第6-2話

 …………カンエー寺、根本中堂。

 夜な夜なここに集う浪士達が怪しげな密談を交わしている。


「わずか3日足らずでここまで集まるとは……」


「それだけ今の幕府に不満を持つ者が多いと言うこと」


「ふむ……ならば、そろそろ動くか」


「樹さん、てぇへんだ!」


「何事か?」


「女に飢えた浪士が何処かの町娘を攫ってきてよ」


「馬鹿者、こんな時に何をしておるのだ! 今すぐ解放させよ」


「それが奴ら開山堂の扉を締めてしまってよ」


「くっ、なんと情けのない! そのような輩を我々の同志と認めん! 今すぐ首を斬り落としてやるわ!」


 カンエー寺に到着した美心は騒々しい現場に困惑していた。

 

(何なんだ? 母と男を探したいのにやけに人が多いな。しかも刀を持った野武士ばかり……ま、まさか乱◯!? シリウス達もそろそろ追いついてきそうだし争いになったら母が危ない)


 美心は水属性陰陽術で作り出した日本刀を手に取る。


(第七境地の水属性陰陽術『水刃』。もとが水だから幼女の俺でも軽く振れるほど軽い。後は姿を晒して誰かに見られるわけにはいかないから……)


 シュルル……


 美心の全身を覆うように水の膜が張り巡らせる。


「くくく、良い出来だ。今、他人から俺は幼女に見えていない。少年の姿ならこの時間に歩いていても何もおかしくは無い。よし、行くか」


「誰だ!?」


「ヒャッハー!」


 ズバババ!


 一瞬の間に数人の浪人を肉塊に変える美心。

 相変わらず刀が肉を裂く感覚に酔いしれてしまい暴走する彼女は互いに争いあっている浪士達のところに突撃する。


「ヒャッハ―――!」


「何者だ此奴!?」


「樹さん、ぜ……全滅しちまった。もう終わりだよ。計画はしっぱ……」


 ザンッ


「弱音を吐いてばかりの者などいらぬ。貴様……幕府の者か? まさか御庭番……」


「違うわよ。我らは星々の庭園……」


 いつの間にか樹の背後にシリウス達が立ちはだかる。


「ふふっ、盟主ハート様はすべての悪を統べる者」


「すべての悪を……統べる!?」


 樹はその言葉の意味が理解できなかった。

 唯一理解できたこと、それは正義のために世直しをしようと倒幕計画をたてたことを悪と言われたこと。

 彼は怒りに打ち震え美心に斬りかかる。


「ふ……ふざけるなぁぁぁ! これは正義の……」


 ザンッ


「遅いな……」


 眼にも止まらない美心の連撃。

 彼が手に持つ刀は粉々に砕け散った。


「ば……馬鹿な! 名刀ナガショネコテチュだぞ!? それを粉微塵にしてしまうとは……」


「ハート様、流石ッス!」


「ん、ん……」


「実に見事でござる」


「ふっ、当然さ。全知全能の神に出来ぬことなどない」


「拙もあの境地まで至りたいでありんす」


「わちも」


「貴方はもう終わりなのよ。盟主ハートに目を付けられた時点でね……」


 七星の賛美に異様な空気を感じた樹は勢いよく開山堂を飛び出し闇夜のオーエドに消えていった。


「ハート様、後はお任せください」


「ヤツのことはよい。放っておけ……」


「また下らない悪事を働く者は許せないッス」


「是非、魔誅を」


 天誅が天に代わって罰を下すことに対し、魔王に代わって人間に罰を下すことを魔誅と称した。

 星々の庭園内だけで使われている造語である。


「くくく、あのような小者には魔誅さえももったいない」


「分かりました。すべてはハート様のご命令のままに……」


 ヒュッ


 七星全員が姿を消すと美心は母を探す。

 すんなりと発見できたが母は意識を失っていた。


「すぅすぅ……うーん、あなたぁ……もっとぉ」


「夢の中で何やってんだ? まったく、こっちは心配していたっていうのに呑気なことだ」


 大量の水をかけ母を起こす美心。

 

「ん……んん……けほけほ。あら? ここは……」


「うわぁぁぁん、母ぁ!」


「美心、どうして……」


「美代、そこに居るのか?」


「あなた……ええっと……私はどうしてこんなところに?」


 八兵衛はシリウスの見事な誘導で近くに来ていた。

 親子三人揃って長屋へ戻るが弟の宗次郎を放っていたことを父に叱られたのは言うまでもない。


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