同窓会

連喜

第1話

 東京から新幹線で数駅行った、とある駅に俺は立っていた。

 スキー客と思しき楽し気な集団があちこちに見られ、一人で降り立った自分には引け目しか感じなかった。

 そこは俺が大嫌いなリゾートだった。


 駅前に雪はなかった。全然雰囲気のない、つまらない街だった。地球温暖化で雪不足だから、ゲレンデも人工降雪機で雪を補っているらしい。

 

 最後にその駅に行ったのは十年以上前だ。俺の大嫌いな場所だ。


 ***


 俺は学生時代、親しい友達がいなかった。しかし、サークルには入っていた。楽しくはないがやめられなかった。やめると居場所がなくなるだけでなく、就職活動の情報も入って来なくなる。


 俺が大学生だった頃、友達はサークルで作るものだった。サークルっていうのは同好会みたいなもので、建前上は趣味のスポーツ、音楽、旅行、勉強など似たような好みの人が集まって作る団体だ。一緒に行動することが多いから仲良くなりやすい。同じ大学の学生だけでなく、他の学校の子もいるにはいたが、その場合も女子だけだ。理由は男が出会いを求めているからである。インカレと言って大学に関係なく入れるサークルもあるが、俺は社交的じゃないからそういう所に参加したことはない。


 俺の時代はサークルがほぼ必須だった。入っていないと、コミュ力が低く、視野が狭い人間とみなされて、就職にも不利にと言われていた。

 しかし、俺は若い頃、その狭い人間関係が嫌で仕方がなかった。そこにいる奴らはみな経済的には恵まれていて、苦労知らずの人間ばかりだった。付属から上がってきた連中などは誰もが自分をすごいと思っていて、悟りを開いたとでも言ったような口ぶりだった。


 男はうちの大学に通っているだけでモテたし、コミュ障の俺でさえ何人にも告白されていた。その子たちの本命は付属上がりの家柄のいい層だったろうけど、そっちが無理だとわかると俺に順番が回ってきた。実家が金持ちで就職先にも困らないとなると、女は選び放題だった。女も馬鹿でそういう男をちやほやしていた。やつらはどんどん勘違いして性格が悪くなり、クズのような人間が出来上がって行った。


 しかし、いけ好かない人間たちだが彼らが困ることはなかった。似たような人間とだけ付き合っていけば、一生何不自由なく暮らせたからだ。


 俺は彼らとは壁を感じていた。海外に別荘があったり、夏休みは留学、持ち物はハイブランド、自宅にお手伝いさんがいて当たり前の環境。小学校から私立に通っていて、俺とは話がまったく合わなかった。たまに遊びに誘われるが、馬鹿にされているだけのような気がしていた。


 卒業後は、みなコネで大企業に就職して行った。


 大学を出てからは、その人たちと数回会ったけれど、そのうち俺は呼ばれなくなった。


 そんな同級生から同窓会の案内をもらったのは、ひと月前のことだった。最初はどうやって知ったのかわからなかったが、話しているうちに共通の知人がいることがわかった。

「あーあ」見つかっちまった。俺は思った。

 また、俺のみじめな境遇を餌に楽しい酒を飲むつもりに違ない。昔からそうだった。


「江田の親って何やってる人?」「高校どこ?」「家賃いくら」「仕送りいくらもらってんの?」「バイト時給いくら?」「自分で学費払ってんの?」


 俺がバイトをしているのは、実家が貧乏だからと言われていた。別にそれでもいいのだが、それだけ蔑まれていたのである。俺は他大の子にはもてていたから、それを支えに大学生活を頑張っていた。同じ大学の学生は全員嫌いだった。田舎出身で語学留学もできない俺を見下している感じがした。


 人間というのもは、マウントを取ると幸福なホルモンが出て楽しくなるらしい。今回もきっと俺のことを馬鹿にするために呼んだに違いない。


 俺はしがないサラリーマンで子会社の管理職に収まって何とか体裁を保っているくらいで、独身で子どももいなかった。


 幹事の男は、父親の会社を継いだだけの無能な二代目社長だ。大した会社でもないのに、潰れないで今も続いている。


 その場に来る誰か一人くらいは〇んでいるか、不幸になっていてくれと俺は心から思っていた。俺には同級生が何人来るかは知らされていなかった。俺は誰とも連絡を取っていなくて、みんながどうしているかも知らなかった。


 そんなに嫌なら行かなければいいのにと思うだろうけど、今回参加したのには理由があった。大した理由ではないけど、ただ知りたいことがあった。


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