第2話 プロになる為に一番必要なモノ


 プロテニスプレイヤーの天辺を掴み取るまでに一番必要なもの。


 ――それは金である。


 生まれ変わってから3年目の誕生日。

 つまり、本日は1990年の7月7日。


 現在、日本は空前絶後の好景気に真っ只中。誰もがそれを実感していた。が、この時点で株価は既に最高値を過ぎ去り、あとはただ下がるのみ、だということを俺は知っている。


 これも転生の特典なのかもしれないが、今世の家庭は裕福である。まあしかし、それもバブル崩壊の前の泡沫の夢かもしれないが。


 何とかバブル崩壊の被害を免れることが出来ぬものかと日々、頭を悩ませていた。


 ぶちゃっけ、テニスでプロを目指すには金がかかる。特にプロなりたてのフューチャーズなんかは海外の僻地なんかも飛び回り、ポイントをコツコツと稼いでいかなければならないらしい。

 飛行機代だけでも、一般のご家庭では賄えないだろう。賞金もそのレベルだとたかが知れているしな。


 それに理想を言えば、自前のテニスコートが欲しい。それも、日本に普及していたオムニコートではなく、グランドスラムで使用されるハード、クレイ、グラスの三種類だ。


 まあ、つまり金はいくらあってもいいのである。


 俺が今住んでいる家も、まあまあデカい。だが、

父方の爺の家は比較にならないほどバカでかい。


 父はどうやら、爺さんの三男坊らしくあの規模の家にしては比較的自由に育てられたらしい。


 で、父は若い頃、母とデキ婚して俺が一番目の孫であることから爺さんには猫可愛がりされている。


 それこそ、俺のおねだりならなんでも聞いてくれるくらいにはなー……前世の記憶がある分、羞恥心が凄まじく、今までおねだりなどしたこともなかった。


 つまり、ここが切り時である。俺は覚悟を決めた。


「ねー、じぃじ……欲しいものがあるの!」


「お、おお! なんだい? なんでも言っておくれー」


 案の定、これまでものを欲しがったことの無い俺のおねだりは効果抜群だったようだ。


「お家にテニスコートがほしいの!」


 こうして、俺の羞恥心と引き換えに、プロを目指す環境のひとつを手に入れたのだった。

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