活動記録7:『慣れ』←調子乗るとろくな事ないよ。ホントに

 今泥の中です。


 ん、なんかいい匂い。そして甘い。


「これチョコレートじゃん!! 美味っ!」


 泥かと思ったら、なんとビックリチョコレート。シールは付いていないようだ。


 あれ、残りの奴らはどちらに。


「何やってんのアンタ」


 チョコプールの上、つまり普通の地面に三人は俺を見下ろす形で立っていた。


「チョコ食べてます。なぁちょっと待て、俺たち同じプレートから出てきたよな? なんでお前らそんなとこいるの? なんでチョコまみれじゃないの?」


「自分だけチョコまみれなことに疑問を持った方がいいんじゃないかな。僕たちはほら、あそこから出てきたんだよ」


 トオルが指さした先。なんだあのラブホにありそうなハート型のピンクなベッドは。赤いリボンついてるし。


 もしかしてあれか? あっちはチョコ入れる箱ってことか?


「じゃあそのまま、正面にご注目!」


 トオルの身体が動く。それに合わせて、俺の首も動く。グイグイ。


 目の前の光景を見て、まず一言。


「ここどこ?」


「どこって、何言ってんすかご主人様。学校に決まってるでねーですか」


「はぁ?」


 目の前にあるのは、どっからどうみても昨日まで(つってもたった数日だが)通っていた学校じゃあない。


 まず正門がおかしい。どこの宮殿ですかってくらい黄金で染められた派手な門。

 それ自体はなんらおかしくはないのだが、両隣に柵やら壁やらが存在しない。まっさらである。

 門が仕事してない。というよりは、役に立ってないと言うべきか。


 そして、その先には空中で上下逆さまになって浮いている噴水。水垂れ流し。

 さらにその先には、どうして家から見えなかったのかフシギなほど高く、高く建設されたバカでっけぇ建物。

 その他にも、物理法則を無視した建物が敷地内のあちこちに沢山。


 そんな場所に、多種多様のコスプレみてぇな服を着た連中が入っていく。


「シェイ、ここは学校じゃねぇよ。多分あれだ、チョコレート工場だ。皆金色のチケットが当たったんだよ」


「でもユウあれって……」


 指差し担当トオルさん。今度は何指すの。


 『私立凪咲高等学校』。という文字が、二足歩行で歩いている。あっこっち向かって来やがった!


「取り囲まれたわね」


「ね? 学校だったでしょご主人様」


「分かったよ認めますよ。認めるからコイツら何とかしてくんない? フォークダンス始めやがったし」


 しかもちょっと上手いし。


 しかしまぁあれだ。学校が魔改造されようが、文字がフォークダンスしようが、そんなことじゃもう動じない。

 俺はもう慣れたよ、慣れちまったよ。


 今後、何が起きたとしてもさして驚かないだろう。


 ほら、今一瞬で文字達が消えた。でも慣れた、故に驚かない。えっへん。


「あっ、貴方達ひょっとして例の転校生四人組ね? そうでしょう? そうよね? えぇ、そうに決まってる」


「ん?」


 明らかに俺たちへ向けた声が。


 しかし声はすれども姿は見えず。


「ユウ、うしろうしろ」


 指差し担当トオルさん、大活躍です。声の主は後ろのようだ。


「あぁ、なんだ後ろk………………えっ」


 振り返るとそこには。


 シニヨンヘアの眼鏡をかけた、女の人の……顔があった。


 そしてその顔は、全長五メートルの巨大な蜘蛛の身体から生えていた。

 蜘蛛の背中には、無数の人間の『手』が。


 皆さん、バケモノです。バケモンの登場です。


 だからどうした?


「もあぁぁぁぁぁぁーー!!!!」


 叫んだ、そして逃げた。


 慣れたとか嘘だったわ。あれは無理だわ恐怖だわ。


 そのままチョコレートプールにダイブ。


「ちょっと待ちましょう。人の顔見て逃げ出すのは失礼じゃない? そうでしょう? そうよね? えぇ、そうに決まってる」


「顔じゃねぇーよ! アンタのその身体見て驚いたんだよ!!」


「なら、尚更失礼ですよね? そうだと確信しました」


「ユウ、アンタちょっと大袈裟すぎない? たかが蜘蛛で……」


 こ、コイツら平然としてやがる……。慣れてたよ! 真に慣れてたよこの世界に!


「しかし、私も驚きました。何に? そう、そのチョコレートプールに。これは凄い、本当に? えぇ本当に」


 その身体をこちらに近づけないでくれ。グイッとこちらに近づけないでくれ。


「……このチョコレートプールが何か?」


「それは本当に珍しいの。普通、パネル破ったらベッド。チョコは凄い。本当に。どれくらい凄い? お答えしますそうします。確率0.000005%」


「なぁ、それってどんくらい?」


「宝くじ一等当てるのと同じ確率ね」


「マジか、あき」


「マジよ、ユウ」


 その豪運は、是非とも宝くじで使いたかったな。


「ねぇ蜘蛛のおねーさん。貴方はさっき、僕達を転校生って言ってたけど、多分間違いじゃないかな? そこのシスターの子以外は、昨日まで通ってたし」


 そういや、蜘蛛のインパクトで忘れてたけど、このバケモン俺たちのこと転校生とかなんとか言ってたな。


「それはない有り得ない。何故? それはそれは、皆様パネルで学校へ来たから、来てくれたから。パネル、それは初めてここへ来る時しか使わない使えない」


 どうやら、昨日まで通っていた俺たちの学校は、もうどこにもないらしい。今日からここが、俺たちの学校ってわけだ。


 だが何故、俺たちは何の手続きもしてないのに転校生として迎え入れられてるのだろうか?


 誰かの差し金? 誰が? シェイ? それとも親? はたまた別の誰か?


「どーしたんですかご主人様? ブサイクな顔して」


「考え事してる顔と言ってほしいんだが」


「皆様、お話はその辺に、しましょうそうしましょう。ご案内いたします、そう学校へ。そこの失礼な白い髪の人。アンタは風呂行け」


 案内された。皆は、どこからともなく現れたフワフワ動くモフモフな椅子に運ばれて。


 で、何故か俺だけバケモンのおねーさんに担ぎ上げられてる。うーん、露骨に待遇が違う!






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キャラクターNo.5

『パン・ツーパン・パン』

蜘蛛のおねーさん。皆から、『蜘蛛のパンさん』と呼ばれ慕われている、学校の案内役兼用心棒。学校に危害を加えるものは、性別関係なくパンツ一丁にする。ついでにパンツの中に蜘蛛の糸やら変な液体やらをパンパンに詰め込むぞ。曰く、相手を『捕らえる』ことを突き詰めた結果、蜘蛛の姿になってしまったようだ。醤油をかけると人間の姿に戻るらしい。コーヒーが大嫌い。


瞳の色:フラワールチルクォーツ

目力:わしゃわしゃパニック!!

自分の姿をわしゃわしゃするものに変えたり、自分の身体からわしゃわしゃするものを生やしたり、周囲にわしゃわしゃするものを……と、とにかくわしゃわしゃしている。


フシギ豆知識その7

凪咲高校はなんと服装、髪型自由。これは個人の『意志』を尊重するためらしい。

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