第13話 西都州 洛済 新しい仲間

 西永をでて幾つか小さな町を超えて行く中で、だんだんと二人の距離は縮まっていった。


 桂申は、一緒に旅をしだしてからとても優しかった。もともと面倒見のいい性格だったようで亡くなった妹と年齢も近そうな明蘭を妹のように可愛がり、かいがいしく世話を焼いてくれた。

 明蘭は少年姿のまま旅を続け、対外的には明翔の名を名のっていた。

 桂申とは兄弟で竜安にいる父を訪ねるため旅をしているという設定で過ごしていた。

 

 桂申には本名の明蘭を名乗ったが、いざという時に間違えないよう”明翔”と呼ぶよう頼んだ。

 「じゃあ、メイって呼ぶ。男の偽名で呼ぶのは嫌だし、兄弟だったら愛称で呼んだりするだろ。」


 桂申は明るく人懐っこい性格だった。旅先で困ったことがあっても、周りの人に聞いたり頼んだりするのがとても上手で、その話術で色々解決できることが多かった。


 明蘭はとりたてて引っ込み事案というわけではなかったが、狭い村の中で成長したので桂申の軽やかな行動はまぶしく見えた。


 「おっちゃん、俺ら兄弟で皇都にいる親に会いにいくため旅してるんだけど弟はちっさいし路銀に限りがあるしさ、このイモまけてくんないかな。まけるの難しかったら、かわりにこのトマト付けてくれたら嬉しいかも。」

 市場での買い物は言い値で買ったことはなく、その取引技術に明蘭は内心舌を巻いていた。

 

 実年齢は25歳の私より6歳も下なのに、なんてたくましい・・・。

 天性のものもあるだろうが、若くても生きていくためにそういう知恵や技術を身につけていかざるを得なかったんだろうなと思うと少し切なくなった。



 二人で市場を歩いているとふと装飾品の店が目に入った。店頭に白い鳥の羽で作った円形のお守りが沢山ぶら下げられていた。


 あれ、うちにもあったな。

 明蘭は天竜村の自宅を思い出していた。流行病が広がった時、あれを家の入口にかけておくと病除けになるといわれてどの家にもかけられていたのだ。


 「なに?メイ、あれが気になるのか?」

 「ううん。あのお守りが昔うちにもあったなあと思って。」

 「村のことを思い出したのか?軽い物だし、欲しかったら買ってやろうか?」

 「いいよ。お金ないのに。」

 「そのことなんだけど、あまりカツカツなのもどうかと思ってさ。南都に着いたらこれを売ろうかと思ってるんだけど。」


 桂申は首にひもでぶら下げた金のリングをシャツの胸元から引き出した。


 「それ小鈴の!」

 「そうなんだけど、元はと言えばババアから貰ったものだし換金して旅の足しにしてもいいかなと思ってさ。」

 「売ったらダメだよ。絶対だめ。最後の持ち主は小鈴なんだから、元なんて関係ないよ。」

 旅に出るため荷物は厳選する必要があり、小鈴の形見がそのリングしかないことを明蘭は知っていた。

 桂申がプレゼントしてから三年間、小鈴がずっと身につけていたと聞いている。

 「でも、金は要るだろ?」

 「私も働くし、食事だって少しけずたって大丈夫だから。それ売ったら絶交だよ!」


 明蘭の剣幕に桂申は苦笑した。

 「わかったよ。そうだよな。兄ちゃんが悪かった。小鈴も旅に連れてって欲しいよな。りょーかい。りょーかい。」

 軽い口調だったが、明蘭の言葉が嬉しかったのか桂申の表情も嬉しそうだった。

 そんなこんなで旅を続け、もうすぐ西都州と南都州の境界近くの町に着く予定だ。


 南都州の西端に位置し、西都州との州境いの辺りにある洛済らくさいは緑豊かなきれいな町だった。


 「あーあ。俺もあんなクソな町にずっとしがみつかないで、さっさとこっちに引っ越しとけばよかったよ。キレイな空気に水も豊富で、人も親切だし。ここなら小鈴の病気も少しは良くなったかもしれなかったのに。」

 公園のベンチで屋台で買った昼ご飯を食べながら桂申がぼやいていた。


 「本当に人も穏やかで、落ち着いたいい町だよね。治める上の人の違いでここまで町の雰囲気とかも変わるんだね。」

 そんな会話をしながら串焼きの鶏肉にかぶりついた時、一羽の青緑色の小鳥が二人の前に舞い降りてきた。孔雀のような光沢のある綺麗な鳥である。少し首を傾けながらこちらを見つめだした。


 「んっ?なんだあ。同族を食うなって抗議してんのか?」

 桂申が言うと、鳥はそれこそ抗議するように「チチチッ」と鳴きながら舞い上がり明蘭の肩にとまった。

 「人懐っこい鳥だね。誰かに飼われているのかな?」

 「それっぽいな。まあそのうちどこかに飛んでいくだろう。冷めるし早く串焼き食おうぜ。」


 桂申の予想に反して小鳥はそこが自分の巣であるかのように、ずっと明蘭の肩にとまっていた。

 「どうしよう?」

 昼食も食べ終わってしまい明蘭が少し困ったように言うと、桂申が人差し指で小鳥をつついて追い払おうとした。

 「痛ってえ。」

 小鳥はくちばしで桂申の指をつつき返し、フンッというように首を横に向けた。

「このクソ鳥。焼き鳥にしてやる!」

 桂申が鳥を捕まえようとするとバタバタと羽ばたき上方へ飛んだかと思いきや、すぐ降りてきて明蘭の反対側の肩にとまった。


 「親鶏とはぐれたのかも。私を親と思ってるのかな。可哀そうだし一緒に連れて行ってあげてもいいかな?」

 明蘭に上目使いで頼まれた桂申は、グヌヌッと口をかみつつ「仕方ないな。」と答えた。


 「いいか。今度俺に攻撃してきたら、本当に焼き鳥だぞ!」

 小鳥に指を突き出し、桂申は宣言した。


 小鳥は那雉なちと呼ぶことになった。

 「由来とかあるのか?」

 桂申が聞いてきたが、明蘭は答えられなかった。小鳥の顔を見ていたらふと頭に浮かんできたのだ。

 「なち。」

 呼ぶと、自分の名前と理解しているのか「チチ。」と声をあげ寄ってくる。

 「なんかむかつくけど、賢い鳥だな。」

 桂申にそう言われると、どうだという風に那雉があごをあげた。


 桂申と那雉は気が合わなさそうで、実は仲がいいんじゃないかなと明蘭は密かに思った。 

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