第23話 東都州 東江 ならず者の襲撃①

 「追手か?もう?」

 桂申が驚いたように声をあげた。


 「私の仙術で多少なら衝撃を抑えられるから窓から飛び降りよう。」

 ここは宿の四階だったが、男達が扉から入ってくる前に窓から飛び降りて逃げようと提案した。

 「そうだな。あと央斎の屋敷からかっぱらったヤツがあるだろう。護身用の唐辛子の粉とか。俺が最後に粉をまいてから降りるから、まずメイから降りろ。」 

 「私が降りて、下から狼牙を受け止めるよ。」

 「頼むぞ。じゃあ、もう行け。」


 明蘭は窓の下をのぞきこみ、そこからエイっと飛び降りた。仙術で身体を浮かし、地面につく足の衝撃を和らげた。


 明蘭が飛び降りた直後。


 トントン


 扉をノックする音がした。中から反応しないと、外から声が聞こえた。

 「留守か?」

 「いや。宿に三人で入っていくのは確認したし、あれから外には出ていないはずだ。」

 「寝ているのか?」

 「だとしたら、やりやすくてちょうどいい。扉をけ破るか。」

 ドンドンと強く扉をたたく音がした後、体当たりのような音がして扉がガタガタ揺らされた。


 「狼牙、早く行け!」

 桂申はあごで、狼牙を窓の方へうながした。

 「う・・・ん。」

 狼牙は窓の下を見て、高さに怖気づいているようだ。


 明蘭が下から声をかけた。

 「大丈夫だよ。私が絶対受け止めるから。」

 その言葉に狼牙は意を決したように目をつぶって飛び降りた。

 仙術で風を起こし衝撃を和らげ、明蘭は狼牙の身体を受け止めた。一緒にしりもちをついてしまったが、二人とも無事だった。


 狼牙が飛び降りた瞬間

 

 バリッと鍵の壊れる音と共に乱暴に扉が開けられた。

 「一人しかいないぞ。」

 「隠れているんじゃないか?」

 大きな男が4人、ドカドカと部屋の中へ入ってきた。

 遠慮なく布団をめくったり、衣装棚を開けたりしている。

 男全員が部屋に入ったのを確認してから、桂申は息を止め目をつぶって唐辛子の粉が入った袋を男たちの方にぶちまけた。そのまま男たちに背を向け、窓から飛び降りた。


 下で待っていた明蘭が風の仙術をかけたのもあるが、もともと運動神経がいいのか桂申は軽やかに着地した。

 それを狼牙が尊敬の眼差しで見ていたが・・・・。

 「あっちー。首筋がヒリヒリする!痛ってぇー。」

 とうがらしの粉を後ろにあびたのか首筋をこすりながらヒーヒー言っており、いまいちきまっていなかった・・・。

 「よし、みんな無事降りたな。ここから逃げるぞ。」

 桂申の号令で、三人は宿を離れた。


 一方、唐辛子の粉を浴びた男たちの一人が這う這うの体で一階に降りてきた。

 「兄貴、やつら窓から飛び降りて下に逃げました。」

 宿の入り口の辺りで待機していたひと際人相の悪い大男は顔をしかめた。

 「何だと!四人もいて何やってんだよ。四階から飛び降りて無事なのか?どっちに行った?追うぞ!」

 慌てて宿の裏手に回ったところで、三人が郊外の方に走っていくのが遠目に見えた。


 「さっきこの辺りに警備隊がうろついていたし、町中だと人目に付きやすいから人気のないところで仕留めるぞ。」

 「兄貴・・・。ゲホゲホ・・。唐辛子の粉で目がよく見えません・・。喉もイガイガ・・ゲホ」

 「くそ、使えねえな。じゃあ俺だけで追いかける。他の奴らも早くここをずらかれよ。」

 賊の頭の男はそれだけ言い捨て、明蘭たちが逃げた方へと消えていった。


 ハアハアハア


 人や建物がまばらになり、三人は町はずれまでやってきた。

 「今日は森の中で過ごすか?」

 森の入り口にそびえたつ樫の大木まで来たところで桂申が立ち止まった。

 「そうしようか。」

 明蘭が返答したその時。


 「それは無理だな。その木がお前たちの墓になるからな。」

 頬に大きな刀傷の入った人相の悪い大男が大きな剣を手にしながら、こちらに近づいてきた。

 桂申がかばうように少し前に出た。狼牙は震えながら明蘭にしがみついた。


 「さっきはよくも子分たちをひどい目に合わせてくれたな。俺が仇をうってやるぜ。」

 男はニヤニヤしながらさらに数歩こちらに向かってくる。

 「悪く思うなよ。お前らを殺ったら俺らの普段の稼ぎ1年分の報酬がもらえるんだ。俺様の役に立って死ねることをありがたく思えよ!」

 

 明蘭は風の仙術で男を食い止めようとしたが、剣を振り上げながらこちらに突進してくる男は、大きな体に似合わず素早い動きだった。


 間に合わない!

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