主人公のCVを妄想しながら書いた話
ヘイ
CV:◯◯◯◯
マリノシティに住むモノ達は欠落している。何かと特定するのも難しい程、個々人によってバラバラに。
『良いかいルイス……君は私を殺すんだ』
ニヤつく顔。
何時迄も記憶にこびりつくある男の顔。
『君ならそれが出来る。君は世界で最高無二の不死者殺しだ』
幼年の頃の思い出にルイセント・モリアーティは浸っていた。
「お前は、ここに居るんだな」
草臥れたシャツを着た二十代半ばの彼はボサボサの髪を掻き上げ、半ばで折れた女神の像を見上げる。
「死にたいなら殺してやるさ」
ルイセントがマリノシティの地図を開こうと鞄に手をかけた瞬間に、肩から荷が降りた様に軽くなる。
「……フム。盗まれたな」
他人事の様にひったくりを眺めながらルイセントは呟いた。
「…………いや、落ち着いてる場合か! アレには僕の仕事道具が入ってるんだぞ!」
ルイセントの荷物は全て一纏めだ。
彼が肩から掛けていた金属製の鞄。中には財布や商売道具が入っている。
「────カ、ハハハ」
想像以上に重たい鞄を持ちながら男は走る。マリノシティの輩は頭がおかしい。それが彼、イシュリア・ビリーの所感である。
だから、こうしてマリノシティに踏み込んだ新参者、或いは単なる来訪者からならば安全に盗める。
何より、彼は────。
「君、それ返してくれないかな?」
イシュリアは驚いた様に隣を見る。
振り切るつもりで走った。この街の中でもイシュリアは足に自信があった。
それに、危険を感じ取る能力に自信があった。それがこの街で左手の指二本を犠牲にして手にした、彼の特殊な嗅覚。
「…………違うな」
この男、ルイセントは違う。
悍ましい程の邪悪は感じない。狂気的な善意も滲んではいない。何も感じられない無味無臭。
だから、危険もない。
脅威とも思えない。
「何が違う?」
「オマエからはオレは恐怖を感じない」
殺されるかもしれないという圧力を。
身に突き刺さる様な鋭い殺意を。
「へぇ。ただの盗人が随分と語るな。恐怖か。恐怖と言うがな」
音もなく。
ルイセントはイシュリアに接近する。そして右手の指先で鎖骨の辺りに触れ。
「君が恐怖するのは単なる獣だ。鰐やライオンに手を噛まれたと言う様な……だが、僕は人間だ」
だから。
「徒らに殺気を振り撒くほど、愚になったつもりもない」
理性ある人間であるのならば、殺意は誰彼構わず散らす物でないと分かっている。人間とは狡猾なのだ。
殺人計画を立てられるほどに、理性というものを持ち合わせている。
「さて。僕はここから君の左肩を破壊できる。それは君が僕に恐怖を感じてないからだ」
だから、ここまでの接近を許した。
「怪我をしたくないなら大人しく鞄を返してもらえないか?」
ただ、恐怖を感じないから。
イシュリアも逃げ出さない。
「……君は獣だったか」
弾丸に撃ち抜かれた様にイシュリアの身体が吹き飛んだ。
「悪いが、これは返してもらう。それと……」
鞄を拾い上げながら。
「別に、僕に君の肩を破壊するつもりもない。これに懲りたら相手は選ぶと良い」
注告を一つ。
「何故、だ……」
「ん?」
「アンタからは、ニオイはしなかった!」
叫ぶ様なイシュリアの問いかけにルイセントは鞄の土埃を払ってから答える。
「臭い、か……そうだ、なら君」
今度は手を差し伸べた。
「僕の手伝いをしてくれないか? こんな盗人をするくらいならね」
「何だ、それは……」
「単なる人探し……いや、怪物探しさ」
イシュリアは警戒し、手を取らない。
「何だ。手伝いをしてくれるというのなら臭いの話も教えてあげようと思ったんだけどね」
ルイセントの右足がイシュリアの左膝の皿に乗せられる。
「……それと、君の商売道具も無事で済ませても良いと思ったんだが」
少しずつ、ルイセントの右足に力が込められていく。答えを渋っていたイシュリアが遂に屈したのか。
「分かった! 手伝う!」
「そうか。快い返事嬉しく思うよ。勿論報酬は払うとも」
パッ、と足を離す。
「それで臭いの話だったか」
ルイセントはイシュリアの鼻先を指差し。
「……違和感を感じるほどの無臭。そんな奴には気をつけると良い」
僕の様に、ね。
「違和感、だと?」
「……ま、分かる様になった時に分かれば良いんだよ」
さて、マリノシティを案内してくれ。
ルイセントがイシュリアの手を取り立ち上がらせる。
「僕はルイセント・モリアーティ。君は?」
「オレはイシュリア・ビリーだ」
「よろしく頼むよ、ビリー」
ルイセントは正面からイシュリアの瞳を捉えて告げる。
相変わらず、彼からは自らの命を脅かす様な恐怖を感じない。本能的に。
それがおかしい事であるとイシュリアも分かっている。矛盾が生じているのだ。
本能と理性で。
「…………」
彼に逆らってはならない、と理性が言う。
先程の事もある。
気にする必要のない男だ、と本能が告げている。
先程の事があったと言うのに。
その矛盾に理解が及ばない。
「……ああ」
それが何よりも恐ろしいとイシュリアは感じてしまったのだ。
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