新年の挨拶に

@k_motoharu

第1話

1月1日。

年が明け、世間は正月ムードで賑わっていた。


「ボス、これポストに入ってました」


俺は大量の年賀状を机の上に置く。

この光景も、いつからかこの家の恒例行事になっていた。


「あぁ、ありがとうサガミ」


正月特番を見ていたボスは視線をテレビから年賀状に移し、一枚一枚丁寧に見ていく。


「…今年は何枚出したんですか?」

「えーっと…462枚かな」

「…去年300枚くらいだった気がするんですけど」

「あぁ、増えたんだよ。新入生とか、新しく入った先生にも出したし」

「…白蛇に来た全員にですか?」

「あはは、いやいや。住所を聞かれた人だけだよ。ちゃんと返さないと失礼だろう?」


100人近くの人から住所を聞かれたのだろうか。

ボスの人脈の広さは計り知れない。


「……おや、これはサガミ宛のじゃないかい?」


大量に届いた年賀状の中から数枚のハガキを抜き取り、俺に渡す。


「…俺に…?」

「そういえば君、ちゃんと年賀状書いたのかい?書いてるところ見たことないけど」

「いや別に…お礼なら学校行った時に言えばいいですし」

「ダメだよサガミ、ちゃんともらった人には返さないと失礼だ。それに、君が律儀にお礼を言いに行くとは思えない」

「……。」


そう言って、ボスは困り顔で笑う。

そして、戸棚から何かを取り出した。


「はいこれ、余った年賀状。デザインとか特にこだわりないなら、これ使っていいよ」


干支のイラストが描かれた絵ハガキ。

筆で書かれている"謹賀新年"の文字は、ボスの手書きだろうか?


「それで、年賀状は誰から来たんだい?」

「…都古と…燈也と…サハラからです」

「燈也くんって部隊の子だっけ?」

「はい。部隊長の」


俺は休み前に『年賀状を書きたいから』と、燈也から住所を聞かれていたのを思い出した。


「…あいつは兎も角、なんでサハラから…?」

「サハラくんには住所教えてないのかい?」

「教えた覚えは…ないです」


あいつは何を考えているのか、今一分からない。

住所の入手経路も不明だ。

年明けには「ドッキリ大成功!」とか、意味の分からないことを言い出すのだろう。


「皆はどんな年賀状なんだい?」


俺は再びボスにハガキを渡す。


「都古さんは…あはは、可愛いイラストだね」

「……。」

「『明けましておめでとう~!お餅食べすぎてない?初詣は行った?また学校で会おうね~!今年もよろしくね~!』だって」

「…別に読み上げなくていいです」


俺は都古からの年賀状を受け取る。


「サガミってそんなにお餅好きなのかい?」

「…別に嫌いではないです。でも、小さい頃は正月にあいつの家でよくお餅食べてました」

「それは初耳だねぇ…。そしたら後でお雑煮食べようか」


そう言ってボスはふふふと笑う。

そして、残りの二枚に目を移す。


「燈也くんは……あ、僕が出した年賀状と少し似ているね。この子とはセンスが合いそうだ」

「……。」

「『明けましておめでとう。昨年は世話になったな。今年もよろしく』だって」

「…そうですか」


俺は燈也の年賀状を受け取る。


「サハラくんのは……猫?」


ハガキには、猫の写真が大きく載せられていた。


「『あけおめ!!!!』……ふふ、面白い子だね」

「…まぁ…あいつらしいといえば、あいつらしいです」


俺はサハラの年賀状を受け取る。


「それにしても、君に3枚も年賀状が届くなんてねぇ。楽しく学校生活を送れているみたいで安心したよ」

「…別にそういうわけじゃ…」

「さ、次はサガミが送る番だよ。早くお返事書いてあげなさい」


そう言って、ボスはボールペンを渡す。

俺は年賀状に書かれている住所をハガキに書き写す。


「…じゃあ出してきます」

「こらこらこら待ちなさい。ちゃんと書いたのかい?」

「…書きました」

「……ちょっと見せて」


俺は書いた年賀状をボスに渡す。


「住所書いただけじゃないか」

「…いや、別に書くこと特にないですし…」

「ちゃんと皆メッセージ書いてくれてるんだから、少しくらい書いたらどうだい?」

「……。」


俺は再び椅子に座り、年賀状と向き合う。

しかし、何も書くことが浮かばない。


「もしかして君…あんまり年賀状書いたことないのかい?まぁ書いてるイメージもあまりないけれど…」

「……。」

「まぁ…そんなに深く考える必要はないさ。サハラくんの年賀状を見てごらんよ。これはちょっと極端かもしれないけれど、簡単な文でいいんだよ」

「…。……分かりました」


しばらく考え、俺はペンを走らせる。


「…これでいいですか?」


できた年賀状をボスに渡す。


「…ふふ、君らしくていいんじゃないかな」


年賀状を返しながら、ボスは嬉しそうに笑う。


「外はとても寒いから、行くならちゃんと暖かくして行くんだよ」

「…はい」


俺はハンガーに掛けてあるコートを羽織り、家を出る。

近所の家々には門松やしめ飾り等が飾られており、正月の雰囲気が漂っていた。

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