瓶詰め

popurinn

プロローグ

 午後の明るい日差しの中に、いくつものジャムの瓶が並んでいる。


 瓶の硝子はキラキラしてきれいだ。


 男はうっとりして眺めやる。


 右手で一つをつまみ上げ、男は声をかけた。

「おまえの目はほんとうにきれいだ」

 左手でもう一つをつまみ上げ、ふたたび声をかける。

「おまえの耳も、とってもきれいだ」


 目は目。

 耳は耳。

 小指は小指。

 しっかりと分けられている。

 自分は案外几帳面だ。そう思う。


「ココ、戻ってこい!」

 犬を呼ぶ少年の声が、小屋の静寂を破った。

 だが、男は慌てない。


 だいじょうぶ。

 ここには誰もやって来ない。大人の背丈より高い雑草で小屋は覆われ、小屋の前の水たまりは案外深い。

 よほど馬鹿者でない限り、ここにはやって来ない。


 たしかに、異臭はする。小屋の中からも、水たまりの中からも。

 犬なら気づくか?


 気づいた犬は大馬鹿だ。危険を察知しないのは、馬鹿な証拠。

 犬も人間も同じ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る