第5話 学園(アカデミー)
山奥から小鳥のさえずり声が耳元に聞こえ、見上げると日本では珍しく全体がレンガできた校舎が建っている。普通の学校よりは小規模なサイズだ。デイビスから借りた白装束を見に纏い、俺はいざ年季の入った門をくぐる。
「うぉ、なんか思ったより田舎だな」
正直な感想だった。
「異能は基本的に世間からはみ出した存在でな。基本的には異質で、社会から危険視されるため、特殊な教育が必要だからこそ、この
「ふーん。ちなみに今年の一年の人数は何人ですか?」
「計3人」
「少なっ!」
少子高齢化の時代とはいえ、中学の時までクラスに20人はいたのに。異能ってよっぽど珍しいんだな。俺はそう心の中で納得した。
「ホレ、あそこにいるのが、君の数少ないクラスメイト達だ」
「おお、ほんとだ…って、山羽⁉︎」
古びた校舎に上がるための二段綴りの階段。そこに腰掛けていたのは、間違いなく俺のダチの山羽だった。
そして、それだけじゃない。もう一人。俺がマイクロとネグロールと対峙した時に、連れ去ろうとしていた紫髪の女の子もいるではないか。
「あ、あの時はどうも。って俺のこと覚えてないか。その制服、まさか
紫髪の女の子に喋りかけてみる。俺のほうをチラッと見た。しかし、すぐにプイッと横を向かれてしまった。
何かまずいこと言ったかな?
そう思って俺は焦ってしまう。
「まったく、桜木はそんなんだからファッションセンスはいいのにモテないんだよ。こういう時は怪我はなかったとか心配してあげるのが正解なんだぜ」
山羽がたまらず口を挟んだ。
「なんだよ。分かってるよ。てか、山羽はこの子が
「ああ、一ヶ月前にな。基本は世間の高校入試が終わる頃には、
「じゃあ、あの電車爆発の事件の時にはもうお互い知り合いだったのか?」
くそー、先に抜け駆けされたじゃないか。
「-ちょっと、うるさいわよ。アンタたち」
俺と山羽の話を間を裂くように、凛とした声が耳に入ってきた。それは俺が今まで出会ってきた人の中で、最も氷のように冷えた口調だと感じてしまった。
「よし、では自己紹介はそれぐらいにして、この
「あのーデイビス先生」
「どうした?」
「自己紹介ってまだ、この子の名前も知らないのですが?」
俺は紫髪の女の子にを指差してそう言った。
「
デイビスは雪華の代わりと言わんばかりに頭を下げた。対する雪華は、俺たちのほうを見ようともしない。
俺は雪華にモヤモヤとした感情を抱きつつも、デイビスに続き校舎の中に足を踏み入れた。
「…!」
古く汚れた外見からは、想像できないほど高級感の溢れる廊下と壁が続いている。さらには、照明は全て高そうな値段のシャンデリアで、至る所に芸術的とも言える絵画が飾られていた。呆気に取られた俺は、右往左往して、絵画を覗き見る。そこに書かれた女性と目が合い、思わず見惚れてしまう。
「へーそういうのが、桜木のタイプなんだ。以外だね」
後ろから山羽がポケットに手を突っ込んだまま、声を掛ける。
「なっ、別にちげーよ。オヤジが絵画好きだったんでね。家に不思議な絵がたくさん飾ってあったんだよ。なんかもらって来たとか言ってだけど、まさか、異能使っての仕事の報酬で手に入れてたのか…」
「じゃあ、桜木には、絵画に描かれた意味っていうのが分かるのか?」
「うん…? まったく分からん」
俺があまりにも自信満々に答えたせいか、山羽は、あっけに取られていた。
そんな俺たちをよそにデイビスは、次々と学内を紹介していく。中学と仕組みは変わっていなかったが、中身は違った。なんというか、全体的に中学よりグレードアップしている。そんな気がした。
しばらくすると、高い校舎に四方を囲まれた中庭に出た。ヒラヒラと近くの木から舞い落ちる桜の葉が、絨毯のように敷き詰めている。一人の清掃員が散った桜の花びらをほうきで集めている。
「おや、そこにいるのは新入生かな?」
俺たち三人とデイビスの姿に気づいた清掃員が振り返って言った。青い帽子をかぶっている優しそうなおじいちゃんだった。
「はい、もちろんそうです! そして俺がこの
「ほっほっほっ…、元気でなによりじゃわ。のう。デイビス」
「ええ…そうですね。校長」
「えっ…! 校長ってこの人が?」
思わず驚いて、目を丸くした。校長ってもっと偉く構えているものだと思ってきた。どこからどう見ても清掃員にしか見えなかった。
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