薄汚いもの

Mizuki lui

第1話

 好きという感覚を抱かせてくれた最初の他人、か……。


 胸の中にスンとした思いを届けて響き戻るのを待つと、朧気な記憶の輪郭に、笑顔で光るあの大きな瞳が重なってゆく。


ミギワ・コウキ


 その子の名前は、音でしか手繰り寄せることができない。まだ幼かった僕にとって、漢字の名前を記憶することなど到底できなかったし、その意味もなかったから。


 でも、それで十分。20年以上たった今でも、その音の羅列と同じか、もしくは似ている名前の持ち主の知り合いはいないし、そういう人物が仮に現れたとしても、それほど長い間紐づけられてきた彼の存在と混同することなどありえない。


 コウキと出会ったのは、当時通っていた保育園だった。ある朝、送迎バスから降りてネンチョウ組の部屋に行くと、幼馴染みのコーちゃんの隣に彼がいた。


 大きくてつぶらな瞳が、はにかんだ笑顔とよく似合っていた。普段の生活の中で人のそういう表情を見たのはそれが初めてだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る