第3話 感情
それからさらに月日は流れ、気付けばあの時から10年以上も経っていた。好意を抱くことは稀にあってもそれを行動に移す訳でもなく、恋愛などとはもはや疎遠になり洗脳の仕方でさえも忘れた頃、年齢が大人になったという事だけで、何となく普通に戻れている気がした。
セクシャルマイノリティが世に広まり、誰もが生きやすい時代とまでなっていた。時間を持て余していた私は、暇潰し程度の軽い気持ちで、同性愛者が集う出会い系のアプリをスマホに入れた。真剣交際を望まれる時もあれば、一回限りの出会いを求める人にも出会った。いい話し相手が出来ても、会いたいと言われれば面倒臭さが勝ち、それとない理由を付けて断った。そろそろ辞めようかと思った時、私は彼女と出会った。可笑しな名前であったばかりに面白半分で絡んだが、ふざけているのか真剣なのか上手く掴めない彼女に、最初から返事を悩まされた。好意を寄せているのかと思えば、近づかれないようにとどこか警戒しているような反応を見せたり、とにかくよく分からない態度に妙に惹かれて興味を持った。ふざけた延長なのか、本当なのかもきっとお互いが分からないまま付き合うことにもなった。酔った勢いで連絡先を聞き、少し近付いたやり取りが始まった。距離が縮まるとより掴めない態度は進行したが、ある日彼女から電話が来た。電話嫌いだった私は、顔も知らない相手との電話に唾を飲むほど緊張したのを覚えている。初めて聞く彼女の声に何故か落ち着き、それと同時に今まで感じた事のない感情が湧いた。年下とは思えない落ち着き様と包容力、会った事のない声だけの彼女に色気さえも感じた。関係がはっきり分からないままやり取りは続き、二ヶ月程経った頃ようやく会うこととなった。
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