第19話 間幕 道中の宿で
南陽を出て三人と一羽になり、にぎやかな旅路となった。
狼牙は小さいことに加えて、ずっと屋敷内で生活していたり、薬をもられたりした影響か体力がなかったため、移動する速度は二人の時よりもゆっくりになった。しかし、しんどい時も文句も言わず、無理してでも我慢しようとするので、年長の二人が気を利かせて休憩をとるという感じだった。しかし、あどけない子供が加わったことで、和気あいあいとした雰囲気となり、明蘭も前より旅を楽しめるようになっていた。
「今日はこの町で泊まろう。」
桂申の言葉に二人は頷いた。
いつも宿では一部屋だけ借りて、寝台を2台入れてもらっていた。一つは桂申一人が使い、もう一つを明蘭と狼牙で一緒に使っていた。
その日も、移動の疲れからか狼牙は晩御飯を食べるとすぐにコテンと寝てしまった。
「まだ小さいガキだしなあ。身体もこんなに細くて頼りないのに、毎日頑張って歩いているよな。」
桂申が狼牙の頭を撫でながら小さな声で明蘭に話しかけてきた。
「そうだね。だけど、お母さんが亡くなったのも少し前みたいだし、美怜さんのこともあって精神的にかなりつらいだろうし、忘れようと無理してるような気もするよね。」
「まあなあ。過去は変えられないし、俺たちでこれからしっかりフォローしてやるしかないよな。」
そんな会話の後、片付けと明日の準備をして二人とも床についた。
夜中、明蘭は狼牙のうなされる声で目を覚ました。
「うっ、う~ん。ううう・・・。あ、止めて、いやだ。ああ・・・母さん・・・。」
見ると狼牙は目をつむったまま、身体を強張らせ、眉間にしわを寄せている。目尻には涙も浮かんでいる。
「狼牙、狼牙。一回起きて。」
明蘭は狼牙を抱き寄せ背中をトントンしてやる。
「お母さん・・・」
狼牙が明蘭に抱き着いてくる。明蘭はたまらなくなって、狼牙をギュウっと抱きしめ、耳元に語りかけた。
「狼牙。大丈夫だよ。私も桂申もいるから。ずっと一緒にいてあげるから。」
「メイ・・・?」
狼牙が目が覚めたのか、ぼんやりした声で名前を呼ぶ。
「うん。メイだよ。」
明蘭はもう一度、ギュウっと狼牙を抱きしめた。狼牙は自分がうなされていたことを覚えていないのか、くすぐったそうに身をよじった。
「どうしたの?メイ?」
クスクス笑いながら明蘭に身体を押し付けてくる狼牙を今度は軽く抱きしめた。
「ううん。何でもないよ。狼牙が可愛いから、ギュウってしたくなったの。起こしてごめんね。まだ夜中だからもう少し寝ようね。」
狼牙は素直に頷き、程なくしてスースーという寝息を立てだした。
狼牙が再び寝たのを見て明蘭がホッと息をついた時、隣の寝台からこちらを見ていた桂申と目が合った。
「寝たのか?」
明蘭は無言で頷いた。
「こんなに小さい子供なのに。可哀そうだよな。この国は戦争もなくて全体的には平和で安定しているけど、俺や小鈴みたいな孤児や台関にいた貧民層の人達や狼牙みたいな奴隷とか、取りこぼされているヤツもけっこういるんだよな。上の人間は、そんな底辺のことまで気にしないからな。」
桂申の言葉は明蘭の中にじんわりと染み込んでいった。
旅の始めは、竜安に行ってこれからのことを考えようと思っていたのが、旅をする中でこの国でやりたいことが少しずつみえてきた気がした。
「桂申。私はいつか国を変えたいと思ってる。ううん。絶対、変えてみせる。」
桂申は明蘭を見て笑った。
「なんか不思議なんだよな。メイが言うとなんか出来る気がする。」
「桂申も手伝ってくれる?」
「あはは。りょーかい。手伝う、手伝う。さあ、メイも子供なんだから、もう寝ろ。身長伸びないぞ。」
冗談と思ったのか笑いながら軽く受け流されてしまったことを不満に思いながら明蘭も目を閉じた。
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