第12話

「あ――どうぞ」

 瓶を拾い、女性は瀬田に渡した。

 その瞬間、女性はちらりと堀井を見、目が合った。

「ありがとうございます」

 頭を下げながら、瀬田が手を伸ばす。

 踵を返そうとした女性を、堀井は呼び止めた。


「あの、すみません」

 えっ?と言うように、女性が顔を戻した。


「ちょっとお聞きしていいですか」

 堀井は瀬田に頷いてみせた。


「我々、人を探してまして」

 女性は不思議そうな表情で、堀井と瀬田を見る。


「この人の妹さんなんですが、行方がわからなくなりまして」

「――妹さん」

「はい。突然、なんの前触れもなくいなくなっちゃいまして」

 女性の表情が、本の頁をめくったかのよいに、がらりと変わった。

 瞳に力がこもり、口が半開きになる。


 奇妙な気がしながらも、堀井は続けた。


「彼女もこの店が好きだったようで、いなくなる直前、ここで買い物をしたようなんです。ジャムの瓶なんですが」


 ふいに、女性が両手で口元を覆った。驚いている様子だ。


「あの――何か」


「ジャムの瓶って――」


「ブルーベリーの花が描かれた瓶です。その」

と、堀井は店の棚にある、さなりが買ったものと同じ瓶を指差した。

 棚には、さなりが買ったと同じ瓶がいくつもある。


「よくこの店にいらっしゃいますか」

 両手で口を覆ったままの女性に訊く。彼女の驚きに、堀井の元刑事としての感が刺激されている。

 さなりを知っているんじゃないか?


 瀬田が慌てて、スマホの画面にさなりの写真を出した。


「妹です。見かけたことはありませんか」


 女性はスマホの写真を注視した。

 期待がかかかる。


「すみません、知らないです」

 女性はそう言って、目をしばたたいた。心底同情してくれているのがわかる。

 

 瀬田が肩を落とした。

 堀井はあきらめる気になれない。


「もう一度見てみらえませんか。彼女はここで買い物をしていたんですよ。もしかしたら、見かけたことがあるかも」

 女性は首を振った。

「ほんとに見かけた覚えはありません。わたし、ここに来るのは仕事の合間なので、あまり時間もなくて。ただ――」

「ただ?」

 女性は、戸惑った目で、堀井と瀬田を交互に見た。


「突然いなくなっちゃった人が、わたしの知り合いにもいるんです。彼女もこの店で買い物をしていたので」

「え」

 堀井は瀬田と顔を見合わせた。


「彼女もここでジャムの瓶を買ってたんです。それで、ジャムを作ってくれて……。でも、ある日突然、仕事場からも自宅からも、まるで消えたみたいにいなくなっちゃったんです。わたし、なんか、悲しいっていうか、怖いっていうか――」

 女性は声を詰まらせる。


「消えたみたいに……」

 瀬田が呆然と呟いた。

 さなりと同じだ。堀井は確信を持った。


「そのお知り合いの方のこと、詳しく教えていただけませんか」

「で、でも、わたし、何も知らなくて」

「おおまかなことでいいんです。もしかすると、我々が探している妹さんと同様、何か事件に巻き込まれているのかもしれない」


「事件?」

 女性の目が大きく見開かれた。

 

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