ポンコツ天使の異世界取締日誌

直哉 酒虎

第1話 御用だ誤用だ!

「ポンコツ天使の異世界取締日記」

 直哉 酒虎

 

 ———この文書は日本語に翻訳してお届けしています。

 

 アカンペニメント王国は滅亡の危機を迎えていた。 きっかけは五年前の勇者召喚の儀式にまで遡る。


 当時アカンペニメント王国は破壊王カリマベーラの侵略を受けていた。

 領土を次々と侵略され、瞬く間にアカンペニメント王国の城は包囲された。 城を包囲され、なすすべ無くなってしまった国王は、伝承に伝わる勇者召喚の儀式を強行する事にした。


 国中の魔道士を集め、大規模な魔法陣を作り出し、伝承通りに召喚の儀式を行う。

 結果的に国王は、かろうじで勇者召喚の儀式を成功させた。


 召喚に成功した勇者の名前は粕山 葛雄(かすやま くずお)二十二才。 出身地、地球。 彼が元々生きていた世界、地球では無職の青年だった。


 資料によると彼は、小学校五年生の時に同じクラスの少年たちからひどいいじめを受け、中学校を卒業するまで引きこもりになってしまっていたようだ。

 高校に進学できなかったため、中学卒業と共に親の提案で、半ば無理やりバイトをすることになった。


 人と関わらないよう裏方のアルバイトをしていたのだが、裏方の仕事でも人との付き合いは嫌でも発生する。

 こうして十八才の時にバイトすら満足にできないような人間不信状態になり、部屋にこもってゲーム三昧の日々を送っていた。


 そんな人間不信状態だったため、突然召喚された粕山葛雄は怯えてしまい、まともに話すらできなかった。

 破壊王カリマベーラの包囲が続いているため、物資も不足し始めた国には残された時間は数ヶ月に迫っていた。


 それでも粕山葛雄は戦うどころか、あてがわれた部屋に立てこもってしまう。

 そんな内気な青年を召喚してしまった国王だったが、彼らは諦めなかった。


 城に籠城しながらもありとあらゆる手を使い、彼の心を開こうとする。

 国王は彼の心を開くため、国中から美しい少女たちを集めて美少女ハーレムを作り出したのだ。


 ………安直すぎる。


 しかしこれが以外にも功を奏し、集められた美少女たちは笑いあり涙あり感動ありの激アツ展開を経て、勇者粕山葛雄の心をたった数週間で開いたのだ。


 こうして二年前、破壊王カリマベーラの侵攻を粕山葛雄率いるハーレム部隊が追い返し、アカンペニメント王国は平和になった。


 ———はずだった。


 引きこもりだった粕山葛雄は破壊王カリマベーラを撃退したことで、美少女たちや国王だけでなく国民からもチヤホヤされる日々が続いた。

 これで調子に乗ってしまったのだろう。


 城下町を我が物顔でほっつき歩き、食事を食べれば金を払わず、欲しいものがあれば力ずくで奪う乱暴者になってしまったのだ。


 『この国を救った英雄から金を取る気か? お前らは誰のおかげで平和なこの国で生活できてると思ってんだ!』


 これが粕山葛雄の決め台詞。

 彼はそれだけの悪行にとどまらず、街で見つけた美少女たちを力ずくで我が物にしようとし始めたのだ。

 それを止めようとした勇敢な一般人は、勇者として強力な力を得た粕山葛雄に大怪我を負わされる。


 ………クソ野郎ですね。


 失敬。 ええーっと、この事件を聞き国王はとうとう決心を決めたのだ。


 『粕山葛雄には感謝をしているが、ここ最近の振る舞いには我慢できん! 反省が必要である! 一度国から追放するのじゃ!』


 破壊王カリマベーラ撃退に協力した美少女たちも粕山葛雄の非道に嫌気がさしたのだろう、数年前から見限られている。

 現在粕山葛雄が侍らせていた美少女たちは、城下町で見つかってしまい脅された少女たちだ。

 国王が追放する考えに至ったのも、仕方がないと言えば仕方がない。


 そんな事があり、国王からの追放処分に逆上した粕山葛雄は現在、王座の間で暴れ回っており、衛兵隊や騎士団をバッタバッタと薙ぎ倒していった。

 瞬く間に護衛が全て倒され、粕山葛雄は丸腰の国王に伝説の宝剣【スキルニール】を向けている。


 冷静に考えて、甘やかしすぎた国王とその周りも悪いと言えば悪いのだが………


 手を出してしまった以上、非はほとんど粕山葛雄にある。

 よって有罪。

 これより逮捕に移るわけなのだが、彼は地球からの転移者だ。 そのためかなり強い。 クソ野郎ですけどね。


 【スキルニール】この剣は、別名勝利の剣と呼ばれており、これを持っている者は疲れない、魔力を失わない、病気にならない、超速再生エトセトラ。

 最も強力なのは、この剣は歴戦の戦士たちの意志を引き継いでおり、持っている者にその魂を憑依させる。 そのため、軟弱な粕山葛雄が持っても恐ろしく強くなれるのだ。


 この憑依で自動戦闘モードと言う覚醒状態に入るため、勇者級の強さを持った戦士数人係で取り囲まないとまともに戦えない。

 この剣は、彼がこの国に召喚された時点で所持していたもの。

 つまりこれを渡したのは国王ではない別の誰か。


 そして今、その剣を渡した張本人からの依頼で出された逮捕状を持ち、この私ファジエル・プリンシパリティが成敗致すという訳です!


「御用だ御用だぁぁぁ!」


 光の回廊を使い、眩い金色の光と共に突然姿を表すこの私。

 純白の羽根がフラワーシャワーのように舞い、一対二枚の白鷺のような大きな羽が風を切る。

 腰を抜かしている国王や、倒れ伏していた護衛や騎士団、正面で般若面を浮かべている粕山葛雄が、私を見て目を見開いた。

 それもそのはずだ、この私の神々しさに面食らっているのだろう。


「私の名前はファジエル・プリンシパリティ! 天界序列第七階級『権』の力を司る権天使様です!」


 まずは肩口にかかっている金糸雀カナリア色の癖っ毛を指で弾きながら、カッコよく名乗りをあげる。 次いで私の背後から神秘の光を放出し、神聖さをアピール!


 私の有り余る神々しさを目の当たりにし、感極まったような顔で涙を浮かべる国王。

 ふふ、計算通りです!


「て、天使様? 奇跡だ、奇跡が起きたんだぁ! ああどうか、どうかお助けください! 粕山葛雄が謀反を………」

「ふざけないでください国王! 一体誰がこの国を救ったと思ってるんですか! 国を救った英雄が、そんじょそこらの平民をぶった斬ったくらいで追放なんて、おかしいじゃないですか!」


 唾を飛ばしながら激昂げきこうしている粕山葛雄。

 記録によると、破壊王カリマベーラを追い返してからたった二〜三年しか経っていないがぽっちゃりしている。


 召喚されたばっかりの頃はげっそりしていたのに、今では焦茶の髪は爽やかに整えられ肌はツヤツヤ。

 男のくせに羨ましい。 と言うか、どうせメイドさんたちがケアしてるからだろう?


 どちらにせよ私好みのイケメンではないが、顔はいい方に分類されるだろう。

 そんな事はさておき、彼は転移者の特権である特別な力を悪事に使った。


 よって、天界の規定によりこの私が彼を逮捕しなければいけないのです。

 とりあえず、口喧嘩を始めた二人をいったんなだめる。


「落ち着きなさい御二方!」


 私が張り上げた美声を聴き、渋々口をつぐむ二人。


「粕山葛雄! 天界序列第五階級の力天使総代、リロスエル様の命により! 神様から授かった宝剣スキルニールを悪用した罪で、その身を拘束させていただきます!」


 足を肩幅より広めに開き、腰をキュッと捻りながら指を差す。

 かっこよく決めポーズをとった私を見て、唸りながら肩を小刻みに震わせる粕山葛雄。


「ふふ、ふっはっはっはっは! 僕を、拘束だと? やれるものならやってみろ! 僕のスキルニールは最強なんだ。 この剣さえあれば、たとえ相手が天使だろうと悪魔だろうと………ぐぉふぅ!」


 言葉の途中だったが、じれったくなったので回転しながら装備してた丸盾をぶん投げる。

 遠心力を利用し、フリスビーを投げるようなフォームで放った丸盾は、自慢げな顔をしながらペラペラと喋っている粕山葛雄の顎に激突した。


 顎にぶつかってほぼ直角に軌道を変えた盾は、そのまま勢いを殺さずに飛んでいき、天井に深々と突き刺さった。


「はい、これであなたはスキルニールが使えません! 残念でしたね!」


 我々『権』の力を預かった天使はこういった転移者、または転生者を制圧するために今投げた丸盾【イージスの盾】を配布される。

 この丸盾に触れた者は、神様から授かった権能を強制的に封印されてしまう。


 つまり今の一撃で、粕山葛雄はただの人間になってしまったわけだ。

 彼が強かったのはその身体能力や生まれ持ったセンスではなく、絶対的な力を所持したスキルニールのおかげだったのだから、これでもう怖くもなんともない。


「な、なんだこれは! スキルニールの輝きが消えてしまったぞ! 痛みも全然引かないし、何が起きてるんだ?」


 顎を真っ赤に腫らしながら慌てふためく粕山葛雄。

 彼が持っていた両刃の剣は、柄に美しい装飾の宝石がはめ込まれている。 力の源は全部その宝石に濃縮されているのだ。


 その宝石が輝きを失ったことで動揺しているようだ。

 あたふたしてる粕山葛雄の隙をつき、私は勢いよく地を蹴った。


 超前傾姿勢で加速し、一気に距離を縮める。

 イージスの盾を所持する我々第七階級天使は、特殊能力が使えない。 イージスの盾に触れれば、神様から授かった権能を半永久的に封印されてしまうのだから。

 故に悪事を働いた転移、転生者を捕まえる手段は限られる。


「エンジェーーールゥキィーーーーーック!」


 超高速ダッシュの勢いを殺さずに飛びあがり、右足をまっすぐ伸ばす。

 私がまっすぐ伸ばした右足が、粕山葛雄の顔面に直撃する。


 通称【エンジェルキック】………言い方を変えれば飛び蹴りとも言う。


 足の裏が粕山葛雄の顔面中央にめり込んでいき、ものすごい勢いで吹っ飛んでいく。

 この瞬間が、毎回スカッとして気持ちいいのだ。


「観念しなさい粕山葛雄! 異能武器乱用および恐喝、さらには国家転覆未遂に公務執行妨害! 罪状はあげてもキリがないですよ! 大人しくお縄に着きなさい!」


 私の張り上げた声が王座の間に反響し、数舜の沈黙を挟んだのち、盛大な歓声が沸き起こった。

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