もうCVはないよ
吸血鬼は太陽が弱点である。
吸血鬼は銀製の武器が弱点である。
吸血鬼は大蒜が弱点である。
吸血鬼は……。
「何だ、それは……っ!?」
弱点の悉くを挙げ連ねていったところで、結局のところ不死者は別種の不死者の血や牙が何よりの弱点である事に変わりない。
「見て分からないか? アイスピックだよ」
先程のウルスを殺した物と変わらない、アイスピック。本来ならばバーで氷を削る程度の役割しか持たない様な、そんな道具。
「ならば、何故っ!」
私の血が解ける、と吸血鬼は叫ぶ。
答えは単純。
このアイスピックはルイセントの身体から生み出されている。
「少々特殊なんだ。それを馬鹿正直にお前に教えるつもりはない」
手数を増やす。
アイスピック程度では対応出来ない程に。だが、精密性に欠ける。だから、ルイセントには当たらない。
「オイオイオイ!! ルイセントッ!」
正面からくる血液の鞭にアイスピックを突き刺し、解けさせる。
「何だ、お前も見て分からないのか。ビリー」
声の主であるイシュリアの隣に立ったルイセントは呆れた様子で言う。
「被害を広げ……ヒッ!?」
イシュリアに向かってきた鞭をアイスピックを投げ飛ばし決壊させる。
「貰った!」
武器を失った。
これが好機だと、攻撃をルイセントに集中させる。
「別に僕の武器はそれだけだと言った覚えはない」
またしても血液は解ける。
煌めく一閃。
「こっちの方がやり易いしな」
次いで取り出されたのはサバイバルナイフだった。シャンデリアの光を刃が反射する。
先程アイスピックを投げたのは、別になくなっても困らないからだ。
「ビリー、それは護身用にやる。お前に死なれたら困るからな」
「心許なさすぎるだろ!」
イシュリアの叫びをどこ吹く風と無視しながら、ルイセントは鞭の嵐の中をナイフで切り分けながら進む。
障害にもなっていない。
「ち、近づくなァアアアアッ!!!」
どれ程に激しくとも。
嵐が避けて行くというのなら、激しさに意味はない。強さもない。脅威たり得ない。
「よし分かった。僕は近づかない」
ルイセントは歩みを止める。
「は……?」
呆けた声。
信じられなかった。殺したかったのではないのか。だが、これは吸血鬼である男にとっては幸運だった。
死が遠ざかる。
トスン。
男の耳にそんな音が響いた。
「あ、れ……?」
思考が回らない。
「僕は近づいていない。近づかなくてもお前は殺せるからな」
男とルイセントの間に障害はない。
ならば、ナイフが全てを切り裂く。投擲してしまえば殺せたのだ。
「ビリー、これでお前も満足だろ?」
死者は三人だ。
最初の被害者、眷属にさせられたウルス、そして吸血鬼。被害は三人以外にない。
「お、あ……お、おう」
この処理はどうなる事か。
「さて、帰るぞ」
他にここで暴れようとする者も居ない。
不死者が居たとしてルイセントの恐ろしさを目の当たりにしたのだから。
「待て」
ルイセントは足を止める。
モーリスの呼び止める声に振り返る。
「怪我はなかったかい、モーリス老」
心配する様に。
今回立ち止まったのは緊急性の高い不死者が排除できたからだ。
「殺しをしておきながら、帰れると思っているのか?」
「事情説明か。どうにもビリーに聞く限りでは、マリノシティじゃマトモに警察も機能してないと思っていた」
イシュリアは抗議の目を向けるがルイセントは彼を見ていない。これでは抗議のしようもない、と諦めて溜息を吐き出した。
「まあ、警察なら僕も融通が利く。心配は要らないさ」
筋違いだ。
モーリスはルイセントの事を心配などしていない。
「僕は……最高無二の怪物殺しでね」
心底気に入らないという様な顔をして。
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