した。

 午後1時。日向と高木のアパート。

 日向のスマホが鳴動した。「日向。待たせたな。明日、お前と高木の挙式・披露宴だ。たった今、コンティニューからBase bookにメッセージが載った。3が日は『休戦』だ。急なことだが、鬼の居ぬ間にやっちまおう。」

 斉藤理事官からだった。「命令ですか?」「命令だ。逆らうことは許さん。衣装等は心配するな。場所は依田君のホテルだ。用意してくれる。それから、指輪、忘れるなよ。中山さんに作って貰ってあるんだろ?」「了解しました。」

 トイレから出てきた高木が、涙する日向を見て、「どうしたの?」と尋ねた。

「明日から、本当の夫婦よ、みつぐ。」2人はきつく抱き合った。

 午後1時。本庄病院。

「先輩から、メールが来た。『奇跡の生還』、おめでとう、だって。」

「確かに奇跡の生還ね。何ヶ月も眠ったままだったのに、目をぱっちり開けて『来てたの?久しぶりね。』って言うなんて。」「叔父さんも介護のしていた甲斐があったって言ってた。ああ、それから、コンティニューは『休戦』してくれるらしい。正月だから。」

 蘭は、黙って頷いた。

 午後4時。

 編集長達が帰ろうとすると、西村のスマホが鳴動した。

「編集長。石川県で地震です。」

 編集長達は慌てて帰って行った。

 翌日。午後1時。やすらぎほのかホテル東京。

 依田がMCをしている。

「では、ご来賓のご挨拶ですが、まずは仁礼海自幕僚長からお願いいたします。」

 自衛隊からは、前田空将、橘陸将、栗原海将、警察からは、渡辺副総監、村越警視正、新里警視、そして、夏目警視正が出席、蒼々たるメンバーだった。

 大阪の小柳警視正や大前コマンダーは辞退した。いつ事件が起こるか分からなかったからだ。

 宴は1時間半、続いた。急な事でもあり、どこも年末年始は満員だから、新婚旅行にも行けない。

 午後4時。伝子のマンション。

 依田が、日向夫婦が区役所に届けを出しに行ったまま、ホテルに帰って来ない、と伝子に報せてきた。

 伝子は臍をかんだ。前回と違い、来賓も来ていたのに、外に警備体制を敷いていなかった。

 高遠は、EITO用のPCを起動した。

 ―完―

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