魔法の分野でも
あれから、イリーゼと一緒にリビングに移動した俺は特に何かをするでもなく、何故かイリーゼと隣同士にソファに座っていた。
いや、本当にどういう状況なんだよ、これ。……イリーゼの方は分からないけど、少なくとも俺は妹相手だし、気まずくなんて無いんだけど、状況はおかしいだろ。
「お兄様? どこに行くのですか?」
そう思いつつも、何も言わずにソファを立ち上がると、イリーゼがそう聞いてきた。
「休憩も出来たし、このままボケーッとしてるのも暇だから、魔力操作の練度を上げる為の魔道具でも持ってこようと思ってな」
だから、俺はイリーゼに向かってそう言って返した。
ただ、俺は自分でそう言いながら、俺の中で疑問が生まれてくるのを感じた。
だってさ、イリーゼってあの魔道具、使ったことないよな?
そう。無いはずなんだよ。
なのに、今更だけど、なんであんなに魔力操作が上手いんだ? ……まさかとは思うけど、別に操作されてないのか? いや、そんなわけないだろ。
もし仮にあれが魔力の暴走なんだとしたら、俺はとっくに大怪我を負っているはずだし、ありえない。
……え? だったら、尚更どこで学んだんだ?
「お兄様? 魔道具を取りに行くのでは無いのですか?」
「えっ? あ、あぁ、取ってくるよ」
「ちゃんと、戻ってきてくださいね?」
「あ、当たり前だろ」
魔道具っていうのはその人本人の魔力が登録されていないと、使うことは出来ない。
だから、イリーゼがこっそりあの魔道具を使っていた、なんてことはありえないんだよ。
ということは、もう答えなんて一つしかない。
ただでさえ俺より有能だとは思ってたんだけど、魔法の分野でも俺より有能……どころか、天才なのかよ。
……ほんとに俺、なんでイリーゼをいじめられてたんだ? ……妹をいじめてたってこと自体ありえない事だったんだけど、もう物理的に俺がイリーゼをいじめられていた理由が分からなくなってきたぞ。
「これだな」
そう思いつつも、魔道具を取りに来た俺は、そう呟きつつ何の変哲もないような指輪型の魔道具を指に嵌めた。
……このままリビングに戻らない……ってのはまずいよな。
もう実力でもイリーゼには勝てないって分かったんだから、戻らないなんて選択肢、取れるはずがない。
……いじめていたことへの復讐をされることはもう仕方ないとして、少しでも、その復讐の内容を和らげなくちゃならないしな。……魔法の実力でも負けてるんだから。どんな目にあわされるか、分かったものじゃないし。
……プレゼントは気に入って貰えたみたいだし、かなり好感度は上がってきてるとは思うけどな。
「戻ったよ、イリーゼ」
そんなことを思いながら、リビングに戻った俺はそう言った。
そしてそのまま、イリーゼの隣……には腰を下ろさず、正面に腰を下ろした。
さっきまでがおかしかったんだよ。これが普通だし、問題ないだろ。
「お兄様? こちらが空いていますよ?」
俺が対面に座ったのを見たイリーゼは、不思議そうにそう言ってきた。
……そんなことを言うのなら、俺が今座ってるところだって空いてただろ。
「分かってるけど、俺はこっちでいいよ」
「でしたら、私がそちらに移動致しますね」
「え」
俺が何かを言う前に、イリーゼは立ち上がって、俺の隣に腰を下ろしてきた。
いや、なんでわざわざ移動してまで俺の隣なんかに座ってきてるんだよ。
……まぁ、取り敢えず、今はもう気にしないようにしよう。
俺は今から魔力操作の練習をするんだからな。そっちに集中しないと。
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