第1-3話
パァァァン!
ドサッ……
「なっ……」
「へっ?」
「ん~~! んん~~!」
「な、何奴!?」
もう一人の侍が美心の方に振り向き刀を抜刀する。
「ど……どどど……何処だ? 早く出てこい! 出てこなければこの小娘を……」
(うぉぉぉ、雑魚っぽいセリフきた――! よしっ、こういう時のために考えていたテンプレ展開を試してみるか)
ガサッガサガサ
「ひぃぃ!」
草むらの中を素早く動き侍の背後に回ろうとする美心。
侍は何者かの気配に恐れ慄く。
「そ、そこかぁ!」
侍が草むらを斬りつけるが手応えがない。
「俺の名はハート! 悪を屠り正義の鉄槌を食らわすブレイブ! 悪党め! 何の罪もない娘を今すぐ解放しろ!」
美心はノリノリに侍の背後にある大岩の上から叫ぶ。
自身が赤子であることを完全に忘れ堂々と姿を現してみせたのだ。
「無礼だとっ……自ら無礼を名乗るとは……貴様、魑魅魍魎の類か!? 河童……いや座敷童子!?」
侍は錯覚する。
人語を話し奇妙な妖術を使い仲間の頭を吹き飛ばすほどの相手。
しかも赤い月に照り返され侍には美心の瞳が赤く輝いて見えた。
他人から見れば妖怪そのものであった。
「今日は赤い月の日……このような日には魑魅魍魎が現世に顕現しやすいと聞いたことがあるが……まさか史実だったとは! 拙者も武士の端くれ、相手が魑魅魍魎であろうとただでは殺られぬ!」
(おぉ、流石は侍。悪党でも心根は立派な武士ってとこか。さて、勢いよく姿を現してみたものの……どうするか)
美心は周囲を見渡しもう一人の侍の亡骸に気付いた。
(倒れている侍の刀を取れば、こいつと真正面から戦える。俺は奴の一太刀を難なく躱し格好良く突きで奴の心臓を貫く……んほぉ、これだ!)
美心はこの激アツ展開に興奮し思考がまともではない。
「推して参る!」
「ヒャッハ――!」←クレイジーな0歳児
侍が美心に斬りかかると美心は大きく跳び上がり侍の頭上を踏み台にし飛び越す。
そして、倒した侍の刀を手に取る。
「おもっ!」
ここで美心の予想外の出来事が起こる。
刀が重く赤子の小さな手では振るうことが出来なかったのだ。
「座敷童子よ……これまでだな」
侍が美心の前に立ち唐竹割りの型を取る。
(やばっ……このままでは殺られ……る? 生まれて3ヶ月で俺の命は終わるのか!?)
「きぇぇぇい!」
侍は躊躇うこと無く刀を振り下ろす。
「こんな雑魚に殺られてたまるかぁぁぁ!」
美心は刀から手を離し倒した侍が身に着けていた脇差しの柄を持ち身体をひねらせ遠心力で抜刀させる。
鞘の中で加速された脇差しはまさに抜刀術の域に達しており……。
ザンッ!
「がはっ!」
「アッハァ!」←クレイジーな0歳児
脇差しが侍の右脇腹を切り裂く。
「流石は魑魅魍魎! だが一矢報いるまでは……死なぬ!」
侍は刺さった刀を抜かせまいと片手で美心の刀を握り最後の抵抗をする。
「かけまくもかしこみ式神様の御前に我は所望する。我の眼前の敵を焼き払え、火炎斬!」
不可思議な呪文を説くと侍の刀が大きく燃え上がる。
それを見ていた美心は疑問の1つが解決し歓喜した。
(付与魔法!? 母が炊事で使っているような弱い火ではない……確定だ! この世界には攻撃魔法が存在する! んほぉ、良いぞ良いぞ良いぞ!)
侍は再度、美心に向かって燃えた刀を大きく振り下ろす。
「チェストォォォ!」
(瀕死な状態にも関わらず攻撃とは……だが、刀だけで倒せなかった場合はコレだ!)
「死に晒せや、ゴルァァァ!」←クレイジーな0歳児
美心は侍に刺さった脇差しを捻りながら力強く引っこ抜く。
ドシャァァァ!
「ぐぼはぁ! ば……馬鹿……な……」
美心が引き抜いたことにより大量の出血とともに臓器を傷付け侍はその場に倒れ込んでしまった。
「……ゴフッ! こ、殺さないでくれぇ」
ゾクゾクゾクッ!
(何、この快感!? 人を斬るのって……最高!)
美心は知ってしまった。
肉に刃が通り自分の思うがままに肉の間を滑る太刀筋の味を。
悪党を成敗した達成感を。
そして彼女の身に襲い来る新たに肉を斬りたい欲望。
(これは癖になる! もっと悪党居ないかな? なんで2人しか居ないんだよ? 仕方がない。この死にかけで刀を扱う練習でもするか)
もはや狂気の沙汰である。
だが、美心の脳内には異世界人の悪党=ゴミクズ以下という認識しか無い。
ドスッ!
「ぎゃぁ!」
ズバッ!
「ぐぅっ!」
今にも死に絶えそうな侍を何度も何度も斬ったり刺したりして刀の感触を身に刻んでいく。
「ウヒャヒャヒャ、最高オブザ最高!」←サイコパスな0歳児
「ん~~、んん~~!」
ドサッ
あまりの惨劇に町娘は気を失い倒れてしまった。
もちろん美心は町娘救出イベントのことなど完全に忘れ無我夢中で侍を切り刻んでいく。
そして数時間後、疲れて眠くなった美心は縛られた町娘を河原に放置したまま帰路に着いた。
チュンチュンチュチュン
翌朝……。
「く――すぴ――」
「美代、大変なことが起こった」
「どうしたの?」
「近くの河原でお侍さんの惨殺された遺体が発見された。しかも2人だ。まるで地獄のような光景だったよ。もしかしたら革命派の仕業かもしれない。危険だから今日は出ないでおこう」
「なんてこと……物騒な日が続くわね。美心も気を付けないと」
「大丈夫だ。2人は何としても儂が守って見せる」
美心は気持ちよく眠っている。
彼女はまだ知らない。
この動乱の時代に生まれ落ちたことを。
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