第39話 決戦!魔王城!

「何があったんだ!!!」


 ボロボロになった魔王の間に、自らもボロボロになったウォーバルが飛び込んできた。


 続いて、仮面をかぶったグランザも飛び込んでくる。


『ほう、ちょうど役者が揃った、といったところか』


 そう言うグリードを見て、ウォーバルは苦々しい顔をした。


「貴様がグリードか・・・!よくも俺たちをコケにしてくれたな・・・!?」


「え、ウォーバル、

 外にいたのに何で、あいつの封印が解けているのを見ても驚かないの!?」


 シルフィアは、元々はウォーバルのケガを心配しようとしていたが、

 それより先に疑問点が出てきてしまった。


 それに答えたのは魔王アイサシスだった。


「うむ、ウォーバルだけ話が分からんと可哀そうじゃからな。

 ここでの会話を魔術通信で伝えてやっておったんじゃ」


「ありがとうございます、魔王様!

 もっと早くここに来たかったのですが、グランザの奴に手こずってしまい・・・」


「あと、この城の者たちは皆、ヘルターから避難命令を出してもらっておるので、

 思う存分戦って城が壊れても大丈夫じゃぞ!!」


「な、何でそんなに手回しがいいんですか!?」


 ファイレーンが驚きの声を上げる。


「何って、結界を抜けてグリーズが魔王の間に入ってきた時から

 大体こうなりそうなことは予想できたからのう」


 入り込まれてしまったならしょうがない、と、

 魔王の間の扉を開け放ったのも魔王本人だった。


「魔王様・・・!流石です!!」


 シルフィアは感激の声をあげた。

 そうだ、こちらには魔族の頂点、魔王様もいる!!


「ちなみにワシは、封印のために魔力をずっと使っておったので、

 もう魔力がスッカラカンじゃ。

 足手まといにしかならんので、ここは退散するぞ!」


 そう言って、お世話係のヘルターに担がれて魔王はどこかに来ていった。


「あとは任せたぞ~~」


 激励の言葉だけ残していった。


「うう・・・やっぱりダメかもしれない」


 シルフィアは思わず涙を流した。



「あっはっはっは!」


 大笑いしたのはグリーズだった。


「残念でしたね。グリード様だけでも絶望的なのに、グランザ様もこちらの戦力のまま。可哀そうに。

 まあ、四天王最強のグランザ様がやられた時点であなた達の負けは決まっていたわけですね」


 厭味ったらしくそう言うと、今度は矛先をライカに向けてきた。


「勇者様もご苦労様でした。

 四天王最強のグランザ様を倒してくれるなんて大金星ですよ。

 私も、あなたが魔王軍と敵対するように色々頑張ったかいがありました」


(色々頑張った?)


 ファイレーンはその言葉が心に引っかかった。


「てめぇ!

 じゃあやっぱり、あの国の姫様の事はお前が裏で糸を引いていたんだな!」


(え、あの国のお姫様、ってなに?)


「おやおや、そんな事もありましたね。

 そう言えばあの村の老夫婦はお元気ですか?随分落ち込んでいたようですが」


「っ!てめぇ!あれもお前が!?」


「あの男の子が乗っていた海賊船の幽霊騒動も、実は私が裏で糸を引いていたんですよ」


「・・・!絶対に許せねぇ!!」


「ちょ、ちょっと待ってください!!」


 完全に取り残されて、ファイレーンが間に入った。


「もしかしてライカさん、グリーズと面識があるんですか?」


 そう言えばこの部屋に入った時からずっと、ライカはグリーズに明確な敵意を向けていた気がする。


「面識だぁ!?こいつはさんざん俺の旅の邪魔をしやがったんだ!!

 イヤな奴だとは思っていたが・・・。

 色んなところで起きてたムカつく事件はこいつが黒幕だったんだな!!」


(全然知らなかった・・・!)


 ファイレーンはショックを受けていた。

 自分が頑張って四天王とライカの因縁を作っていたのに、

 もっと前にバッチリ因縁作ってる奴がいるなんて!!


 まあ、グリーズの話からすると、

 ライカに魔王を倒す動機を持たせるために、ことさらに悪辣なことをしていたようだし、

 それをわざわざ魔王軍に報告しなかった、と言う事なのだろうが。


「てめぇら絶対許せねぇーーー!!!」


 堪忍袋の緒が切れたライカが、グリーズに飛び掛かる!


 わざわざ自分の悪事を告白したのは、ライカを怒らせるための挑発だったようだ。


「アハハハハハ!いかに勇者と言えども、このグリード様の力には敵いませんよ!」


 そう言うとグリーズはグリードの方に飛んでいき・・・・


 なんと、グリードの中に吸い込まれていった。


「うげ!!」


 ライカはイヤなもの見た気がして、うめき声をあげた。


「吸収した!?」


 シルフィアも驚く。


『こいつは元々俺の力の欠片・・・。

 すでに「グリーズ」としての役目は果たした。

 後は純粋な「力」として、俺の元に戻ったまでよ・・・』


 あの姿で挑発するのが最後の仕事、ということらしい。

 吸収したことでグリードはパワーアップでもしたのだろうか。


「そんな・・・・」


 グリーズと多少なりとも付き合いのあったシルフィアは、ショックではあるようだ。


『さあ!黒剣こっけんのグランザを相手にしながら、この俺と戦う・・・。

 果たしてどれほど持つかな・・・!?』


 それまで黙っていたグランザが臨戦態勢を取る。


 確かに絶望的だ・・・。


 シルフィアとファイレーンは冷や汗を垂らした・・・。


 しかし


「知るかぁ!!ぶっ潰す!!!」


 ライカは相変わらずだった。


「シア!!オレをグリードの真上まで一気に飛ばせ!!」


「ええ!?」


「早く!先手必勝!!」


「わ、分かったよ!!!」


 シルフィアは風の蝶を素早くライカにまとわせ、

 その力で上空に向かい加速させた。


(でも確かに、こうなったらライカさんの謎パワーに頼るしかないですね!!)


 グリーズが挑発したせいでライカは冷静ではないかもしれないが、

 少なくとも明確にグリードと戦うことにしてくれたらしい。


(いけーー!!頑張れ!勇者!!)


 ファイレーンは心の中で声援を叫んだ。


 ライカの意図を汲んだシルフィアの魔術により、

 ライカはグリードよりも上空、つまり、グリードの背面に飛び上がった。


 先ほどまではグリーズがいたので迎撃される恐れがあったが、

 今はいない!


「死ねぇぇゃぁあああああああ!!!一刀両断!!」


 そのまま飛び降りて、渾身の力で首の付け根に向かって剣を振りお降ろす!!!


 ガキィィィンンン!!


 その音の大きさが、ライカの一撃の強烈さを表していた。

 しかし――――


『ふん・・・確かに人間にしては規格外の力だが・・・所詮人間!

 偉大なるドラゴンの、さらに支配者たる俺の敵ではないわ!!!』


 剣はグリードの首筋、鱗を貫き刺さってはいるが・・・・

 それでも、分厚い鱗と強靭な筋肉に阻まれ、グリードに痛みを与えるような傷はつけられていなかった。


 しかも・・・


「!!?くそ!放しやがれ!!」


 その筋肉で剣を締め付け、抜けないようにしてしまった。


『馬鹿め!貴様はもう終わりだ!!!』



 グリードはそう吠えると、

 全身にググッ・・・と力を入れ―――――

 次の瞬間、グリードの背中が激しく光った!


 バリバリバリバリバリ!!!!!



 その背中から天に向かって、衝撃はと共に無数の雷が放たれた!!!


「ライカ!!!」


 シルフィアが声を上げる。

 だが、放たれた雷の余波は地上にも届き、シルフィア達の周りにも降り注ぐ


「ライカ!ライカ!!」


 シルフィアは雷を避けながら、自らもグリードの上に飛び上がる。


 グリードの背中には、黒く煤にまみれた剣が一本刺さっているだけだった。


「そんな・・・・」


 シルフィアは呆然と肩を落とす。


『愚かな奴だ。消し炭になったか、遥か彼方に吹き飛んだか・・・・、

 それともその両方かな』


 グリードは、落胆するシルフィア達を見るのが楽しいのか、

 攻撃してくること無く様子を見ているようだ。


「ライカさんがやられてしまうなんて・・・・」


 ファイレーンは呆然となって膝をついた。

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