多弁な少年と饒舌な令嬢

森林梢

多弁な少年と饒舌な令嬢


「集合時刻の二〇分前。待ち人が放課後の教室に現れた。白銀の髪を靡かせる美少女だ。かつてロンドンで鑑賞したミロのヴィーナスにも匹敵する美貌を有しており」

「うるさい。あと、ミロのヴィーナスが展示されているのはパリよ」

「知識をひけらかしながら、彼女は深々と嘆息する。流石は学年首席の才媛だ。一凡俗に過ぎない僕とは格が違う」

「三〇秒だけ黙ってくれる?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………これで満足か? とばかりに、僕は彼女に薄目を向けた」

「もういいわ。好きに喋りなさい」

「呆れて首を横に振る美少女。名前は東郷瀬奈」

「誰に向けて喋っているの?」

「皮肉交じりの問い。その意図を掴みかねた。およそ八年にも及ぶディスコミュニケーションと、一人称小説に偏った読書を幾千幾万と繰り返した結果、斯様かよう有様ありさまになってしまったことは、彼女も周知しているはず。とすれば、彼女の目的は何か? 僕の奇怪さを改めて浮き彫りとすることで、嘲りの対象にしたいのだろうか? だとすれば性悪が過ぎるぞ」

「違うわ」

「瀬奈が容疑を否認した。本来、容疑者の供述をそれそのまま受け入れることは愚の骨頂である。だがしかし、疑念を深めることが出来ない。感情が邪魔をする」

「……」

「何故ならば、僕は彼女を、心の底から愛しているからだ」

「……馬鹿なの?」

「顔を真っ赤に染めて、吐き捨てる東郷」

「そ、染めてなんかいないわ。嘘を言うのは止めなさい」

「嘘ではない。僕は本気で君を愛しているのだ。と口にするのは憚られた」

「……一時間ほど黙っていなさい」


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