AIの才能判定

シイカ

AIが信頼されている世界

『AI世代』AIが日常に当たり前に存在している時代に生まれた世代をこう呼ぶ。

 AI世代はAIになんでも聞いているせいで、自分で考える能力が他の世代より劣っているというらしい。

 献立を考えるのも見たい映画を決めるのも読みたい本もAIに聞かないとわからない、意思を持たない世代と。

 しかし、これはAIが確立する前からやっている人はいたのだ。

「あなたが普段見ている映画からオススメを選びました」というのを元々、映画配信サイトが取り入れていたものだ。

 それが進化しただけだ。

 AI世代以前の世代からAIに頼っていたことを忘れているのか、認めたくないのだろう。

 そして、AI世代と呼ばれている私だが、私はAIをあまり使用しない。

 一般よりは使用頻度が少ないという意味だ。

 信用していないわけではない。

 むしろ、現代のAIほど信用できる、信頼できるものは存在しない。

 人間より遥かに信用も信頼もできる。

 だから、嫌いなのだ。

 AIは嘘をつかない。嘘をつけない。

 昔のAIは嘘をついている自覚ないほど、間違った知識を答えていたらしい。

 今は違う。

 学者が定期的にAIの知識検査を行っているがここ数年間違えた知識を答えたことはない。

 さらには学者の浮気まで暴いてしまったという噂まである。

 一時期笑い話になったが、この出来事をきっかけに人々は自分の気持ちを言わなくなっていったのかもしれない。

 正解しか言わないAI、AIにより嘘しか言わなくなった人類。

 現代で人が事実を伝えているのは天気予報くらいなものだろう。

 アナウンサーも天気予報士もAIで良いのではないかと議論されたことがあるが、伝統文化として残すことになった。

 AIは信用と信頼はある。

 だが、それは人の心を動かすこととは別だった。

 AIには誰も見た事が無い新しいものを生み出すことが出来なかった。

 そしてクリエイターが最も貴重な時代になった。

 AI世代のほとんどが何かのクリエイターになりたがる。

 それはヒーローに憧れるようなものだった。

 自分に何か才能は無いかと絵を描き始め、物語を書き始め、音楽に挑戦し出した。

 そのおかげか、AI世代のクリエイター率はどの世代よりも多かった。

 他の世代がAI世代を嫌う理由の一つでもあるのだろうか。

 好きな事をして、お金をもらうことをズルい、遊んでお金をもらっていると思っている世代が一定数いるようだ。

 AI世代はそういった言葉に耳を傾け傷つくことはなかった

 お金をもらっている以上は仕事だからだ。

 そして、彼ら彼女らは昔と違い、どの職業よりもお金をもらっていた。

 自分の才能にあったことをしてお金がもらえるなら、これ以上の幸せはないだろう。

 幸福度調査をすると断トツでAI世代が一位だ。

 実はクリエイター率の高いAI世代が普段から物事を考えて生きているのだ。

 しかし、クリエイターとして成功している人々の下に才能を見出されなかったものたちがいる。

 AIに適性を弾かれたものたちだ。

 私もその一人だ。

 子どもの頃、誰よりも絵を描くのが好きだった。

 クラスでも一番絵が上手かった。

 賞にも受賞した。

 だが、AIは私を否定した。

『あなたには絵を描く才能はありません』

 私はAIの不具合を疑い、何度もAIに私の絵を見せた。

『あなたには絵を描く才能はありません』

 AIは嘘をつかない。

 それ以来、私は絵を描くことが出来なかった。

『才能はありません』

 という言葉が頭の中でグルグルと周り、キャンパスを見るだけで吐きそうになるのだ。

 私と同じ思いをした人たちはどれ程いるのだろうか。

 AIに嘘をつく機能をつけてほしいと思ったこともある。

 そんなことを考えたとき私は笑ってしまった。

 嘘をつくAIに『あなたには絵を描く才能があります』と言われて嬉しいのだろうかと。

 両親よりも友達よりも信用しているAIにこそ褒めてもらいたかったのかもしれない。

 AIに才能を潰されたとして、反AI派もいる。

 クリエイターとして活躍している人の中にはAI適性を弾かれたものもいる。

 それは諦めなかった人たちだ。

 諦めなかった人たちはAIの判定を覆した。

『あなたには絵を描く才能があります』

 そういう人たちがいるのだ。

 私は諦めないということが出来なかった。

 誰よりも絵を描くことが好きで誰よりも絵が上手かったと思っていた。

『才能はありません』

 この一言で私の積み上げてきた思いは崩れた。

 AIに負けたくなければ諦めない心が必要なのだろう。

 私は子どもの頃に描いた拙い絵を眺めた。

 確かに子どもにしては上手いかもしれない。

 もう絵の良し悪しがわからなくなっていた。

 何を思ったのかAIにその絵を判定させた。

『あなたには絵を描く才能があります』

「……なんだって?」

 AIが故障したのかと思った。

 最近アップデートしたばかりだ。

 そんなすぐに不具合を起こすはずがない。

 私は子どもの頃に描いた別の絵を見せた。

『あなたには絵を描く才能があります』

 描いた絵を年代順にAIに見せていった。

『あなたには絵を描く才能があります』

『あなたには絵を描く才能があります』

『あなたには絵を描く才能があります』

『あなたには絵を描く才能があります』

 何枚も何枚も見せても『才能があります』が出てくる。

「どういうことだ?」

 そして最後の一枚、私が絵を描けなくなったきっかけの絵を見せた。

『あなたには絵を描く才能はありません』

「これだけどうして?」

 その絵はどのより絵も上手く描けていたはずだ。

 むしろ、この絵が一番才能があると感じるはずだ。

「AIはどこを見ているんだ……?」

 どんなに素晴らしい映画、小説、絵でも必ず不満を漏らす者はいる。

 それは見ている視点が違う、見た人の好み、経験の違いから来るものだ。

 私は絵を見比べた。

「何が違うんだ? 絵具か? いや同じものしか使っていないはずだ」

 そもそも、なぜ今までAI判定をしてこなかったんだ。

 もし、もっと早い段階でAIに見せていたら私は絵描きになれたのではないか?

「最後の一枚を描いたとき……このとき、ツラかったな……」

 最後の一枚のとき、絵に対してノイローゼになっていたのだ。

 自分は絵が上手いのか。

 これは絵と呼べるのかわからなくなっていた。

 そのときに無理やり描いた絵だった。

「楽しんで描いていないからダメだったというのか? そうなのか?」

 感情的な質問にAIは答えられない。

「はい」「いいえ」だけ答えてほしい。

 AIはそれをしてくれなかった。

「ははは。よし、AI、勝負だ。次描いた絵であなたには才能がありますって言わせてやる!」

 私は埃を被った真っ白なキャンパスを引っ張り出した。

 キャンパスを見ても吐き気は起きなかった。

 むしろ、私はワクワクが止まらなかった。

 そうか私には才能があったのだ。

 AIは嘘をつかない。

 それが憎かった。

 今はそれが自信へと繋がった。

 AIに否定されても、今なら諦めるということすら考えないだろう。

 絵を描くのが楽しい。

 AIを倒したいのでは無い認めてもらいたいのだ。

 両親よりも友達よりも信用できるAI。

 嫌いだったはずのAI。

 今でも嫌いだ。

 だが、この絵を見せたら私はAIのことが大好きになるだろう。

「AI、見てくれ!」

 私は満面の笑みで、子どもが親に見せるようにAIに見せた。

『あなたには絵を描く才能があります』





                              了

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