第22話

 高田桜子から教えられた、曽我という名の従業員について、堀井は殿村希依に訊くことにした。

 メールでその旨を送り、駅前に戻って昼食を摂った。


 入った店は全国チェーンの定食屋で、堀井は瀬田と向き合ってアジの開きを食べた。


 黙々と食べ物を口に運ぶ瀬田は、どこか投げやりに見えた。

 食事を終え、セルフサービスのお茶を継ぎ足したとき、殿村希依からメールの返信が来た。


 殿村希依は、菊川あうると曽我との関係に驚いているようだった。

 曽我についての説明のあとに、曽我さんとあうるの関係については、全く知りませんと綴られている。

 

 それでも、殿村希依は、曽我に連絡をしてみると言ってくれていた。

 親しかったわけではないが、メルアドは知っているという。


 お礼の返信をし、お茶をすすりながら顔を上げると、瀬田もスマホから顔を上げた。


「なんかわかりましたかね」

 瀬田にも、殿村希依にメールをしたと告げてある。

「まだ、なんとも。だが、曽我という人に連絡はしてくれるらしい」

 ふんと頷いた瀬田は、大きくため息をついた。

「知り合い全部に会ったところで、なんかわかるんですかね」

 堀井は答えなかった。

 答の出ないやり取りを繰り返しても仕方がない。


「六時半の新幹線で、東京に戻ります」

 瀬田はふたたびスマホの画面を見た。

「そうですか」

「堀井さんも戻りますよね?」

 瀬田に依頼された調査の期日は、今日いっぱいだ。


「曽我という人次第ですね」

 えっと、瀬田が目を見張った。

「で、でも――」

「今日いっぱい分しか請求しませんよ」

 安堵の息を漏らし、ふたたび瀬田はスマホに視線を落とす。

 

 終電に間に合えばいいが。


 堀井は新幹線の上りの最終便の時刻を調べるためスマホを取り出した。

 できることなら、今日のうちに東京に戻りたい。だが、もし、何か手がかりを掴んだら、帰るわけにはいかないと思う。


 この調子だから、利益がでないんだ。

 堀井は苦笑した。

 依頼以上に、自分が納得できるまで調査を終えられない。そのせいで、持ち出しも多い。


 だが、それでいいと思っている。警察官時代にできなかったことをやり遂げたい。


「出ますか」

 瀬田に声をかけられたとき、殿村希依からメールが入った。

「ちょっと待ってください」

 メールを開くと、曽我の連絡先のメルアドが記されていた。

 そして、一文が添えられている。


――是非、お会いしたいとのことです。


 曽我という女性は、菊川あうるの失踪について、何か知っているのかもしれない。


 殿村希依にお礼の返信をし、堀井は瀬田とともに店を出た。


「どうしますか」

 瀬田が訊いてきた。

「曽我という女性の連絡先がわかりました。会いたいと言ってくれているようなので――」

 ふうっと、瀬田がため息をついた。


「また悪口を聞かされるだけじゃありませんかね」

 高田桜子とのやり取りに、うんざりしたのだ。


 


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