第31話 昼食会 ②
あっという間の出来事だった。
武器類は家来を含め本人も持ち込めないようにしていたため、陽誠は自分の口の中に袋に入れた毒をふくみ、直前で口内の袋を歯で破き明蘭に飲ませたのだ。
毒は即効性なのか、二人とも意識がない。
「医者を呼べ!解毒剤があれば持ってこさせろ!」
泰誠の声に周囲の側近がバタバタと散って行った。
「陽誠。なぜ、こんなことを・・・。」
雪花が茫然と陽誠の身体に縋り付いた。
苦悶の表情を浮かべあぶら汗を流す明蘭とは対照的に、陽誠は青白い顔に表情の変化は無く、すでにこと切れているのが傍目にもわかる状態だった。
「メイ!」
桂申と狼牙も明蘭に駆け寄ってきた。
狼牙は青ざめながらつぶやいた。
「この匂い、央斎の毒だよ。全身の筋肉が動かなくなって、息が出来なくなって死ぬやつだ。」
「毒の名前はわかるか?名前がわかれば対処できるかもしれない。」
泰誠の言葉に狼牙は首を横に振った。
「僕は名前はわからないけど、わかっても解毒薬はないと思う。速攻で殺すための劇薬だって言ってたから。」
狼牙が泣きそうな顔で答えた。
「そんな!」
そこにいる誰もが絶望に包まれた瞬間、明蘭の身体が小刻みにけいれんし始めた。
「メイ!苦しいのか?大丈夫か?」
桂申が明蘭を抱き上げようとしたその時、明蘭の身体が淡く金色に光始めた。
皆が目をみはる中、彼女の身体が変化し始め、手足が伸び、髪の毛の長さもどんどん長くなっていった。
まとっていた衣装は破け、ところどころを覆うだけとなり、少女から大人の女性へと変貌を遂げていく。
周囲の者たちは、この一連の不可思議な現象をなすすべもなく茫然と眺めていた。
そこに突然一人の男が降り立ち、倒れている明蘭の上に自分の羽織っていた上着をかけ抱き上げた。
「竜王陛下!」
黄金色の髪と瞳、長身で均整のとれた身体に、完璧な美貌、芸術作品の粋を集めたかのような男の突然の登場に皆言葉を失った。
「猛毒でやられた細胞を、身体を成長させ入れ替えることで排除しているようだな。北寧で大怪我をした時も同じことが起こっていた。」
無表情のまま竜王・龍将が淡々と述べた。
「明蘭は助かるのですか?」
明誠が悲愴な顔で尋ねた。
龍将は頷いた。
「恐らくは大丈夫だろう。だが、意識を取り戻すにはしばらく時間がかかるだろうし、こいつの部屋に連れて行くぞ。」
それだけ言い残して、龍将は明蘭を抱えたままその場から消えるようにいなくなってしまった。
後に残された人々の表情は様々だった。
竜王の言葉に安堵の息をもらす者、その恐るべき覇気と存在感に身動きできないほど身体を硬直させる者、何が起こったのかわからず茫然としている者。
そんな中いち早く立ち直った泰誠と頼誠は、竜王を追うべく部屋を出て行った。
一方、明蘭の部屋へ移動した龍将は彼女を寝台に降ろすと、目を閉じ眠る明蘭の顔をじっと見た。
「香蘭・・・。」
この国の初代皇帝でかつて自分の最愛の妻だった女性。
よく似てるな・・・。
明蘭が子供姿の時は、娘の真蘭にそっくりだと思ったが・・・。
そんなことを思いながら、寝台の傍にたたずみ彼女を眺めていた。
ふと彼女に触れたくなり手を伸ばしかけた時。
トントン
扉をたたく音が聞こえた。
「誰だ?」
「泰誠です。頼誠も一緒にいます。」
「入れ。」
竜王の許可が出たので二人が明蘭の部屋へと入ってきた。
二人は寝台に横たわる明蘭の姿を見てホッとした表情を浮かべた。
「顔色も悪くなさそうですね。良かった・・・。」
安心したらじっと眺める余裕が出来たのか、二人は明蘭を眺めて感心したように言った。
「実年齢くらいまで成長されましたね。それにしても皇宮の奥にある香蘭さまの肖像画によく似ておられる。」
「そうだな。私も驚いている。」
竜王は明蘭を見つめながら表情を変えずに同意した。
泰誠はチラッと竜王を見て、ふと思った。
かつての最愛の妻と瓜二つの容姿のこの女性を見て、彼は今何を思い感じているんだろうと。
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