第2話 〜日々の豊かさ〜
人間との生活は、俺にとって退屈の少ない面白い日常だった。
まだ小さい子分と共に行動しているだけで面白かった。
子分は日々の生活に新たな発見と面倒を同時にもたらしてくれた。
ご主人達は、俺に新しい世界を見せてくれた。
そんな日々を過ごしていくと一日一日があっという間に過ぎていく。
夏になると決まってご主人達は、子分と俺も連れてどこか遠くに連れて行ってくれた。
水が沢山ある場所や潮の香りがする場所、緑が多く木々が生い茂る場所など様々な場所へ俺を連れて行ってくれた。
子分が遊んでて水の中に沈んで戻ってこない時、子分を俺が助けた事もあった。
その時から子分は水が苦手になってしまったようだった。
俺が成長していく中で自由に憧れて家出したこともあったな。
人間の力を借りずに俺は、俺自身だけで生きていけるとそう思っていたんだ。
でも決してそうじゃなかった……。
俺自身でなんでも出来ると思っていたけどそれは単なる驕りだった。
外に世界に出て初めて知った厳しさと寂しさ。
道端で出会った人間に俺は助けてもらった。
食べ物を与えてもらって寝床まで用意してくれた。
その時に俺は今までしていた生活と何ら変わっていない事に気づいた。
ただ場所と人間が違うだけで俺自身の生活は何も変わっていない事に気づいた。
道端で出会った人間の手助けを得て、無事に皆が待つ家に帰る事が出来た。
家に帰ることが出来て、俺自身ホッとしていた。
自由になりたくて飛び出したはずなのに、俺はここの家がいつの間にか自分が居るべき場所、帰る場所だとこの時自覚した。
「コロどう!? 似合ってる」
そう言いながら子分は、俺の前でクルクルと回っていた。
ヒラヒラした服装を俺に見せびらかしている。
子分はついこの間まで黄色い帽子と赤い箱を背負っていたのだが、今日からは違った服装で毎朝出かけるようだった。
「優子も今日から中学生ね! いってらっしゃい」
「お母さん! コロ! いってきま〜す」
子分は元気よく家から飛び出していった。
「時間が経つってのは早いものねコロ」
ご主人はそう言いながら俺の頭を撫でてくれた。
「最近の散歩は私とばっかでごめんねコロ」
「優子は吹奏楽部入って練習があるし、お父さんは仕事があるからあんまり相手出来ないのよ」
外に連れ出してくれたご主人は、しゃがみながら俺にそう話しかけていた。
家に戻ると俺は横になって食事を待つ。ご主人はいい匂いと音を漂わせていると、子分ともう一人のご主人が帰ってくる。
全員が揃って食事をする。
俺はすぐに食べ終わってしまうが、その後にご主人達と子分の声を聞きながらゆっくりするのが日課になっていた。
しばらくすると子分が俺の隣に来て四角い形をしたものを見つめ始める。
その四角い物から音が出ていて子分は楽しそうに見つめている。
俺はそんな子分の横が定位置になっていた。
お腹もいっぱいになりウトウトしていると、家の上の方から甲高い音が流れてくる。最近は毎日聞こえていた。
「優子のやつまた練習しているのか? 近所迷惑にならないように気をつけないとな」
「なんだか吹奏楽部が楽しいそうですよ?」
「そうなのか学校が楽しそうで良かった良かった」
「うるせ〜な〜、子分のせいで寝れね〜よホントに!」
そんな穏やかな日常というのは、あっという間に季節と時間を運んでいった。
「優子はまた勉強か?」
「ええ、頑張ってるみたいです。吹奏楽部の強い高校に行きたいって……」
「夕食にも顔出さないから心配だけど大丈夫そうなのか?」
「成績的にはギリギリのラインみたいです」
「そうかぁ……」
最近はめっきり子分の顔を見る事も少なくなった。なんだか知らないけど何かに打ち込んでいるようだった。
あれだけ毎日毎日聞こえていた音色も今は聞こえてこない。
もっと重要な事ができたのだろう。
まあそのおかげで俺は和やかに寝ることが出来るようになった。
本当に平和そのものだった。
「お父さん! お母さんこれ見て! 高校受かった受かったよ!」
「本当か!? 良かったな優子!!」
「優子には珍しく勉強頑張ってたもんね」
「お母さんそれどういう意味よ!」
「でも受かって良かったわね」
「うん!」
「コロ! 私高校受かったんだよ! 見て見て!」
やけに興奮した声で子分は俺に話しかけてきた。
やかましいと思いつつ、その嬉しそうな
子分だけじゃなくご主人達も一緒に嬉しくなるような事があったのだと俺は感じていた。
「まあ良かったな子分」
「コロもお祝いしてくれてるの? ありがとう!」
今日はやけに豪勢な食事を用意してくれた。
寒かった季節が過ぎ去り、春が訪れた。
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